総務委員会の視察2日目は神奈川県小田原市を訪れました。小田原市の「ふるさと納税」の取り組みを学ぶためです。これまでの取り組み、そして直面している課題を語ってくださり、「ふるさと納税」の制度自体の課題も見えてきました。

小田原市は当初、歴史あるまちの風格として「ふるさと納税」の返礼品競争に手を出すべきではないとのスタンスでしたが、小田原市民が市外の自治体に寄付したことによる市民税減収が年間7,000万円発生したことに危機感をおぼえ「物でお金を釣るようなものではなく、小田原市のPRになるものとして開始しよう」と考えたそうです。都市セールスやシティプロモーションを行う広報公聴課が担当しています。

小田原市へ寄付を受けた場合の使途として、総合計画の8つの政策+「市長にお任せ」の9種類を定めています。総合計画の8つの政策とは、「子育て・教育」「福祉・医療」「歴史・文化」「暮らしと防災・防犯」「地域経済」「自然環境」「都市基盤」「市民自治・地域運営」です。小田原市への寄付で一番多いのが「市長にお任せ」で全体の50%、次に「子育て・教育」の20%、続いて「福祉・医療」の8%。返礼品選定のルールは、⑴小田原市の特産品または名産品⑵小田原市の魅力ある商品、体験またはサービス⑶その他、市長が適当と認めたものの要件を満たしていることです。

開始にあたり2回説明会を行い、約60事業者が参加。当初60品目からスタートし、現在は60事業者以上300種類にまで増やしています。

小田原市への寄付額
平成27年度 1億8,000万円
平成28年度 17億5,000万円
平成29年度 7億6,000万円

平成28年度に17億5,000万円に急増した大きな要因は、小田原市のまちを紹介したアプリを開発した事業者がiPadをつけて30万円の寄付の返礼品として出したところ、iPadを入手できる点が人気を呼んだことです。総務省から指導が入り、iPadは出せなくなり、平成29年度は7億6,000万円まで約10億円分も減っています。現在の人気の品は、干物、梅干し、足柄牛、かんきつ類、かまぼこ、ヒルトン小田原の体験などです。

平成28年度に寄付金17億5,000万円入っていますが、約10億円は経費(返礼品8,75億円、システム使用料・手数料1億円、臨時職員人件費など)で、約7億円のプラスになっています。同じ年、小田原市民が市外の自治体に寄付したことによる市民税減収は1億8,800万円でした。長久手市は財政力のある普通交付税の不交付団体なので市民税減収分はそのままなくってしまいますが、普通交付税の交付団体である小田原市は75%分が交付税措置されて戻ってくるそうです。

人気の返礼品を持っている事業者は数千万円の売り上げがあるが、それは一部の事業者にとどまり、小田原市全体の産業振興にはつながっていないそうです。果物の収穫が間に合わず代替品で対応したところ「話が違う」「詐欺ではないか」との苦情が寄せられたということです。また、現在職員4人で対応しているが、本来の業務をしながら「ふるさと納税」の事務がかなり多くなっていることが課題だそうです。確定申告不要の「ワンストップ特例制度」が導入されたことで、寄付した人が小田原市へ書類を送ってくるので、その内容を小田原市で入力し、寄付金控除を受けられるようにするために再び小田原市から寄付をした人の住む自治体へ書類を送るため、膨大な事務量増加になっています。「ワンストップ特例制度」を利用するためには、寄付した人が小田原市へマイナンバーを送る必要があるので、マイナンバーの管理にも気を使っています。確定申告すると一部の所得税が還付になり国税が減る仕組みですが、「ワンストップ特例制度」は国税が減らずに市民税が減る仕組みだそうです。

小田原市は返礼品を寄付額の50%の額で行ってきたところ、総務省から30%以下に落とすよう指導が入りましたが、事業者からの反発が強く現在35%で行っています。花は40%で行い、寄付額104万円の「毎週届く旬のお花」も人気があるそうです。病院や法律事務所など、受付に花を飾っている経営者が選んでいるようです。花を扱っているのは1事業者のみ。 


小田原市の職員さんの前を向いて取り組む姿は、高く評価したいと思います。しかし、納税額が多いお金持ちは自己負担2,000円でさまざまな返礼品を手に入れることができる「ふるさと納税」の制度は、お金持ち優遇の施策であり、私は疑問を感じます。受ける寄付額が増えれば増えるほど自治体の事務量やマイナンバーの管理が増加し、その負担を市が背負うことも課題です。総務省からの指導が入り、市や事業者がせっかく本腰を入れて取り組み始めたことを、是正しなければならない点も、制度設計に不備があると感じました。
 小田原市では、寄付額を新規事業に充当せず、一般財源に入れているということですが、前年度より一気に10億円分も寄付額が減ってしまうなど、次年度以降の状況が不明瞭であるため、市の財政運営の面からも課題があると思います。長久手市は寄付がない分、事務量も少なくて済んでいるということが分かりました。例えばお花のようにニーズがある返礼品を出せば、返礼品競争に乗ることは可能だと思いますが、長久手市のためにはどちらへ進むべきか、私はもうしばらく考えたいと思います。