5月5日、名古屋市内で行われた前川喜平氏の講演会へ行きました。38年間文部科学省で仕事をしてきた経験からのお話はとても深い内容で、感動しました。

どのような家庭に生まれても、外国籍であっても、日本に暮らす子どもたちが等しく教育を受けられる教育環境の整備を常に念頭に置いて仕事に取り組んできた前川氏が、文部科学省の事務次官にまで昇進して日本の教育行政を進めてきたことを私は嬉しく思いました。

最初に、「日本国憲法」と「教育基本法」は一体で出来上がっているというお話から。「日本国憲法」の公布から施行の間に「教育基本法」が制定されています。「教育基本法」の前文には「我々日本国民は、たゆまぬ努力によって築いてきた民主的で文化的な国家を更に発展させるとともに、世界の平和と人類の福祉の向上に貢献することを願うものである。我々は、この理想を実現するため、個人の尊厳を重んじ、真理と正義を希求し、公共の精神を尊び、豊かな人間性と創造性を備えた人間の育成を期するとともに、伝統を継承し、新しい文化の創造を目指す教育を推進する。ここに、我々は、日本国憲法の精神にのっとり、我が国の未来を切り拓く教育の基本を確立し、その振興を図るため、この法律を制定する。」とあります。

「日本国憲法」の理想は、日本国民のみならず人類の理想であり、基本的人権を守る、平和を守る、国民主権の3つは決して変えてはならないとの前川氏の主張に、私も納得。日本の憲法をアメリカからの押し付けと言う人がいるが、日本国憲法第25条(生存権)、第26条(教育を受ける権利)はアメリカの憲法にはない内容であり、押し付けとは言えないのでは?憲法で認められた権利(社会権、自由権、参政権、平等権)を行使するには、やはり教育の力が必要とのお話でした。

第一次安倍政権当時の文部科学大臣は伊吹氏で、伊吹氏は安倍総理の言うことをすべて聞き入れず伊吹氏の判断を入れて教育行政を進めていたそうですが、第二次安倍政権では官邸の意向がそのまま反映されているそうです。伊吹氏の時代にも道徳教育の導入の議論がなされ、伊吹氏の考えていた道徳教育は近江商人の「三方よし」のような人々が昔から大切にしている心であり、安倍総理が考えているものとは違ったとのことです。かつては自民党にも野中広務さんのような政治家など、さまざまな視点を持つ政治家がいたが、今は違うようです。

2022年度からは高校で「近現代の日本史と世界史(縄文、メソポタミア文明などから始まり近現代が不十分で自分の立ち位置が分かりにくいため)」「地理総合(戦争を生むのはお互いの無知が要因で外国の社会、文化、歴史を学ぶため)」「公共(道徳教育)」が導入されるそうです。選挙権や国民投票の権利が18才に引き下げられたが、高校3年生は政治活動に関わる際には高校へ届け出をしなければならない制度をとっている県があり、そのようなことをするなら自分で考え、自分で判断することになっていないのではないかとのお話もありました。国は、公立高校無償化に踏み切りましたが、のちに所得制限を復活し、現在は80%の家庭が無償、20%の家庭が授業料を支払っている状態で、無償化ならば一律無償とすることが必要ではないかとのお話もありました。また、教育資金を一括で孫に贈与すると1500万円までは贈与税がかからないという制度は、お金持ちをさらに有利にする制度であり、前川氏も異論を唱えたそうです。すべて書ききれませんが、今の日本の教育行政の課題がたくさん見えてきました。ユーモアたっぷりのとても魅力的な前川氏でした。

第二部は、前川氏と「ブラックバイト」の名づけ親である中京大学教授大内裕和氏の対談。対談の90分間も大変興味深い内容でした。