昨日の世田谷区の視察報告に続き、今日は東京都日野市の発達・教育支援センターエールを訪れたときの私さとうゆみのレポートをアップします。
 
 2016年8月7日、東京都日野市の発達・教育支援センターエールを視察した。日野市の公立小中学校全教師と教育委員会が明星大学の小貫悟教授とともに作成した「通常学級での特別支援教育のスタンダード」という本は10刷目に入っている。現場の教師がうまくいった事例を書き、明星大学の小貫悟教授がまとめた本であり、当初は日野市の教員のために作ったものであったが、今では全国の小学校の数に相当する冊数が売れている。

日野市の特別支援教育は、学校教育基本構想に基づき平成17年度から10年間進められてきた。特に平成17年に「発達障害者支援法」が施行されたことで、日野市は市がやらなければならないことに真面目に取り組んだということである。市が積極的に予算をつけたことや、平成17年から明星大学の小貫悟教授がスーパーバイザーとなったことも大きい。

日野市の発達・教育支援センターエールは、市長部局の健康福祉部発達支援課と教育委員会教育部教育支援課の両方が管轄しており、福祉部門と教育部門が一体となって支援をしている。例えば1才6カ月健診で言葉がでないときは保健師が「エールに相談しませんか?」と声をかけ、支援が必要な場合はこの段階から就学支援まで連携がなされている。0歳から18歳までの情報を記載する「かしの木シート」はシステム化されており、円滑に情報共有できるようになっている。

今回は主に小中学校における通常学級での特別支援について学んだ。学習障害(LD)、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、高機能自閉症の児童生徒は、全体の6.5%いると考えられている。チェックシートで2項目ぐらいにのみ丸がついている場合は含んでいないため、実際は6.5%より多いと推測される。

日野市において、学習障害(LD)、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、高機能自閉症の児童生徒はすべて通常学級で過ごしている。発達障害の子にとって良いものは他の子どもたちにとっても良いものであるという教育におけるユニバーサルデザインを積極的に取り入れている。例えば発達障害がある場合はちょっとした音でも気になる傾向があるため、テニスボールを机と椅子にはめて音を軽減させることで、発達障害の子は落ち着くことができ、他の子どもたちも静かな環境で勉強ができるといったことである。今では市が予算をつけ、音が出ない机と椅子をすべての学校に買い替えている。

日野市の「通常学級での特別支援教育のスタンダード」は、「包み込むモデル」によって整理されている。この子に何をしてあげようかは個別的配慮であり、包み込むモデルとは学級の環境、学校の環境、地域の環境を整えておき、最後に個別的配慮という考え方である。発達障害の子どもは刺激に弱いため、授業中は黒板の横に貼ってある掲示物をカーテンで覆っている。ほうきなどの掃除道具は番号をつけて何をどこに返すのか明確にすることで、発達障害の子にも、他のすべての子にも分かりやすいため、担任が1年間学級の子どもたちに注意しなくてもよくなるメリットがある。

全国の学校で校内委員会が組織されているが、機能していないことが多いため、日野市では校内委員会の役割を明記して機能するようにしている。「校内委員会の1年間月間マニュアル」という本も出版している。

個別的配慮の1つとして、リソースルームが設置されている。平成19年にモデル校1校から開始し、平成28年度には全小学校17校と5中学校に拡大された。リソースルームへは、1週間に1回だけ行くと決まっており、校内委員会がリソースルームへ通った方がよいとする児童生徒を決めている。リソースルームでは、これから自分の学級で習うことの予習を行い、授業が理解できるようになることで自信がつく。平成25年度の日野市の調査では、小学校でリソースルームに通った子のうち、中学校で不登校になった子は0人であったということである。

日々の授業では、教師が「10分だけドリルをしますよ」と見通しがつくように声をかけたり、焦点を絞って説明したり、視覚で分かるように画像を見せてから説明するなどの工夫がなされている。教師があて子どもが答えるというスタイルのみでなく、ひとりひとりが考えられるよう2人一組で話し合いをさせた上で発言させるなど、授業参加促進がなされている。

リソースルームにパニックを起こしている子は入れないようにしている。パニックを起こした子が行く場所ではないということを他の子どもたちも理解している。日野市の学校に勤める650人の教師は、毎年必ず発達障害を理解する研修に参加することになっている。それは授業のユニバーサルデザインを考えようとすると、発達障害を理解していないとできないからである。
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 発達障害を持つ児童生徒への通常学級での支援の不十分さは、長久手市のみならず愛知県全体の課題である。日野市の先進事例を参考に、通常学級での特別支援教育のあり方を調査研究していく。日野市では毎年全教師が発達障害に関する研修を受ける機会を持っているように、長久手市でも子どもたちに接する教員ひとりひとりの理解を深めることも重要だと考える。長久手市では、幼児期から就学期の連携がしっかりできていないため、福祉部局と教育委員会部局が一体となった支援体制が構築できるよう取り組んでいきたい。

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