20年余の歳月をかけて届いた謝罪の手紙──窃盗犯の「強い反省」と、被害者の「感謝」 | TABIBITO

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「スポーツニッポン」29日付に、ちょっと不思議な記事があった。
 
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「泣けるXマスプレゼント 20年前の窃盗謝罪の手紙 大阪のバイク店」と題した記事だ。
以下に引用したい。
 
大阪府和泉市のバイク店「高石二輪」に、約20年前のヘルメットなどの窃盗を謝罪する手紙と現金3万円が届いていたことが28日、分かった。

 届いたのはクリスマス。思わぬ“プレゼント”にオーナー夫妻は「本人が事件を忘れていなかった気持ちがうれしい」と感激しきりだ。

 丸山皓司代表(70)によると、20年余り前、当時、大阪府高石市にあった店舗では窃盗事件が相次いだ。数百万円するバイクが5台盗まれたこともあったという。

 25日に現金書留で届いた手紙には、約20年前にヘルメットと中古タンクを盗んだという記述があり「若気の好奇心で、計画的な盗み目的ではありませんでした」「本当に申し訳ありませんでした 強く反省しています」などと書かれていた。

 丸山さんは「昔は悪いことをしても、今は立派な内容の手紙を送れるぐらい社会的にも精神的にも安定しているのだろう。世知辛い世の中で、こんなことができる気持ちを知ってもらいたい」とハンカチで涙をぬぐった。妻の貴美子さん(66)は「反対に、こっちがお礼したいぐらい」と笑顔。届いた現金3万円について、夫妻は「送り主の気持ちを生かし、社会に貢献したい」と社会福祉に役立つよう、寄付するという。
 
                        (引用 以上)
 
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「不思議」に思ったのは、20年前に、ヘルメットや中古タンクを盗まれた側の、バイク店のオーナー夫妻が、窃盗犯の謝罪の手紙に、なんだか、喜び、感謝まだしているというとだ。
 
これは、あまりに“世知辛い世の中”であるということの裏返しなのであろうか。 
 
 
今年2014年の「10大ニュース」とはならなかったが、8月に古物商「まんだらけ」(東京都中野区)の店舗で「鉄人28号」のブリキ製人形(販売価格27万円)が万引された事件で、千葉市の男(50)が窃盗容疑で逮捕された。
この事件が大きな話題となったのは、まんだらけの店主が、犯人の男の顔にモザイクをかけた画像を公開し、「期限内に返還しなければ素顔を公開する」と警告したことだ。この対応について、賛否双方の大議論が持ち上がった。結局、警察の要請で顔写真の公開はされなかったが、店主がそこまでの行動に出た根底には、捜査関係者も述べていたように「万引犯の罪悪感があまりに薄い」という現実があったのだと思う。
 
警察庁によれば、2013年度の全国の万引きの発生件数が12万6000件で、一日あたり約345件(検挙数は8万5464人)で被害額は約27億円。「全国万引犯罪防止機構」の調査によれば全国の万引き被害総額は推定で約800億円以上にものぼるとされ、1日あたり2億2千万円。

最近、駅周辺の本屋さんが、次々と店を閉めているのでどうしてかと思ったら、万引きが横行しているためだという。万引きという行為が、まじめに地道に営業してきた人たちの生業を奪っているのである。
 
また、窃盗などの犯罪は昨年1年間で117969件(侵入窃盗7756件、非侵入窃盗110213件)、1日あたり、327件の事件が発生している。
 
さらに、オレオレ詐欺や架空請求詐欺などの「特殊詐欺」も、今年1~11月の被害額が約498億7343万円にも上り、過去最悪だった昨年の約489億を超えたという。来年公表となる12月を含めると年間550億円に迫る勢いだという。
1日あたり1億5千万円もの被害に合っているということになる。
 
これらの犯罪に手を染めている者たちには、他人が困り、暮らしや営業の支えをなくすことに対する、罪悪感もそうだが、人としての想像力がないのだろうか。
 
こうした時勢の中で、今回の20年余の歳月をかけて届いた謝罪の手紙の持つ意味は小さくないと思う。
窃盗は絶対に許されない犯罪行為であり、本来、もっと早く自首すべきだったのは当然である。
 
しかし、結果的に自ら罪を認め反省・謝罪し、返金したことには、“世知辛い世の中”に一石を投じる、前向きなものとなったと思う。
 
 
20年も前のことを「若気の好奇心」だったとして、「強く反省しています」という窃盗犯。
一方、盗まれた側のオートバイ店のオーナー夫婦は、「昔は悪いことをしても、今は立派な内容の手紙を送れるぐらい社会的にも精神的にも安定しているのだろう」と、今まで一度も会ったことも話したこともない、本来憎むべき相手であるにもかかわらず、相手のことをここまで思う。
 
「恩を仇で返す」という言葉があるが、妻の貴美子さんの「反対に、こっちがお礼したいぐらい」という言葉は、「仇を恩で返す」とでもいうべきだろうか。
 
さらに、オーナー夫婦は、送られてきた現金3万円を「送り主の気持ちを生かし、社会に貢献したい」と社会福祉に役立つよう寄付するという。
 
 
人は、他の動物にはない、想像力があるからこそ、そしてその想像力を豊かに発揮してきたからこそここまで進化してきたのだと思う。
 
しかし、日本も今、文化や技術、経済が発展していながら、様々なゆがみや格差も生じ、曲がり角に来ているといえよう。
 
これからのこの国の社会の発展も、人の豊かな想像力にかかっていると思う。