「究極の最悪の事態」 | 高松聡ブログ Powered by Ameba
究極の最悪の事態について

このブログは、「東京は安全です」「状況は改善しています」
という話が中心になっています。そして現状はその通りです。
(水道や野菜について、は別記事を明日書きます)

それでも、「究極の最悪の事態」が万が一にもあるなら、その事態をより詳しく知りたいという方が多くいます。今日はその話にフォーカスします。
「知らない」から「不安」を解消するために、あえてします。

「究極の最悪の事態」は現時点では起きそうにありませんが、万が一起きたときに、そのシナリオを理解しておけば慌てないと思います。

問題が「起きてから」説明するのではなく、「起きたとして」どのような影響があるのかを事前に説明することがパニック防止の最善のコミュニケーションだと思います。(政府の対応もそうなるといいですね)


一番最初の記事で、「最悪の事態」を以下のように説明しました。
炉心溶融が止められなくなり(冷却が追いつかなくなり)、溶けた燃料が第2の壁(圧力容器)を溶かし、分厚い鋼鉄性の第3の壁(格納容器)の底で「止まる。あるいはその下にある分厚いコンクリートの床で「止まる」。

結果、放射性物質の外界への大量飛散は起こらず、周辺への影響も軽微に留まり、東京には(健康に被害があるほど)影響がないという終わり方です。

あまりに例えが身近すぎるかもしれませんが、鍋で水を沸騰させていることを想定してください。火力が強くても、鍋に水がある限り100度以上にはなりません。水の蒸発が熱を奪うからです。でも、水を足さずに放っておくと、水が蒸発して「空焚き」になってしまいます。この状態が「水で冷却ができなくなった」状態です。そのまま空焚きし続けると(火力が強ければ)鍋が溶け始めます(溶融ですね)。しかし「溶けた鍋」がしたたり落ちるレンジのステンレスが十分に分厚く堅牢であれば、そこで「溶けた鍋」は止まります。そこで、止まらなくても、レンジの下に分厚いコンクリートがあればそこで止まりますね。

この「最悪の事態」は、1、2、3号機の原子炉の炉心が溶融して止められなくなった場合のシナリオです。(点検中だった4号機炉心に燃料棒はありません。5、6号機は冷温停止して危機は去りました)

現在特殊放水車による連続的放水作業で、このような事態にただちになる危険性は、現在はありません。また、東北電力から電線を引き込む作業が完了しています。冷却装置がこの東北電力の電気で動き出せばさらに事態は好転します。

そしてこの「最悪のシナリオ」になったとしても、「周辺への影響が軽微」で、「東京への影響はないに等しい」ということを前回説明しました。

しかし、今日は「究極の最悪の事態」をお伝えすることが目標ですから、万が一の話をします。「究極の最悪の事態」には3種類の結末があると思います。

1、 先ほどの「最悪の事態」の延長線での「究極の最悪の事態」
「最悪の事態」の前提は、溶融した核燃料が第3の壁(格納容器)と分厚いコンクリートの床で「止まる」ことにより、外界から「閉じ込まれて」終結することです。

そうならなかったときは「究極の最悪の事態」になります。(可能性としては)地震と津波により、格納容器にある程度損傷があるかもしれません。

原産協会とりまとめによると、2号機の格納容器は「損傷の疑いあり」となっています。3号機は「健全の可能性あり」です。(ちょっとわかりずらい表現ですね)1、4、5、6号機は「健全」ということです。
http://www.jaif.or.jp/ja/news/2011/110321fukushima_event-status-22j.pdf

ということは、2号機の冷却がうまくいかないと、コンクリート床で「止まる」けれども、核燃料の溶融物が外界に露出する「可能性」がわずかながらあることを想定しなくてはなりません。3号機でも同様です(可能性は2号機よりも低いですが)。この場合、放射線物質が外気にさらされることになります。

この露出した放射性物質から直接的に放射される「放射線」は距離の2乗に反比例して弱くなります。東京においては健康被害を起こしません。

問題は、「飛散する放射性物質」が空気中を「風」で移動し、風下にどの程度落ちてくるかです。専門家の見解は、何らかの理由で「大爆発」が同時に起きない限り、大量の放射性物質の飛散は起きないというものです。

なぜならば、多少損傷があるとしても、堅牢な格納容器が上部にあり、外気への飛散は限定的になるはずだからです。そして「大爆発」することは理論的に考えられないからです。チェルノブイリとはまったく異なる原発なのです。理論を超えて、チェルノブイリのような大爆発が起きたとして何が起こるかは最後に書こうと思います。

この1の「究極の最悪の事態」の結論は、
「炉心溶融が止められなくなる」→格納容器の底に溶融物が落ちてくる」→「底で止まり、固まる」が「格納容器が損傷している(可能性がある)」ので「核燃料溶融物が外気に触れる」、しかし、「そこから発せられる放射線」は「東京には影響を与えない」、そして「飛散して東京に落ちてくる放射性物質は健康被害を起こす量には達しない」となります。



2、「使用済み核燃料プール」の核燃料棒の冷却が不調に終わった場合の「究極の最悪の事態」

この2の「究極の最悪の事態」は、1より深刻です。
「使用済み核燃料プール」に保管されている核燃料棒は「余熱」を発し続けます。水につかっていれば問題ないのですが、3号機、4号機で水位が下がり、燃料棒が一部水面より上に出ている可能性があります。なので、懸命な放水作業でプール内の水を毎日継ぎ足しているわけです。「空焚き」になる前に水を鍋に足せば、鍋は溶けないということです。

特殊放水車が続々と集まり、放水能力は日増しに高まっています。
そして、東北電力の配線繋ぎ込みで各機の緊急冷却装置が稼働すれば、「使用済み核燃料プール」の継続的冷却の目処がたちます。

問題は、「東北電力の配線繋ぎ込みによる継続的冷却」の目処が立つまでの、「数日から数週間の間」、十分な量の放水、厳密に言えば「十分な量の水がプールに入り続けているか」どうかです。

今日(23日)の3号機のように、煙があがるといった現象に対して、(放水していただいている方の爆発と被爆量からの安全を確保するために)放水を一時見送らざるおえないことがあります。このような時間が長くなると、プール内の水が足りなくなってしまいます。

この「究極の最悪の事態」を避けるために、懸命な努力がされています。
外部電力と冷却装置稼働までの間、放水作業が続けられれば、この事態にはなりません。政府発表、東電発表、NHK のWEB等で放水状態を確認しましょう。

万が一の事態として、放水が何らかの理由でできなくなってしまった場合に、プールが水を失い、燃料棒の溶融が止められなくなります。その場合、プールは格納容器の外にありますから、1の「究極の最悪の事態」より核燃料溶融物と外気との接触は大きなものとなります。それでも分厚いコンクリートの床で「止まる」ことは確かですが、「閉じ込める」ことはできないことになります。

この場合でも、露出した放射性物質から直接的に放射される「放射線」は東京においては健康被害を起こしません。ここでも問題はどの程度、放射性物質が風で運ばれてくるかです。上部に格納容器がないので、1のケースより多いことは間違いありませんが、健康被害を甚大に与えるかどうかは、飛散する「量」と「風」によります。また、「大爆発」を伴うかどうかにもよります。

最悪のケースが3です。


3、「使用済み核燃料プール」の核燃料棒の冷却が不調に終り、溶融した核燃料が大爆発を伴って飛散した場合の「究極の最悪の事態」

最初にお伝えしたいことがあります。このケースは専門家のほとんどが「起きない」と考えているということです。大爆発を起こす理由が見当たらないからです。ここでいう「大爆発」とは水素爆発で建屋が吹き飛ぶと言った「小爆発」ではありません。このような「大爆発」は過去にはチェルノブイリでしか起きたことがありません。そしてチェルノブイリは「黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉」(漢字が長く続くとそれだけでちょっと怖いですね)という日本では採用されていない危険な原子炉でした。圧力容器の外にある格納容器も存在せず(少なくとも不完全)、大爆発起こしただけでなく、黒鉛減速材が黒鉛火災を起こしました。(難しい言葉がつづきました。ごめんなさい。要は燃えやすい原子炉だったということです)この火災で放射性物質の上空への拡散と周辺地域の汚染が甚大になりました。

福島第一原発がチェルノブイリのようになることは、原理的にありえません。では、「どの程度の問題になるのか」と問われて、私は答えることはできません。
恐らく誰にも、予想できないでしょう。

ですから、こうすることにしました。
「どの程度か」は答えることができません。でも「チェルノブイリ以下」とは言うことはできます。とすると「チェルノブイリを知れば」、「それ以下」と理解することができます。
「知る」ことは「不安」解消につながります。(ちょっとしつこくなってきましたね)

チェルノブイリ原発が、なぜ、どのように、どんな爆発と、火災を伴って起きたのかは、全部省略します。興味のある方は
http://ja.wikipedia.org/wiki/チェルノブイリ原子力発電所事故
あるいは、http://cnic.jp/files/che20_20060304imfr.pdf 今中哲二(京都大学原子炉実験所)
を精読してみてください。

チェルノブイリ原発は甚大な被害をもたらしました。しかし、それは以下の失策が続いたことにより、より甚大な問題になったのです。

A 爆発、火災発生後24時間以上、ソ連政府は周辺住民にすら放射能の危険を説明せず、退避させなかった。周辺の都市への退避勧告は翌日になってから。事故を国際的に認めたのが2日後、周辺30kmに避難勧告をしたのが、なんと一週間後でした。この間に周辺住民が被曝しました。

福島にはおいて既に20Km圏内の退避がなされています。30Km圏内にも屋内退避が指示されています。

B 事故直後から、原発の事故処理作業に従事する方がのべ60万人から80万人も動員されました。彼らには、放射能の危険性の説明もなく、ここに被爆量を検出する装置も与えられなかったそうです。そして原爆施設にいた方はもちろん、この方たちが大量に被曝してしまいました。

日本ではこのようなことはもちろんありえません。

チェルノブイリ原発は以上のような失策と、その爆発、火災の規模の大きさで多数の犠牲者を出しました。

しかし、既に20km圏の退避をしています。
そして、根本的に異なる原子炉の方式から、チェルノブイリ原発のような大爆発、大火災は起きるとは考えられません。

そして起きたとしても、250Km離れた東京に避難指示は出ないと思います。
放射線の各地における値は、刻々と報告されています。

Google map上で各地の放射線量が即座に見られる大変便利な地図も作成されています。
http://maps.google.com/maps/ms?ie=UTF&msa=0&msid=217461329303102559820.00049e8ecbad4b82d2ef7

自分の住むエリアが、どの程度の放射線を記録したら、危険と考えるべきか、また退避を考えるべきか、という素朴な疑問に対して、わかりやすい指針をスウェーデン国立スペース物理研究所の山内正敏先生が提示しています。
http://www.irf.se/~yamau/jpn/1103-radiation.html
是非読んでみてほしいのですが、強引にまとめると以下の通りです。

居住地近くで1000マイクロSv/時に達したら、緊急脱出しなければならない = 赤信号。
居住地近くで100マイクロSv/時に達したら、脱出の準備を始めた方が良い = 黄信号。 


この数字の前提として、避難行動を起こすまでに100時間かかると計算しています。

今日の東京は、最大時で0.142マイクロシーベルト/時でした。(東京都健康安全研究センター) 
http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2011/03/20l3ml00.htm

東京で黄信号がでるには約700倍の放射線が観測されなければならないことがわかると思います。
マスコミでは、「通常時の5倍になった」といった書き方が横行し、不安を感じている方も多いと思います。現実には100マイクロシーベルトになってから100時間かけて荷造り、移動手段確保をしても十分で、それでも一桁(赤信号まで10倍)の安全を見ているということになります。

難しいことは、これ以上わからないという方も多くいると思います。(私も毎日何時間も学んでやっとこの記事を書いているくらいです)今日、2つだけ、記憶に留めていただきたいことがあるとすれば、

1、 3号機、4号機の冷却作業断念による使用済燃料の大規模溶融が起こらない限り東京に大きな影響が出る「究極の最悪の事態」は起こらない。

2、 自分の居住地の放射線の値が100マイクロシーベルトを超えそうかどうかを毎日確認する。通常時の何倍とか前日の何倍という報道で無用に不安がらない。

の2点です。

明日も、福島では懸命な放水作業と、外部電力による冷却システム稼働への努力が続きます。
私たちは、日本の経済を止めないよう一生懸命仕事をしましょう。



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