がんを消す」分子標的治療薬
http://www.sankei.com/life/news/141030/lif141030
がん細胞の分裂を抑制し、がんを消す画期的な分子標的治療薬の開発成果を腫瘍遺伝医学の権威である米シカゴ大医学部の中村祐輔教授と創薬ベンチャー、オンコセラピー・サイエンス社(川崎市)が報告した。「1人でも多くの患者を救いたい」と研究の場を米国に移した中村教授の強い思いが込められた治療薬だ。来年にはヒトへの臨床試験を計画しており、世界的な研究者が主導する創薬のプロセスに注目が集まっている。(大家俊夫)
中村教授とオンコ社の松尾洋研究員らとの共同研究は22日(日本時間23日)付で、米国の権威ある科学誌「サイエンス・トランスレーショナル・メディシン」(電子版)に掲載された。
今回の薬剤の標的は「TOPK」と呼ばれる分子だ。TOPKが肺がんや乳がんをはじめ多くのがんで発現が高まっている分子であり、がん細胞が分裂する際に非常に重要な役割を果たしていることに着目。TOPKは中村教授が専門とするゲノム(全遺伝情報)解析で絞り込み、その働きを抑える2種類の分子標的治療薬の開発に成功した。研究開始から10年の歳月を要したという。
中村教授らはヒトの肺がんの細胞を植え付けたマウスへの試験を実施。同薬を1週間に2回で計5回、静脈内に投与した結果、マウスのがん細胞が縮小し、28日後に完全に消滅した。15日間続けて経口投与した実験でも同様の結果が得られた。
◆30万個から絞り込む
従来の抗がん剤はがん細胞と正常な細胞を同時に攻撃するため、患者は重度の副作用に苦しめられる場合が多い。この苦しみからの解放を目指したのが今回の治療薬だ。
分子標的治療薬をめぐっては日本の製薬産業は出遅れており、今回は日本人の研究者と日本企業がかかわる開発の成果といえるだろう。中村教授は「今回の薬は30万個の化合物からスタートし、可能性のあるものを探し続けて2種類の薬を作り出した。正常な細胞をほとんど攻撃しないため、重篤な副作用が出ないことが期待される。ゲノム解析によって病気の原因を探り、それを抑える分子標的治療薬が可能になってきた」と話す。
薬として実用化されるかどうかの鍵は今後の臨床試験にかかっている。成果を踏まえて中村教授らは来年中に、トリプルネガティブと呼ばれる難治性の乳がんや血液のがん、白血病の患者を対象とした臨床試験を米国で計画している。
中村教授は平成23年、内閣官房「医療イノベーション推進室」のトップに就任し、日本発の創薬を目指したが、政府の後押しはなく、1年足らずで辞任。東大教授の職も辞め、24年から創薬の研究環境が整っているシカゴ大に移籍した。オンコ社との共同研究では昨年、がん細胞の大本であるがん幹細胞の増殖を抑える別の分子標的薬の臨床試験を米国で開始したほか、がんの一種、滑膜肉腫に対する世界初の臨床試験もフランスで進めている。
「駆け出しの外科医時代に救えなかったがん患者さんがいる。一家の大黒柱を失った家族の悲しみにも立ち会った。その無念さを晴らすために創薬に挑んでいる」と中村教授は強調する。臨床試験の行方には世界から熱い視線が注がれている。