金森得水 和歌集 「那智山滝歌百首」86-90

 金森得水の和歌集は、原文のめくりの
書を、私が、読み下し、始めて活字に
したものです。

 埋もれるのは惜しい。
 専門家ではありません。
 独学で、解釈したものです。

八十六 徒く〃〃登 奈か免くら世者 ち利の与能 
    お母比毛な池乃 や末逎多奇通勢

   (つく〃〃と なかめくらせは ちりのよの 
    おもひもなちの やまのたきつせ)

   「つくづく」(熟)
    念を入れて、見たり、考えたりするさま。
    よくよく。物思いに沈むさま。広辞苑。

   「ちり」(塵)
    世の中のわずらわしいこと。世のけがれ。広辞苑。

     念を入れて、見たり考えたりして、
    暮らしている。

     世の中のけがれや、わずらわしいことも、
    那智の山の滝壺に、沈んでいくようである。

八十七 木能葉に毛 雨尓毛安らぬ 瀧乃お登能 
    由ふへ左比志支 奈知能や末て良

   (このはにも あめにもあらぬ たきのおとの 
    ゆうへさひしき なちのやまてら)

     木の葉の散るでも、雨の音でもない。
     那智の滝の音が、夕方、寂しく、
    
    那智の山寺に響いている。

     山深い、那智の山寺の侘びしさが、
    よく詠われていると思います。

八十八 安者禮左尓 斗支遠雲川して 瀧乃お登尓 
    飛〃くや奈智能 入相乃鐘

   (あはれさに ときをうつして たきのおとに 
    ひ〃くやなちの いりあいのかね)

   「あわれ」(哀れ)物に感動して、発する声。
    嘆賞、親愛、同情、悲哀などの、しみじみとした
    感動を表す。

   「うつす」(移す。映す。透す。還す。写す)
   「時を移す」無益なことをして、時を過ごす。

     ああ(感動して思わず出る声)。
     那智の山寺の鐘が、滝の音に響いている。

八十九 奈智能寺 寝さ免てきけ者 音た可起 
    瀧の飛〃幾母 左与ふけ爾家里

   (なちのてら ねさめてきけは おとたかき 
    たきのひ〃きも さよふけにけり)

    「さよ」(小夜)夜。

     山深い、那智の寺にいて、目を
    醒ました。

     滝の急流が、音高く響いている。
    と、ともに、夜は、更けてしまった。

     この一首も、そのまま解りやすいと
    思います。    

九十  那智乃山 佛法僧止 鳥母奈久 
    三能多可良や ミか左祢能瀧

   (なちのやま ぶっほうそうと とりもなく 
    みつのたからや みかさねのたき)

   「みつのたから」(三の宝)熊野三山のことか。
    ①熊野本宮大社(田辺市)
    ②熊野速玉神社(新宮市)
    ③熊野那智大社(那智)

    「順路」①熊野川から舟で ②へ。徒歩 ③へ。

    那智の山の奥深く、仏法僧が鳴いている。
    熊野三山の宝と(熊野本宮、熊野速玉神社、
   
   熊野那智大社)ともに、那智の三重の滝で
   あることよ。

    熊野那智青岸渡寺には、如意輪観音菩薩、
   三重の塔、那智の滝が存在する。

    上記、三つをいうのではないと思うが。
   解らない。

「金森得水」は、私の最初のブログで紹介しました。
幕末の勢州田丸の人。

 茶人として、一部には知られていますが、
歌人としても優れていました。

 和歌集に、「那智山瀧歌百首」「北野奉納梅百首」
「草人木百首」「富士百首」、「茶器物名漫吟五十首」等が
あります。

 玄甲舎の改修の際、出てきたものです。
 そのため、存在が確認されて
いませんでした。

 また、得水は、茶道具等も作っていました。
今も、茶碗、茶杓、香合、蓋置、

花入れ等が遺され、茶道愛好家に珍重
されています。