金森得水 和歌集 「那智山滝歌百首」46-50


四十六 與母春可良 滝能悲〃起越 まくら尓て 
    奈知能遠や満尓 か利寝越序春る

   (よもすから たきのひ〃きを まくらにて
    なちのおやまに かりねをぞする)

     夜どおし、滝の音や流れの音を、
    根ながら聴いている。

     那智の山に、仮寝をしていることよ。

      平明な一首ですね。 

四十七 石の床 雲能ふ須ま越 きて見受婆 
    奈知能ミ多伎乃 末故登志ら女や

   (いしのとこ くものふすまを きてみずば
    なちのみたきの まことしらめや)

     那智の滝の石の上で、雲のふすまを
    着て寝てみないと、この滝の

    誠は分からないだろうな。
     雲のふすまを、布団に譬えていますが。

四十八 多奇能お登越 志く礼とや起久 た比人の 
    歌左登里か川句 奈ち能ミや末地

   (たきのおとを しくれとやきく たひひとの 
    かさとりかつく なちのみやまち)

     旅人は、滝の流れる音を、時雨が
    降ってきたのかと聞く。

     その旅人の傘をとりあげ、
    (不用なので) 肩に担いで行く、
    那智の山路であることよ。

     活字にするのに難しい、一首です。

四十九 巌壺耳 お知以る味頭の 奈美毛見む        
    滿知かくたてし 那智能瀧殿

   (いわつぼに おちいるみづの なみもみむ
    まちかくたてし なちのたきどの)

    「たきどの」(瀧殿)
     滝の間近く建てた御殿。

     岩石のくぼみに落ち入る、
    水の浪までも見える。

     滝の間近に建てた、御殿で
    あることよ。

五十  南池尼倭禮 以ほり川くら者 此瀧遠 
   安与比窓能 毛乃とし裳見武 
 
  (なちにわれ いほりつくらば このたきを
   あさよひまどの ものとしもみむ)

    那智の山に、私が庵を造ったで
   あろうなら。

    那智の滝を、朝、夜、窓から
   見える、我がものとして、
   見るのだがなあ。

    スケールの大き一首。
   和歌では、現実にないような 
  
   ことでも、言葉で現わせます。
    まさしく、和歌たるところですね。

 
「金森得水」は、私の最初のブログで紹介しました。
幕末の勢州田丸の人。

 茶人として、一部には知られていますが、
歌人としても優れていました。

 和歌集に、「那智山瀧歌百首」「北野奉納梅百首」
「草人木百首」「富士百首」、「茶器物名漫吟五十首」等が
あります。

 玄甲舎の改修の際、出てきたものです。
 そのため、存在が確認されて
いませんでした。

 また、得水は、茶道具等も作っていました。
今も、茶碗、茶杓、香合、蓋置、

花入れ等が遺され、茶道愛好家に珍重
されています。