金森 得水 和歌 「梅花の歌」
「北野奉納梅百首」より、十首ほど選びました。

十 かきくらし 支能ふ茂今日裳 婦累雪耳 
  う馬見尓登多尓 以ふ人毛奈し
 (かきくらし きのふもきょうも ふるゆきに
  うめみるとだに いふひともなし)
 
  心が悲しい(空を暗くする)。昨日も今日も、降る雪に。
  梅を見に行こうと言う人もない。

十二 春風尓 登く留木末能 し羅由き遠
   う免母やち流と お度路可連川ゝ
  (はるかぜに とくるこずえの しらゆきを
   うめもやちると おどろかれっゝ)

   春の風で消えゆく、梢の白雪。
   梅の花まで散るのではないかと、
   驚いていることよ。

十五 雪那可羅 う免能梢逎 爾本者受伐
   者る能志累し迩 奈に乎毛と米舞
  (ゆきなから うめのこずえの にほはずば
   はるのしるしに なにをもとめむ)

   雪が降っている。梅の梢の花の香がなかったら。
   春が来たことを、何に求めるだろう。

十七 都母李故し 雪乃古受恵茂 者るな連や
   け由く下よ利 う免咲耳氣李
  (つもりこし ゆきのこずえも はるなれや
   けゆくしたより うめさきにけり)

   雪に包まれた、梅の梢にも春がきたようだ。
   解けゆく下から、梅は咲いてきた。

二十一 雲通しう恵天 以く日裳あ良農 梅乃者奈
    ふゝむ立枝能 米頭ら志気哉
   (うつしうえて いくひもあらぬ うめのはな
    ふぶむたちえの めずらしきかな)

    他所から移し植えて、何ほども経っていないのに、
    もう梅の花は、珍しく、ふぶいてきた。

二十七 日爾所邊庭 春乃左む作能 雲須良氣伐
    古所米逎梅能 色序満新家流
   (ひにそへて はるのさむさの うすらけば
    こそめのうめの いろぞましける)

    日につれて、春の寒さが、薄らいでくると
    小染の梅の花も、色が鮮やかになるものだ。

二十八 雲米の花 香己楚斗伎氣度 久連奈為能 
    故そ免乃色序 見川遍か利介留
   (うめのはな かこそときけど くれないの 
    こそめのいろぞ みつべかりける)

    梅の花は、香りが一番と聞くけれど、
    紅の小染の花の色こそ、見るに値するものである。

四十二 梅左化度 等ひ己ぬ以保遠 雲宮飛春半
    人来飛刀句斗 以可迩鳴良む
   (うめさけど とひこぬいほを うくひすは 
    ひとくひとくと いかになくらむ)

    梅は咲いたが、訪う人もない庵である。鶯は、
    人来い々と、どのように鳴くのだろう。

五十一 か李所免耳 立与流宿能 雲米乃者奈
    王連滿ちか本能 以路香奈理介利
   (かりそめに たちよるやどの うめのはな
    われまちかほの いろかなりけり)

    ふとしたことで、立ち寄った宿の
    梅の花が、人を待っていたように、
    色香を放ってくれる。

六十 月夜爾半 影多尓香遠流 う免能花
   庭尓茂以てし ふむ遠以登ひ天
  (つきよには かげたにかをる うめのはな
   にわにもいてし ふむをいとひて)
 
   月夜には、梅花の影でさえ香がする。
   その梅を踏まないように、外へも出ないで  
   居る。

七十四 ち累う米越 遠し美天来鳴 鶯乃
    なミたや者流能 あ米登ふ留良む
   (ちるうめを をしみてきなく うぐいすの
    なみたやはるの あめとふるらむ)

    散っていく梅の花を、惜しんで、鶯が来て鳴いている。 
    鶯の涙が、春の雨のように降っている。

八十三 何遠加半 者累乃物登て 由ひ越ら婆
    誰可う免よ李 可所邊散留弊支
   (なにをかは はるのものとて ゆひをらば
    たれかうめより かそへさるへき)

    何を春のものと言って、指折り数えたら、
    誰も、梅の外に数える者はいないだろう。
    (梅が一番だろう)