F川さんの配達が終わって、1ヵ月ぐらい経った。
「オレさぁ、この家売って施設に入ろうと思うんだ」
F川さんがそう言ったのは、2月上旬ぐらいだった。
F川さんは一人暮らしで、奥さんは病院に長期入院中だ。
雪かき、掃除、買い物、奥さんの見舞い、通院・・・と
80代の糖尿病+腰痛持ちながら、きちんと身の周りの事をこなす。
小さな車に、もみじマークを付けて走り回る。
なかなか立派なおじいさんである。
F川さん 「屯田にある○○(施設名)なんだけど、どうだ?」
サトモ 「おお、なかなか良い立地のとこですね」
F川さん 「屯田、環境いいか?」
サトモ 「屯田住んでますけど、環境いいですし、そこから少し行くとお店も充実してます~」
F川さん 「そうか、じゃ、そこにするわ」
サトモ 「え、そんなんでいいんですか?」
F川さん 「うん、それに施設も結構いいんだ」
それから2週間。
F川さん 「来週、引っ越すわ。あんたベッド要るか?」
サトモ 「え?なんかえらく早いですね」
F川さん 「新しいトコ、部屋狭いんだ。ベッド違うの買うんだ」
サトモ 「へぇ~」
F川さん 「新しいトコ、遊びに来ていいからな」
F川さんはせっせと身辺整理を進めた。
数日後、部屋をのぞくと、ダンボールとテーブルぐらいしか見えなかった。
すでに、折りたたみベッドも買っていた。
サトモ 「早いですね、準備・・・」
そして、次の週。
F川さん 「引っ越し伸びたわ」
サトモ 「・・・どういうことでしょう?」
F川さん 「入る前に面接必要で、返事にしばらくかかるって」
サトモ 「ん?打合せしてなかったんですか?」
F川さん 「いや、オレ入るって言っておいたんだけどな。
来週行くぞって言ったら、いろいろ手続きがあるからダメなんだって」
サトモ 「・・・(--;」 (どうやら、口約束だったらしい)
F川さん 「あと、施設に駐車場ないって」
サトモ 「・・・この車、持っていくんですか!?」
F川さん 「当り前よ、行動できないじゃん」
サトモ 「まあ、そうですけど・・・施設の人、ビックリしてませんでした?」
F川さん 「そう、あの施設元気なじーさん入れるの初めてらしい」
サトモ (普通、『元気なじーさん』は施設に入らない・・・)
F川さん 「駐車場空けるのに数日かかるらしい、駐車料金もそれまでに決めるってよ。
オレ、車いっぱい止まってるから、てっきり施設に入ってるヤツのだと思ってたらよ、
全部働いているやつのだってさ、はっはっは」
サトモ 「入る前から、伝説のおじいさんになりそうですね」
・・・たぶん、施設にいる人は全員『要介護』のレベルだ。
そこに、とりあえず『要支援』を獲得したじいさんが住むのだ。
きっと、職員と間違えられるだろう。
そして、F川さんは普通に介護をするんじゃないかと思われる。
ああ、F川さん。
元気に長生きして、たくさんの伝説を残してください。
そして、いつか奥さんの目が開く時を、心から願っております。
それまで、お見舞いがんばって!