本日の自民党国防議員連盟では、慶応義塾大学教授の神保 謙先生をお招きし、「我が国の防衛力の抜本的強化」と題してご講演いただいた。概要は以下のとおり。

 

ここ数年、我が国は、中国と尖閣諸島をめぐる「低烈度紛争」への対応について考えてきた。しかし、台湾をめぐる現状維持を武力で変更しようとする中国が現れている今、「高強度紛争」の可能性は高く、その文脈で防衛戦略や日米同盟を考えなければならない。そのため、日本は高強度紛争に対応すべく「積極拒否(Active denial)」の戦略を取り、これに沿って防衛力を整備するべきであり、また、数年後の短期だけではなく、10年、20年後の長期を見据えた政策づくりが必要である。

 

「積極拒否(Active denial)」とは、懸念国の作戦遂行能力を削ぐことを意味する。日本は、装備品の数や性能のみで中国と競争すべきではなく、相手が軍事的な目的を達成しづらくし、軍事的手段のコストを上げることが必要だ。

 

そのために特に日本が注力すべきは、ミサイルによるスタンド・オフ防衛能力及び反撃能力である。台湾あるいは日本を攻撃する艦隊や航空・ミサイル基地に対し、地上配備、護衛艦・潜水艦・航空機搭載等、様々なプラットホームから発射するオプションを保有することで、懸念国が攻撃を仕掛けるコストは極めて大きいものになる。さらに、あらゆる選択肢を持つことで、低烈度の紛争が発生する際にも、米国の助けがなくともある程度自律的に作戦を遂行できる。確かに巡航ミサイルの火力は極めて高くはないものの、精密に打撃することができれば、相手国の継続的な戦力投射を防ぐことができる。

 

インド太平洋においても、自衛隊は活動の幅を広げる余地がある。現在、同じく米国と同盟関係にあるフィリピンの対中政策の重要性が明らかになっているが、円滑にフィリピンと協力できるような協定を結ぶことにより、最終的には共同作戦や監視作戦を実施できるような体制を構築することが望ましい。このようなパートナーシップがあってこそ、「積極拒否」の戦略を遂行する際のカードが増えていく。

 

長期的には、先端技術を軍事分野で応用できるよう、それに向けた研究開発も必要だ。現在、日本で生まれた優れた基礎研究が応用され、装備品に落とし込まれにくい「死の谷」という現状がある。ここを超えられるような研究に重点的に投資を進めるべきだ。

また、ウクライナ紛争やイスラエルの事例が示すとおり、無人機やAIは、人員力が減退する自衛隊にとって負担削減となり得る。また、今後の戦場の未来を左右し得る量子研究でも、日本は後塵を拝するわけにはいかない。

 

10〜20年後の防衛体制を考えるとき、日本の防衛産業が維持されることは極めて重要だ。そのために、フィリピンへの対空レーダー輸出の成功例を皮切りに、海外への装備移転を拡充すべきである。