毎日新聞 論点「安保法制 問われる国際貢献」

本日(平成27年7月17日)朝刊に掲載されています。


◇国際情勢のニーズに対応

佐藤正久・自民党参院議員

 日本は四半世紀前の1992年に国連平和維持活動(PKO)協力法を作り、自衛隊の能力を通して国際社会における責務を果たす取り組みを続けてき た。最近は過激派組織「イスラム国」(IS)によるテロやエボラ出血熱のような感染症、さらに災害の大規模化など新たな事態が増え、現行法のままでは隙間 (すきま)や不具合が生じている。日本が国際社会と連帯して平和と安全を守っていくため、多角化するニーズに対応できるようにするのが安保関連法案だ。


 これまでは自衛隊に与えられた任務と権限が乖離(かいり)しすぎていた。自衛隊のイラク派遣(2003~09年)で、私が南部サマワで復興業務支 援隊の初代隊長だった当時、治安維持はオランダ軍の任務だった。自衛隊が復興支援をしたいと望む地に、オランダの指揮官が同意するとは限らなかった。自分 たちの手で、ある程度の治安維持ができれば、活動が非常にやりやすくなる。治安が良くなれば復興が進み、復興が進めばさらに治安も良くなる。双方には相関 関係がある。法案では治安維持のほか、現地の立法・司法や行政に関する支援もできるようになっている。


 また自衛隊の宿営地や活動場所の近くで日本人や日本の非政府組織(NGO)が襲われて助けを求められた場合、「駆けつけ警護」はできなかった。離 れた場所で活動する隊員が襲撃されても、正当防衛ではないから本隊は武器を持って助けにいけない。普通の国で、自国民や文民、部下隊員を守れないという軍 隊はない。武器使用などの制約をできるだけ国際標準に近づけることで、自衛隊の活動の場も広がる。


 他国軍への自衛隊の後方支援では、自衛隊の活動実施区域を「現に戦闘が起きている地域以外から選ぶ」と法的に整理した。自衛隊の活動は「非戦闘地 域」に限定する従来の解釈に比べ「リスクが高まる」といわれるが、それは違う。もとより戦闘地域と非戦闘地域の線引きはあいまいで非現実的だ。憲法9条と の兼ね合いで武力行使の一体化を避けるために官僚が考えた概念にすぎない。非戦闘地域だったはずのサマワでも、宿営地に迫撃砲弾が飛び込んで街中ではオラ ンダ兵が殺された。非戦闘地域かどうか、派遣前には誰も分からない。要はどこに区域を設定し何をやるかによってリスクは変わってくる。本当はそこを議論す べきだが、衆院で野党が持ち出したリスク論はきわめて乱暴で、自衛隊員も冷めていた。


 今回の安保法制は恒久法なので、PKOなどで現場はものすごく助かる。自衛隊は法律がなければ一ミリも動けない。我々がイラクに派遣された時は特 別措置法で、事前に訓練ができなかった。恒久法があれば情報収集を含めて準備が十分でき、隊員のリスクは下がる。国連との早期の調整を通して、より安全な 活動地域で、日本の得意な分野で国際貢献できるメリットもある。


 そもそも自衛隊の任務でリスクを伴わないものはない。警察、消防も同じだ。それでも国家・国民を守るため、自衛隊がリスクを背負う場合はある。で あればこそ政治がそのリスクをできるだけ小さくする努力が必要だ。とはいえリスクは決してゼロにはならない。万一の場合の隊員の名誉や処遇を考えるのも政 治だ。


 私は福島県出身で、東日本大震災の時、ものすごく反省した。地震や津波に対する備えが十分ではなかったからだ。まさに「憂いなければ備えなし」に なっていた。安全保障は国民の生活から遠いイメージがあり、なかなか浸透しにくいが、中国が軍事的に台頭し、北朝鮮がミサイル能力を向上させるなか、日米 が連携して「備えあれば憂いなし」にしなければならない。もちろん外交努力が第一だが、抑止力と対処力の観点からいざという時に備えておくのが政治の責任 だ。


 「備える」ことの大切さを国民に粘り強く説明する必要がある。衆院の審議は与野党の議論がかみ合わず概念的な部分が多かった。国民の理解を深めるためにも、参院では中身の議論をもっと掘り下げていきたい。 【聞き手・田中洋之】


http://mainichi.jp/shimen/news/20150717ddm004070025000c.html