『隊友』7月号



平和安全法制を紐解く 〈第2回〉  アセット防護



国会での審議が進む平和安全法制関連法案。本法案は自衛隊法などの現行法を一括し、それらの一部改正を目指す「平和安全法制整備法案」と、より一層国際社会の平和及び安全に寄与することを可能にする新法「国際平和支援法案」の二つからなる。平和安全法制が整備されることで、防衛省・自衛隊、特に現場の隊員にはどのような影響があるのだろうか。連載の第二回目となる今回は、二法案のうち「平和安全法整備法案」を扱い、その中でも新たな概念である「アセット防護」に焦点を当てる。



「助けられる」自衛隊から「助け合う」自衛隊へ
  平和安全法制では、平時から日本有事まで切れ目のない防衛体制を構築しようとしている。その最たる例が、防衛出動に至らない事態、即ち平時から重要影響事態において可能となる「アセット防護」である。「アセット」とは、艦艇や航空機といった「武器等」を意味している。平和安全法制が整備されれば、「自衛隊と連携して我が国の防衛に資する活動に現に従事している」米軍等に限り、アセットを相互に防護できるようになる。これにより、日本と米国等はより緊密に連携できるようになり、わが国の抑止力も高まる。ちなみに現行法制下では、例えば平時に警戒監視中の自衛隊の護衛艦が攻撃された場合、米軍は自衛隊を防護できるが、その逆はできない。今回の法整備により、「助けられる」自衛隊から「助け合う」自衛隊になる。


自衛隊は「誰の」、「何を」防護できるのか
 平和安全法制では、我が国の防衛力を構成する物的構成要素である武器等の防護のための武器の使用を規定した自衛隊法第九十五条を改正(以下、改正九十五条)することで、アセット防護を可能にしている。この改正において念頭に置かれているのは、米軍等が採用している武力攻撃に至らない状況において、外部からの侵害を受けた場合に部隊指揮官の判断で対処する、「ユニット・セルフ・ディフェンス」(部隊防護)という概念である。

 改正九十五条では、対象が従来の自衛隊のみであったところに、「合衆国軍隊等の部隊」が追加されている。合衆国軍隊等とは、米軍及び米国以外の軍隊並びに「その他これに類する組織」を意味している。その他これに類する組織としては、例えば米国の沿岸警備隊などが想定される。改正九十五条により自衛隊が防護できるようになるアセットであるが、法案では、武器、弾薬、火薬、船舶、航空機、車両、有線電気通信施設、無線施設、液体燃料が具体的な対象として列挙されている。よって平和安全法制により、自衛隊は、防衛出動に至らない状況において、「自衛隊と連携して我が国の防衛に資する活動に現に従事している」場合に限り、例えば米軍や豪州軍の艦艇や哨戒機を防護することが可能になる。

 なお、現行法では、例えば朝鮮半島有事が生じ、日本に戦禍は及んでいないものの、日本を射程に収める弾道ミサイルの攻撃に備えて米艦艇が警戒している場合に、当該米艦艇が第三国から攻撃されても、日本は自衛権を発動して米艦を防護することはできない。なぜなら、米艦防護の為の武力行使は国際法上、「集団的自衛権」の行使に当たり、従来の法律では想定されていないからである。一方、平和安全法制では、こうした事態を「存立危機事態」と位置付け、自衛目的の場合に限り、一部集団的自衛権の行使を可能にすることで、米艦防護の為の武力行使ができるようになる。この場合、我が国の防衛力を構成する物的構成要素である武器等の防護を目的とした改正九十五条を根拠にしたアセット防護とは、武器使用のレベルが異なる点に注意が必要である。



武器使用は極めて受動的かつ限定的
 防衛出動に至らない状況においてアセット防護が可能になるとはいえ、武器の使用は従来通り極めて受動的かつ限定的である。そもそも自衛隊法第九十五条は、あくまで現場にある防護対象を防護するための受動的な武器使用を認めたものである。その行使は、「警察比例の原則」に基づくと解され、相手を「撃破」するのではなく「撃退」することを旨としている。実際、今回の法案においても、刑法第三十六条(正当防衛)と刑法第三十七条(緊急避難)に該当する場合を除き、「人に危害を与えてはならない」と明記されている。時に「戦争法案」とまで揶揄される平和安全法制であるが、実際には、武器使用に関しては相当に抑制的な内容となっているのである。


国会で審議中の平和安全法制により、自衛隊が担う役割は増え、活動領域も広がる。本連載では、次回防衛省・自衛隊に影響を与えるうる法案の中身に焦点を当て、平和安全法制を紐解いていく。