八重山日報 2月12日(木)に寄稿しました。
東京に届くのが翌日になりますが、意外に早く届くものですね。
原稿をブログに掲載いたします。

沖縄では特定の思想に偏ったジャーナリズムが多いので、
きちんとした八重山日報さんを応援していきたいと思います。
今年は、月に一度程度、寄稿する計画です。

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今般のいわゆる「イスラム国(ISIL)」による邦人殺害事案は、決して看過できない、非道、卑劣極まりない「テロ」である。これを一般の「人質」事件と混同する向きもあるようだが、今回の事案は、事件ではなくテロであることを、しっかり認識すべきだ。

テロの定義とは何か。その行為が「政治上の目的を達成するため」「不安や恐怖を抱かせるため殺傷や破壊などの暴力行為を伴うもの」であることだ。つまり、秋葉原で起きた通り魔による無差別殺人や人質立て籠もり事件の類はテロとは定義されない。

テロとは、政治上の目的を達成するために、不安や恐怖を抱かせるための殺傷や破壊などであり、われわれに不安や恐怖を抱かせ、彼らの目的を達成せしむることとなれば、テロリストの「思う壺」である。

一部の政治家やキャリア官僚OBたちが、安倍総理の中東歴訪や人道支援のための2億ドル供出について批判しているが、彼らの批判を受け入れることは、テロに屈したこととなるのが、わからないのだろうか。

わが国が、国際社会とともに、テロに屈しない断固たる姿勢をとることは当然だが、一方、テロ集団から日本がローリスク・ハイリターンの国と思われない策を講ずることも重要だ。日本人を拉致して、身代金を要求すれば、日本の政策の変更を要求すれば、日本はすぐに屈すると思われたら、今後、日本人がテロに遭う危険性が増大することとなる。

わが国には「憲法9条」があるから何もされないだろうなどという「幻想」は通用せず、また、わが国は空爆に参加していないから大丈夫という時代ではない。依然として、多くのイスラム諸国は今でも親日国家であるが、ISILのような過激派は異質であり、道理が通じないのだ。

また今回の事件は、退避勧告が出された地域で発生したものだ。危機管理の基本の一つは危険な地域には近づかないことだ。今回、殺害された後藤健二氏には、外務省から3回にわたり、渡航自粛の要請をしているが、あくまでも要請であり、強制力が伴うものではない。

そして、テロの脅威は、ISILだけでなく、中東アフリカ地域を中心として、アラビア半島のアルカイダやアルシャバーブ等多くの過激派が活動している。そして、外務省が公表している中東地域の渡航注意情報によれば、シリアやイエメン、イラクのほとんどの地域が、一番危険な退避勧告地域とされている。

これら危険地域を含む中東アフリカにおける、わが国の防衛駐在官の配置をみると、今回、現地対策本部が置かれたヨルダンは、極めてインテリジェンス能力の高い国だが、同国には、防衛駐在官は配置されておらず、シリア、イラク、イエメン、リビアやチュニジアにも配置されていない。アルジェリアの人質事件や今回のテロ事案でも、ミリタリーチャンネルのパイプが細いのが実態だ。

先日の参議院予算委員会でも、安倍総理が、海外で情報収集に当たる防衛駐在官を新たにヨルダンに置く考えを示し、また中谷防衛相も「中東における軍の情報は必要性があるので従来希望してきた。必要な防衛駐在官の増員に努めていきたい」と述べ、ヨルダン以外の国への増員にも意欲を示した。

これまで、自衛隊のPKOなど海外派遣時、シリアではレバノンの日本赤軍から自衛隊員殺害声明が出されたり、イラク派遣当初も、部隊襲撃情報も多くあったとされる。その多くが誤情報だったり、単なる脅しだったが、情報の収集・分析には、現地情報ネットワークが極めて重要であり、防衛駐在官を配置し、現地のミリタリー情報チャンネルを構築することが、この地域にいる在外邦人保護に有用であることは言うまでもない。