リビアも、イラク・シリアも、流動化する治安情勢



○リビア


日本を含む世界の石油価格に影響を与えるリビア原油、そのリビアの混迷が目を覆う。肝心の米国も静観の構えだ。


 2011年、反政府デモの拡大、NATOによるカダフィ政権側への空爆等により、カダフィ政権を打倒したが、その後、米国公館が襲撃に伴う米大使等の殺害、武器弾薬の拡散流出を初め、各武装勢力が群雄割拠状態になり、政権議会も、それに代わる代表議会も、未だ機能していない。トリポリの日本大使館も一時閉鎖中だ。


 今日のFOXニュースによると、武装勢力(ムスリム同胞団系のミスラタ)が、制圧したトリポリ空港で手中に納めたとされる十数機の航空機を、9.11事件の祈念テロに使うのではとの恐れ・懸念が広がっており、チュニジアやエジプトはリビアからのフライトを遮断しているという話まで飛び込んできた。


 8月18日と23日、UAEとエジプト軍がトリポリで空爆を行った(両国は否定)と、米国が発表する等、武装勢力が入り乱れている。西部のトリポリ付近では世俗勢力のハフタルとムスリム同胞団系のミスラタが、東部と南部ではアルカイーダ系が、また世俗勢力のハフタルも東部で活動を活発化している。


 米国を初め欧州主要国は、外部の介入に批判的で、自らも静観の構えだ。イラクやシリア同様、独裁政権を倒した後の受け皿、代替え政権が暫定統治機構が機能していない。


○イラク・シリアで勢いを増す「イスラム国」

2人目の米国ジャーナリストがイスラム過激派組織「イスラム国」により殺害された。

 米軍はイラクでは、イラク政府軍やクルド人部隊と連携し、空爆と地上作戦を連携させ、一部成果を上げてはいるが、所詮、空爆は限定的であり、住民に紛れ込んだイスラム国兵士を相手には、地上部隊の作戦しかない。ただ、イスラム国の兵士は、イラク軍から奪った十分な武器と弾薬、そして高い練度と戦闘経験を有しており、イラク軍による地上攻撃もそんなに簡単ではないし、更に支配地域で病院支援や貧困対策等も行い、支配地機の統治も行っているため、単なるテロリストとは違い、イラク政府に不満を持つ住民を離反させるのも容易ではない
 
 更にシリアでのイスラム国への攻撃は困難だ。オバマ大統領も現時点では「戦略がない」と明言したほど、米軍による地上作戦を行わない以上、取り得る手段は限定的だ。シリアにはイラクと違い、米軍が連携して作戦を行える地上部隊がいない。特殊部隊が情報収集して空爆を誘導するほどの態勢もなければ、イスラム国と敵対するアサド政権とも、オバマ政権は対峙している。「シリア空爆」を求める声は、米国人ジャーナリスト殺害の後、高まってはいるが、すぐに空爆実施できる状況にはない。シリアで、米国等が反政府勢力を応援してアサド政権を弱体化させたことが、結果としてイスラム国の勢力拡大に繋がった皮肉な結果となっている。そのアサド政権と米国が組むわけにはいかない複雑な状況だ。


 今日からNATO首脳会議が行われているが、当初は、アフガンからのISAF撤退とそれに伴う事後の措置が主要な議題であったが、ウクライナ問題に加え、イラクやシリア問題、リビア問題も当然話し合われるだろう。独裁政治は決して良いものではないが、独裁政治を打破した後の、政権構築、民生の安定作戦が機能しないと、リビアのように武装勢力が群雄割拠状態になったり、イラク・シリアのように「イスラム国」やヌスラ戦線のような過激な反政府勢力の伸張を許してしまう。アフガンの新しい大統領も選出されず、ISAFの年内撤収も黄信号が点灯しそうだ。


アメリカの「リバランス政策」に影響が出ないことを願いたいが、情勢は予断を許さない。欧州や中東アフリカに米軍が勢力を残す、或いは増強することになれば、アジア重視戦略、リバランスにも影響がでる可能性は否定できない。



佐藤学校仮入校