⚪️ 1972年政府見解の論理的飛躍

今回の安全保障法制の自公協議、高村座長のたたき台「新武力行使3要件」の基になったのは、憲法と集団的自衛権の関係に関する1972年政府見解だ。

朝日や毎日、東京等は集団的自衛権が認められないとした1972年政府見解を集団的自衛権を容認する根拠にするのは無理だ等批判をしているが、1972年見解をよく見て頂きたい。これは谷垣法相も論理的飛躍があると指摘しているが、最後の当てはめが、しっくりきていない。

以下、1972年見解を記載する。(なお、段落の番号は佐藤が付記)

① 「国際法上、国家は、いわゆる集団的自衛権、すなわち、自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにかかわらず、実力をもって阻止することが正当化されるという地位を有しているものとされており、国際連合憲章第51条、日本国との平和条約第5条、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約前文並びに日本国とソビエト社会主義共和国連邦との共同宣言3第2段の規定は、この国際法の原則を宣明したものと思われる。そして、わが国が国際法上右の集団的自衛権を有していることは、主権国家である以上、当然といわなければならない。」

② 「ところで、政府は、従来から一貫して、わが国は国際法上いわゆる集団的自衛権を有しているとしても、国権の発動としてこれを行使することは、憲法の容認する自衛の措置の限界をこえるものであって許されないとの立場にたっているが、これは次のような考え方に基づくものである。」

③ 「憲法は、第9条において、同条にいわゆる戦争を放棄し、いわゆる戦力の保持を禁止しているが、前文において「全世界の国民が……平和のうちに生存する権利を有する」ことを確認し、また、第13条において「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、……国政の上で、最大の尊重を必要とする」旨を定めていることからも、わが国がみずからの存立を全うし国民が平和のうちに生存することまでも放棄していないことは明らかであって、自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛の措置をとることを禁じているとはとうてい解されない。」

④ 「しかしながら、だからといって、平和主義をその基本原則とする憲法が、右にいう自衛のための措置を無制限に認めているとは解されないのであって、それは、あくまで外国の武力攻撃によって国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底からくつがえされるという急迫、不正の事態に対処し、国民のこれらの権利を守るための止(や)むを得ない措置としてはじめて容認されるものであるから、その措置は、右の事態を排除するためとられるべき必要最小限度の範囲にとどまるべきものである。」

⑤「そうだとすれば、わが憲法の下で武力行使を行うことが許されるのは、わが国に対する急迫、不正の侵害に対処する場合に限られるのであって、したがって、他国に加えられた武力攻撃を阻止することをその内容とするいわゆる集団的自衛権の行使は、憲法上許されないといわざるを得ない。」


以下所見を述べる。

段落③は、砂川判決とほぼ同じ趣旨を述べており、憲法前文の平和的生存権と13条の国民の生存、自由、幸福追求権を確認し、国の存立を全うするためには必要な自衛の措置を取ること可能とする法理を述べている。(これを法理❶とする)

段落④は、憲法は自衛のための措置を無制限に認めているわけではなく、13条で言う国民の権利を根底から覆される事態に対処するために、必要最小限の自衛の措置にとどまるべきとする法理を述べている。(これを法理❷とする)

即ち、法理❶と法理❷で、個別的自衛権であれ、集団的自衛権であれ、国の存立や国民の生存、自由、幸福追求権の確保の為には、必要最小限の実力行使は認められているとする法理を述べている。

段落⑤は、法理ではなく当てはめであるが、いきなり、必要最小限の実力行使は、わが国に対する急迫不正の侵害に対処する場合に限定としており、ここに論理の飛躍がある。

当時は、他国に対する攻撃が我が国の存立や国民の権利を侵害する事態は考えられなかったかもしれないが、そのような事態があれば、法理❶、法理❷からすれば、必要最小限の自衛の措置も可能となる。正に政府が与党協議会に示した事例8~事例15のような場合は、国の存立や国民の権利を脅かす重大事態と言える。

このような考えに基づいて、高村座長が議論のたたき台として提出した新武力行使の3要件は次の通り。

(1)わが国、または他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される恐れがある。

(2)これを排除し、国民の権利を守るために他に適当な手段がない

(3)必要最小限度の実力行使にとどまる

これについて明日、自民党の協議会メンバーで議論する。