JAXAのはやぶさ2プロジェクトで有名な津田雄一氏による「失敗から学ぶチームワーク」オンライン講演会の視聴メモです。

町田相模原焚き火の会なる取り組みの同志でもある友人の辻井さんが相模原市のPTA協議会と教育委員会の企画として関わっていたイベントだったというご縁でして、2022年4月までの限定公開ですが、アーカイブ動画が公開されています。

最近、転び学だか、ポジティブ失敗学みたいな研究がしたいと思い始めていたタイミングだったので、備忘を残しておきたいと思い、久しぶりに学びシェアのアメブロの方に投稿しておきます。

自分の人生ストーリーを数々の転んだ失敗経験を軸に語ったところ、爆笑してもらうことが出来たことと、自己探求オタク的なことを相当やってきたのですが、また新しい発見があったりしまして、転び・失敗というところからの学びを深めたいと思っています。

はやぶさ2の見事なチームワークについての取り組みと慧眼についての学びももちろん素晴らしいのですが、それらが生み出された原体験として、「はやぶさ1号機」で味わったくやしさを、もう二度と繰り返したくないというその転び経験からの思いの強さが、このはやぶさ2の成功を生んでいるかもというところに心惹かれています。

はやぶさ2の功績の凄さみたいなニュースは世の中にあふれているので、その部分は割愛しますが、地球からプログラミングを書き換えて臨機応変に対応できるなど、世界初を9つも達成しながら、100m四方を想定していた着陸精度を6m四方に調整するとか凄いと思いますが、総勢600名に及ぶプロジェクトを率いたリーダーシップ論として、手法というより、個性あふれる人達を取りまとめていくコミュニケーターとしてのあり方がもの凄く勉強になりました。

以下は、テーマとなっている「失敗から学ぶチームワーク」の部分で話されていた内容を抜き出した講演メモです。

~「失敗から学ぶチームワーク」講演メモ~

■宇宙科学とは

太陽系の中だけで大きな惑星以外に、107万個の小惑星がある

宇宙の謎を知る、太陽系がどうやってできたのか、
どうしてこういう形で生まれて、我々人間はどのような
存在なのかということを追求する学問です

多種多様な小惑星のことも調べる必要がある

■小惑星 リュウグウ

炭素と水がありそう

水生命の起源が調べられるかもしれない

3年半でリュウグウに到着

2008年から10年かけて計画

■想定外

リュウグウの地面の凹凸がひどい

4か月かけて100m四方の平坦地を想定していたが、
6m四方の場所への着陸技術が必要

4か月かけてプログラムを開発し、
光の速度で20分かかるはやぶさ2にダウンロード

更に24時間前に問題が発覚したが対応しきる

■プロジェクトメンバー

600人のチーム:JAXA所属者だけでなく多種多様な人達

チームワークがとても大切

・600人で一つの目標:これをいかに浸透させるか
・徹底的な訓練:やりたいことがやれるチームにする
・挑戦心・あきらめない心を醸成するチーム作り

人数が多くなると心配事を言う人がいたり保守的になりがち、
それにより全体の動きが鈍重になる、挑戦的なことが
出来なくなったとしたら、プロジェクトには致命的と考えた

■良いチーム

600人の頭脳がフル回転で考えて、誰かが良い解決策を思いついたら
こっちだ!とみんなで向かえるような『場をつくる』

それぞれの頭脳が自立的に動くことが大切

■”探査型”プロジェクトのチーム作り

宇宙探査は答えが分からない

答えを解けるチームではなく、問題を作れるチームを作る

1.自分自身の能力を熟知する
2.上司ではなく節理・論理に忠実なチーム文化を作る
3.個々人のモチベーションを育て高める

・答えを解けるチームのリーダー
 高い先見性と計画性:PMが問いを発し、部下が回答

・問題を作れるチームのリーダー
 場の方向付け:エキスパート同士の相互問答

似たモデル:タックマンモデル

■”探査型”プロジェクトを育てるには

草創期:ゴールの共有とチーム員の能力・専門性の研鑽
    (個々に話しかける)

混沌衝突期:自己主張をぶつけ合ってお互いに磨き込む
    (機会を提供し、衝突・試練の機会を促進・見守る)

一人格化・自律化:協働し、高い自律性と自己成長性を獲得
    (ムードを増進、責任を取る覚悟の維持による安心感)

収穫期:高度なチームワークで成果を量産
    (次なる目標を与えれば自律的に動いてくれる)

混沌・衝突期に、あえてリーダとしてここで衝突させたままにしておいた。
自分たちで解決するようになっていった。すると、
個々の人達が有機的な動きをするようになっていった。
芸術作品を見ているような、自分が手を全く下さなくても、
チームとして個々の人が良かれと思って動いていくことで、
チーム全体の利益になっているという状態となり、
この状態ではやぶさ2はリュウグウ到着を迎え、
チームで解決するぞという雰囲気と能力が伴っていた。

■失敗させる仕掛け

宇宙開発は「失敗が許されない」

ここの場では「失敗してよい」という場を作った

シュミレーターを作った運用訓練で、厳しい環境で失敗させた

2日間の訓練を公式に48回行い、22回墜落した

こうすることで磨かれていった

■良い失敗、悪い失敗の見分け方

失敗を許容しないと挑戦できない
挑戦のない仕事は面白くない
ゲームオーバーにならない算段をして、どんどん挑戦

Challenge, but NO gamble

gambleとは
どっちに転ぶか分からないけどやってみよう

Challengeとは
失敗したとしても、探査機を失わずに、着陸に失敗しても
地球に戻ってこれる能力を担保した上で挑戦する

■若手のアイデアを引き出す方法

若手は頭が柔らかいので色々なアイデアを持っているが、
出していいか、採用されてしまったらどうしよう、それが
失敗したら自分の責任になるかもとか色々考えてしまって、
意見が出せないことがある

アイデアを出すことと責任を分ける

・提案はどんどんしてもらってOK
・採択するかどうかはチームで決めよう
・責任はすべてチームが持つ

→メンバーの心理的安全性をつくる

ああやったらどうだ、こうやったらどうだということが
活発に出て仕事を取り合ったりするような良いチームになる

失敗を許容しないと挑戦できない
挑戦のない仕事、挑戦のない人生は面白くない

■節理への忠実さ

リーダーの言うことは聞かなくても良い

ただ、節理へは忠実でいよう

ものごとの節理や論理や物理現象に忠実でないと、3億年彼方の探査機を正しく動かせない

これをチームで徹底する

偉い人がどう言おうとも、それが節理に反していると思うなら、若手でも声を上げよう

■プロジェクトリーダーの役割

・組織内の情報流・決断はオープンに
 ヒエラルキーはできるが、どこにどういう情報の流れがあって
 誰がどのように決断をしたのかが分かると仕事がやりやすい

 ミッションこそが上司、節理こそが上司、議論はフラットに

・対立軸をつくる
 安易にまとまらない。反論を常に提示する。

・安心してアイデアを出せる環境をつくる
 責任はリーダーがとることの明示→仕事を奪い合うチームに

・リーダーの役割
 五分五分の判断になったときの決断
 いざというときの突破力

■想定外を想定する

何が起きるか分からないことを想定して準備していく

自発性に基づくチームづくり

失敗の成功も面白がれるチーム作り

みんなが「自分がいなければ成功しなかった」と思えるプロジェクト

<質疑応答>

Q:チームづくりの方針は、どのように身に着けましたか?

経験に基づいてやっている。20年前から人工衛星を行っていた。
限られた時間で行うために、チームを意識せざるを得ない。
この人の言っていることは信用できるとか、よく分からないけど
結論を信頼できるというチームは何かというと、
試練をのりこえた人達とか、試練をのりこえたチームだと思う。
その人のバックグラウンドに深いものがあることを知っていると
信じられると思う。そうなると試練というのは失敗ということ
なので、それやったら失敗するよと思ってもぐっとこらえて、
あえて失敗させてみる。
いやあ失敗しちゃいましたとなったときに、ああそうなんだ、
じゃあ次どうしようかというような会話をフラットに対等にできる。
ほらいわんこっちゃないという感じではなくて、一緒に発見
したような形で失敗を克服できるという雰囲気が、
いいチームをつくるなということが、自分の経験の中では、
そう感じていました。

たまたまはやぶさ2のリーダーを任されたので、それを
一番大がかりにやったらどうなるのかというのが、
はやぶさ2での取り組みでした。

Q:混乱衝突時に失敗するとチームが崩壊してしまうかも?

衝突したときに、本気でチームが上手くいかないと感じたこともある。
すごく気持ちが暗くなることをもあった。
仕事を奪い合うという良い現象も、禍根を残すようなことがないようにと思うが、ここでリーダーが入ってしまうと毎回リーダーが入らなければいけなくなる等。

気を付けていたことは、自分が真摯に対応すること、フェアであること、誰にでもやりたいことや主張があって、それを尊重しながらもはやぶさ2ってこういうミッションだよね、だとすると、ここはあなたの言う通りにするけど、ここは違うよねというようなことを一つ一つ解きほぐして、良い方向に持っていけることしかやれることはない。

リーダーはあきらめず、両方の主張を最後まで聞こうとする意志を示す。リーダーを先に言い負かした方が勝ちだとかいうことではなく、どっちの意見も通して、結果としてロジカルな結論を導こうとしているんだと思ってもらえることが大切。

Q:はやぶさ1号機より数千倍のサンプル量を取れたのは?

はやぶさ1号機と2号機のサンプルの摂取方法自体は同じ。

はやぶさ1号機の宿題をこなしたという側面もある。

Q:失敗しすぎたとかリカバリーできなかったことはないか?

はやぶさ2号機は、上手くいってしまった。
はやぶさ1号機は、ひどく心が痛むことが多く、こんな経験を二度としたくないと心から思った。その思ったことを反映できる機会をもらったというのがはやぶさ2。
はやぶさ1号機の多くあったトラブルを全て克服するように動いたし、表面の凹凸が多いことは想定外だったが、4か月で克服できた。

Q:衝突した人同士、話さなくなってしまったりしないか?

そうなるとチームワークとしては最悪なので、そうならないような
とりもち方はしなくていけなくて、お互い大人なので、そういったら仕事が上手くいかないと分かるので、しばらくは放っておきますが、最終的には、あなたの言っていることは、ここまでは正しいし、はやぶさ2の目的を考えると同じこと言っているよねとか、正しくないことも含めて、理解納得できるよねとお互い納得できることが大切。そうすると悪いと思っていたことから、良さも見えてくる、良さが明確化する。そこまでいかないと、コミュニケーションを再び取るというのは難しいですよね。

四苦八苦しながらやっていたので、結果的に上手くいった時に何があったかというと、それぞれの得意分野やそれぞれのやるべきことというのを、そういうことが起きるたびに明確化していって、この人はこういう処は、誰にも負けないものがあるのだということを、それぞれの人に認識してもらえるということです。

~講演メモ~

実は、前段で書いたはやぶさ1号機の原体験の話は、講演後のQ&Aで出た話なのですが、「宿題をこなした」という表現が印象的でした。

間に合う方は、論旨はほぼ抜き出していますが、期間限定なので、もし内容に共感できたという方は、津田雄一さんのあり方に触れる機会として、是非視聴してみられてください。

期間限定公開(2024年2月まで)
はやぶさ2のプロジェクトと失敗から学ぶチームワークについて
https://sites.google.com/view/sagamiharakateikyoiku/?fbclid=IwAR1hloD80FEzHiEexmkBVJ00yF-DriUV_0Oqj2ZJl5f70yODi8QqejjLJes