初節句の日、菖蒲湯に入ってからそうちゃんは不思議なほどに表情が良くなり、ベッドに戻っていつも通り母乳を染み込ませた綿棒を近づけると、待ち構えていたかのようにいつも以上によく吸ってくれて、とっても気持ちの良い「ごっくん」という飲み込む音も聞かせてくれました。


産まれて間もなく、そうちゃんは自力で飲み込む嚥下の反応がなく、今後も見込みはないと主治医から診断されていました。
それでも、どうしても反応があるように感じていた私は、この6ヶ月間ずっと、そうちゃんを信じて母乳綿棒を与え続けながら見守ってきました。

嚥下ができるかどうかということは、外から栄養を送り込む胃瘻もしくは腸瘻の手術が必要かどうかを左右することでもあり、そうちゃんの未来も大きく変わってくると感じていた私たちにとっては、とても気になることのひとつでした。

産まれてすぐの頃は拘縮も強く、固く口を閉ざしていたそうちゃんでしたが、やがて吸啜反応を見せてくれるようになり、そして母乳綿棒も上手に吸えるようになり、5ヶ月を超えたあたりからは明らかに「ごっくん」と飲み込めている音が聞こえるまでになっていました。

最初は気のせいかもしれないと慎重に見守っていましたが、6ヶ月が近づいてきた頃には、良く見ていてくださっていた看護師さんたちや女性の主治医の先生方からも嚥下しているとお墨付きがいただけるほどに明らかな反応が見られるようになっていて、最初の診断が全てではないのだと、そうちゃんはまたひとつ奇跡を信じる力を私たちに与えてくれました。

最初の頃に診断されていた内容はあまりに辛い内容が多く、先の不安に襲われたことも何度もありましたが、そんな中でもできないだろうと言われていたことを次々とやれるようになっていって、沢山の困難を乗り越えながら奇跡を起こし続けてきたそうちゃんの生きる力を間近で見ていると、信じることを諦めないことがどれほど大切かを教えてもらっているような気がしました。

まだまだ乗り越えなければならないことは沢山ありましたが、そうちゃんのおかげで信じることにはとても前向きになれていました。

嚥下の反応を順調に見せてくれていたそうちゃんは、特にこの日の菖蒲湯のあとの母乳綿棒への吸いつきはこれまでにないほど強くて、いつまでも離してくれないそうちゃんのとっても満足そうな笑顔の瞬間を写真に残すことができました。

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そしてその翌日のお昼、ミルクの時間にいつも通りまた母乳綿棒を口に入れてあげようとしたときのことでした。

なんだかふと違和感を感じて、綿棒を入れる前にそうちゃんの下顎を引いて口腔内を何気なく確認してみました。

すると、下の歯茎から白い歯のようなものがニョキっと顔を出していて、私はとても驚きました。

え?!生後6ヶ月ってそんな時期??

驚きすぎて自分の目を疑い、何度も何度も確認しました。

身体も小さめで、成長もゆっくりなそうちゃんだったので、歯なんてまだまだずっと先の話だと思っていました。

私にいつまでも下顎を押さえられてキョトンと私を見つめるそうちゃんを見て我に返り、私は近くにいた看護師さんに一緒に確認してもらうことにしました。

「すごーい!歯だよ!そうちゃん歯が生えたよー!」

大興奮の看護師さんを見て、やっぱり歯なんだと急に実感し、じわじわと喜びと興奮がやってくるのが分かりました。

そうちゃん、ちゃんと成長してるんだね。

分かっていることでしたが、でもこんな風にハッキリと実感できる成長を目の当たりにして、私は胸がいっぱいになっていました。

大興奮だった看護師さんは、他の看護師さんたちはもちろん、医師やNICUの皆さん、臨床心理士さんや保育士さんにも報告に走り回ってくれていたようで、気づくと大勢の人がそうちゃんを囲み、初めて生えてきた歯を確認しては喜んでくれていました。

でも、中でも特に私が嬉しかったのはセンター長の反応でした。

忙しいはずなのに、わざわざ見に来てくれただけでも意外で嬉しかったのですが、そうちゃんの歯を見たセンター長は

「すごい!ほんとに生えてる!早いな~!!」

と子供のような笑顔で喜んでくれていて、そうちゃんのことでセンター長がこんな風に喜んでくれるなんて…ととても胸が熱くなりました。


初期の頃はとても冷たく寂しく感じていたセンター長との距離感。

きっと不器用な先生なんだろうと思いながらも、辛く冷たい表現が突き刺さり、その度に主人と何度も涙を流していました。

それから6ヶ月、周りの方々に支えてもらいながら、ゆっくりと時間をかけてコミュニケーションをとり続け、そして何より強く闘い続けるそうちゃんを見てセンター長が少しずつ変わっていくのを見てきて、そんな変化を見れただけでも嬉しかったのに、こんな風に真っ直ぐに喜びや愛を表現してくれるようになったセンター長を見ていたら、涙が出そうになりました。

そうちゃんを愛してもらえることが、こんなにも嬉しいことなのだと、改めて感じた親心に私はとても温かい気持ちになっていました。


写真はお風呂前で汚れ気味なお口周りな上に、少し見えにくいのですが…初めて歯を発見した時の写真です
ニコニコ

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