なかなか挿管チューブが合わずに、何度再挿管をしても定期的なサチュレーション低下が続いていたそうちゃんに、先生方は少し頭を抱えている様子でした。

また、再挿管をすると刺激になり一時的に痰が増えることはよくあることなのですが、この時には痰が増えただけでなく、心拍数も上がっていて、少しいつもと違うような感じもしていました。

人工呼吸器管理を続けているということは、病気の心配だけでなく常に挿管チューブからの感染のリスクのことも考えなければならず、調子を崩す度に不安と闘いながらもそうちゃんを信じて祈り続けていました。


するとその日の午後、珍しく主治医の2人がそろってそうちゃんのところへ来てくださいました。

「しばらく良い子にしててね。」

そう声をかけていた2人は、その日から学会で県外に行くことになっていたようで、しばらく主治医が不在になると申し訳なさそうに教えてくださいましたが、この時はまだそれほど心配はしていませんでした。

ところが、そうちゃんの体調はそれからゆっくりと悪化していき、ミルクも吐くようになり、翌日には高熱が出てしまい、採血ではCRPの値は5、夕方には8にまで上がり、飲み薬だけではかなり辛い状態にまでなっていました。

これまでもCRPが上がることは何度もありましたが、なんとか飲み薬で回復できる程度で、敗血症のとき以来、幸いにも点滴が必要になるほどの悪化はなくここまで来ていました。

でもその度に、点滴をとるのが難しいそうちゃんを知る先生方が、どこまで点滴をせずに見守るかのギリギリの判断に頭を悩ませていたのを何度も見てきました。

主治医の2人が不在だったこの時には、初めて見るとても優しそうな男性の先生が定期的にそうちゃんの様子を見に来てくださいました。

「いつもと違う感じはありますか?」
「近くで見ていて不安に思うことがあれば何でも言ってくださいね。」

そうちゃんの様子だけを見るのではなく、近くで見ている私たち家族の意見も慎重に聞いてくださる、とても優しく安心できる先生でした。

そうちゃんの様子は、明らかにいつもCRPが上がる時とは違っていました。
痰が増えることはよくありましたが、同時にこれほどミルクを吐き続けることはあまりなかったのです。
そうちゃんの体重はどんどん減っていき、もうきっと点滴をとらなければ危険な領域に入ってきているのだろうということは私たちから見ていても分かりました。

敗血症や造影剤のために、これまで色々な先生が何時間もかけて点滴をとろうと頑張ってくれていましたが、結局そうちゃんに点滴を入れることができたのはその病院で一番点滴をとるのが上手だと言われていた女性の先生が2時間以上かけて入れてくださった、たった一度だけでした。

造影剤のときにはその女性の先生さえもギブアップし、かなり難しいと聞かされていた上に、その頼みの綱である女性の先生もこの日は不在でした。

点滴をとるという判断をすることが、どれほどギリギリの状態で、どれほど難しいことであるかということをこれまで思い知らされてきた私たちは、その判断が近づいていることを察すると、どうにも落ち着きませんでした。

やっぱりこのままだと点滴入れないと難しいのかな。
奇跡的に回復したりしないかな。

ところがそんな願いとは裏腹に、ミルクの消化は悪くなっていく一方で、量は3分の1までに減らされているのにそれでも吐いてしまうほどになっていました。

ただ、私たちにとっての唯一の救いは、CRPの値は上がっていたものの、敗血症の時のような短時間で一刻を争うような急激な上がり方はしておらず、今点滴さえとることができれば回復できるのではないかという望みがあったことでした。

残された先生方も主治医の2人がいない状態で、とても難しい判断だったとは思いますが、その日の夕方にはとうとう点滴をとることに決まりました。

丁寧な説明をしてくださった先生に、私は「どうかよろしくお願いします。」と伝え、ただ祈ることしかできませんでした。

そして、ぐったりと辛そうにしているそうちゃんの頭を撫でながら、心の中で何度も『がんばれー‼︎』とエールを送り続けました。


処置が始まったのは18時頃。
その後、仕事終わりの主人と合流し、おそらく長丁場になることは分かっていましたが、そうちゃんの様子が気になって落ち着かなかった私たちはNICUとGCUの入り口にあるベンチで呼ばれるのを待ち続けました。

時刻はあっという間に20時になり、GCUの照明はそうちゃんの場所以外は落とされていました。
すでに2時間、諦めずに処置をし続けてくれている先生方には感謝の思いでいっぱいでした。

そして、22時が近づいた頃、説明をしてくれた優しい男性の先生が私たちのところへ来てくださいました。

「時間がかかっていてすみません。まだどのくらいかかるか分からないのですが、お父さんとお母さんは大丈夫ですか?」

処置が続き大変な時に、疲れた顔も見せずに眉を下げて申し訳なさそうに私たちを気遣ってくれたその優しさに私たちは胸がいっぱいになりました。

この時ですでに4時間が経過し、心の小さな片隅に、『こんなに長時間頑張ってくれたのだから、もう大丈夫ですと言えるものなら言ってあげたい…』そんな気持ちが出てきてしまいそうなくらいに、皆が一生懸命にやってくれていることが伝わってきていました。

でももちろん、何としてでもそうちゃんを助けてほしかった私たちは、何度もお礼を伝えた後、再び「よろしくお願いします」とお願いをしました。

その後も、ただ座っているだけの私たちの様子を看護師さんたちが何度も見に来てくださったり、防寒のためのタオルケットを持ってきてくださったり、仮眠がとれる部屋を用意してくださったり、皆さんの優しさがとても心に沁みました。

そしてとうとう午前0時が過ぎ、『もしこのまま点滴が入らなかったら…』と不安がよぎり始めた頃、再び先生が私たちのところへ来てくださいました。

6時間経っても、やはり疲れた表情は全く見せず、変わらず私たちを一番に気にかけてくださり、朝からずっといて、きっともう勤務時間はとっくに終わっているはずなのに…と思うと有り難さと申し訳なさでとても複雑な気持ちになりました。

そして、やはり点滴をとるのがかなり難しかったようで、でも諦めたくないと、頭の血管で試してみても良いかどうかの確認をしにきてくださったようでした。そのためには髪の毛を剃らなければならないと。

私たちは即答でお願いしました。

長時間頑張ってくれていたそうちゃんや先生方のことを思うと、どこでもいいからどうか少しでも早く点滴が入ってほしいとただただ願いましたが、その後も時間はどんどん過ぎていくばかりでした。


そして午前1時半を過ぎた頃、担当の看護師さんがとても興奮した様子で私たちのところへ来てくださいました。

「お父さん!お母さん!点滴入りました!」

急いでGCUに入ると、先生方も皆笑顔で丁寧にその後の様子を教えてくださいました。

結局、あれから頭の血管で何度か試してみても上手くいかなかったようで、その後、再度足の血管で試してみた時に奇跡的に入ったのだそうです。

安心で力が抜けていくのが分かりました。

よかった、本当によかった。

点滴がゴールな訳ではありませんでしたが、約8時間もかけて頑張ってくれたそうちゃんと先生方を想うと、きっともう大丈夫だと、そう思うことができました。

そうちゃんは長時間の処置に疲れきっていて、虚ろな目でぐったりとしていたので、主人と頭を撫で「沢山頑張ってくれてありがとう」とだけ伝え、その日は帰ることにしました。


翌日、明るい所で見たそうちゃんには痛々しい針の跡が複数残っていて、まだ不調も続いていましたが、点滴のために剃られた新しい髪型のおかげで看護師さんたちから頭を沢山撫でてもらえて、それには心なしか少し嬉しそうにも見えました。

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