浅くて長い潜水が一番危ない! | 水中カメラマンのデスクワークな日々

浅くて長い潜水が一番危ない!

 一昨日のダイブコンピューターの減圧理論 の続きです。

 ダイブコンピューターは減圧症にならない為の情報を提供してくれるとても便利なツールです。 しかしダイブコンピューターの普及によって減圧症になってしまうダイバーが増えてしまったという 皮肉な結果になっているのが現状です。

 私が思うにダイブコンピューターを使用することで、限界ギリギリの潜水、つまり安全マージンの 無い潜水を毎回のように繰り返すダイバーが増えているように思います。

 特に気になるのが水中写真派ダイバーで、水深20m前後の被写体をタンクのエアの限界、ダイブコンピューター の限界までめいっぱい粘っているダイバーは少なくありません。

 これが一番危ない!

 水深20m前後ってのは、それほど深い水深で無いので、タンクのエアがけっこう持ってしまう。 無減圧潜水時間も長いので、つい調子に乗ってギリギリまで粘ってしまう。減圧潜水になっても タンクの空気が残っているので減圧停止を覚悟してさらに粘ってしまう。。


 なぜ、これが一番危ないのか? というと 水深20m前後で減圧症に関わってくる組織は、ハーフタイムで言うと40分前後の組織。反復潜水に なるとさらに長い60分前後の組織で減圧症のリスクが増してきます。 これらの組織は、窒素の溶け込みもゆっくりですが、窒素の排出もゆっくりです。許容窒素量の限界付近に 達してしまうとたとえ無減圧潜水の範囲内でも、いってみれば一触即発の危ない状態であるのです。


 そして最近話題の「マイクロバブル」の影響です。ダイブコンピューターのオリジナル理論の ビュールマン博士、ワークマン博士の理論は、窒素の溶解時も排出時も同じハーフタイムでマイクロバブルの影響は考慮されていません。 しかし、近年(といってもかれこれ10年?)は「マイクロバブル」が窒素の排出を阻害して 排出時(減圧時)のハーフタイムは長くなると考えられています。

 つまり、ハーフタイム40分の組織も、減圧時はハーフタイム80分とか100分になるのです。

 (この部分のノウハウやアルゴリズムは、メーカー毎によってブラックボックス化されている部分です。)


  一般的に言われている「安全停止は5mで5分」という手法があります。これは比較的深い 水深30m潜ったような時には非常に有効です。なぜなら、水深30mで減圧症に関わってくる組織は ハーフタイムの短い5分とか10分の短い組織なので、窒素の溶け込みも速い反面、排出の速いので、 5分程度の安全停止でも、十分安全マージンが増えるです。

 しかし、ハーフタイムがそこそこ長い組織に限界ギリギリまで窒素を溶け込ませてしまった場合、 5分程度の安全停止ではほとんど効果はありません。(しないよりはマシですが。)

  同等の効果を得るには、30分とか60分安全停止しないとダメなのです。

 そして、水面休息を取ってもなかなか窒素レベルは減りません。次の潜水でまた似たような潜水を 繰り返すと、さらにハーフタイムの長い組織に窒素を溜めてしまうのです。


 このような無減圧潜水であっても比較的浅い潜水でダイブコンピューターの限界ギリギリの潜水を繰り返すと 安全マージンのまったくない一触即発の危ない状態が、長時間(長期間)継続することになります。


  そして、ハーフタイムの長い組織が、いわゆる”山越え”や”飛行機搭乗”による減圧症の原因になる組織です。


 また、ダイブコンピューターの設計(プログラミング)においても、ハーフタイムの長い組織にはあまり安全マージンを見込まれていないと認識すべきです。なぜなら、ハーフタイムの長い組織に関して真面目に計算して表示してしまうと、無制限ダイビングを1週間続けたような場合、あまりにも非現実的な減圧停止時間を表示してしまったり、飛行機に何日も搭乗できない表示をしてしまうものが出来てしまうので、ここは商売上好ましくありません。つまり、厳しすぎて売れないダイブコンピューターになってしまいます。

なので、ハーフタイムの長い組織の安全マージンは切り捨てられていると思ったほうがいいです。

(機種によってはハーフタイムの長い組織は最初から考慮されていません)


 一緒にダイビングをしているのに、友達の使っているダイブコンピューターと表示がかなり違った経験をされた事はありませんか?特に長期間ダイビングを繰り返すとハーフタイムの長い組織による影響が強くなります。ハーフタイムが長いという事は、ちょっとした誤差でも時間で表示されると大きな時間差となってあらわれるので、一見して全然違うように見えるわけです。


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(追記)減圧理論関係をまとめておきました。
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(1)ダイブコンピューターの減圧理論
(2)浅くて長い潜水が一番危ない!
(3)深すぎる?!安全停止
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