だくだく | 近藤サト オフィシャルブログ「ベルベットフィール」Powered by Ameba

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部屋の片付けをしていて、いろいろと物はどうしても増えるものだなぁ、と思う。

ふと、『だくだく』という古典落語を思い出した。

借金だか引っ越しだか、面倒だか、で家財道具一式を手放した男が、これじゃちょっと味気ない、物足りないと思い、壁に紙を貼り、絵描きにそこへ家財道具の絵を描いて貰った。
眠り猫も描き、火鉢も描き、用心のため、長押の上に長刀も描いて貰った。

絵のおかげでずいぶんと賑やかになった部屋の中で、家主が寝ていると、
泥棒がやってきた。

泥棒は、また豪勢な家に当たったものだとほくそ笑み、箪笥に手をかける。が、開くはずもない。そこでようやく泥棒は全て絵だと分かる。
なんだこの家の主は、全部絵で描いて、『あるつもり』で暮らしていやぁがる、と知って、泥棒。

そんなら俺も。

と、
箪笥を開けた、つもり。
風呂敷を引っ張りだして広げた、つもり。
大金を包んだ、つもり。
背負った、つもり。

と粋な一人芝居を始める。

それを見ていた家主は、感じ入り、
それなら、俺も。

と、長押の槍を取った、つもり。
えいっ、と槍で突いた、つもり。

と泥棒に応酬する。

すると、泥棒。

槍で刺されて、血がだくだくと出た、つもり。


江戸の昔は、こうして貧乏も笑いに変えた。
物がないことも、笑い飛ばした。

この部屋にある家財道具一式が全部書き割りだったら、どんなにかすっきりするだろうと
思うのである。