『文房』は中国語で書斎の意味である。
その書斎で使う品々だから文房具なのだ。
じつは文房具の世界は奥深い。
『文房四宝』というのは硯、墨、筆、紙をいい、中国約3000年の歴史の中で、四宝とそれにまつわる文房具の美が花開いた。
そもそも石好きの私だから古文具はいいな、古硯はいいな、怪石(天然の石を部屋に置いて深山に遊ぶ)もいいなぁ、と思うが何より手が伴わないので、猫に小判である。
まあまあ身の丈にあったもので良しとしている。
その文房具の中の一つ、水盂(すいう)。
水盂は水滴と同じ用途で硯に一滴一滴水を入れるときに使う。
かたちは、水滴のように口が付いておらず
盃のようで、そこに水を張り、『鵞首(がしゅ)』と呼ばれる小さなさじですくう。
この水盂と鵞首で有名なのは、聖徳太子が使ったと伝えられる精緻な作りの金属製のものが国宝に指定されている。
古文具は、唐から清の時代までに良い物が作られているというが、水盂は陶磁器製や、好事家が求めたのか瑪瑙、水晶もあれば、また鵞首は金銀、珊瑚製という豪華なものもある。
そもそも、水滴は水盂のかたちをしたものが主流だったそうだが、時代の変遷でより使い勝手の良い、あるいは凝った作りが可能な水滴が多く作られるようになったようだ。
確かに、盃に水を入れて、大豆がようやく一粒乗るくらいのさじでちまちま水を入れるのは、優雅だが現代的でないかもしれない。
用途を知らない人も多いと聞く。
しかし『鵞首』さじだが、実は今の日本で、書道用としてではないが生き残っている。
日本画などを描くときに使う、『水さじ』である。
岩絵の具を紙に接着させるために、動物の膠を溶かして絵具や水と混ぜ加える。
その水や膠液を入れるときに使っているのだ。
かたちも大きさも古来の鵞首にそっくりなのだ。それに気がついたときは、ひとり嬉しくなった。この文房具はまだ現役だ、と。
ただし、日本画を描く人は書道をする人よりずっとずっとずーっと少ないけれど。
あぁ、書斎でお気に入りの文房具に囲まれて漢詩を読んだり、手習いしたりするのは幸せだろうなぁ。
想像するのはタダ。
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