収録は1月7日。

放送の4日前である。
 

 
選手中心かと思われたドッキリは、実は城戸康裕選手と私がメインだった。
私は放送のある1月11日まで、まったくもって気づいていなかった。
放送を見て「え!?これ、俺へのドッキリだったの!?」と叫んでしまったくらい。
もちろん自分もドッキリには仕掛けられているのだけれど、あくまでも選手たちが中心だと思い込んでいたのである。
全くお恥ずかしい。
 
さて、私の人生で最初で最後であろうドッキリを受けて、考えた。
 
私はあのとき、本当にこの頭のおかしくなった2人を何とかして停めようと必死だった。
梶原龍児さんが「嘉洋くんどう思う?」と問うたとき、「絶対的な正解はない」と答えた。
 
 
その後TVのテロップでは「逃げる佐藤」とあった(演出としては大正解である)。
 
あの現場でそう言ったとき、私は不思議だったのだ。
「絶対的な正解はない」ということを、この2人が知らない訳ないでしょう、と。
勝負として考えたら、パンチの苦手な選手にはパンチで行くし、キックの苦手な選手にはキックで行くでしょう、と。
なぜTVカメラの回っているココで意見をぶつけるのだ、と。
 
なんとか揉め事を止めようと必死に考えて紡ぎ出した意見は、結局聞き入れられず。
2人はまた揉め始めた。
 
 
魔裟斗さんも梶原龍児さんも、私の人生においては良き出会いの人たちである。
このご縁は大事にしておきたい。
これからも付き合っていきたい2人のキャリアを、とにかく絶対に汚させちゃダメだ。
 
 
大体、魔裟斗さん、アンタ何だよ。
皇治くんがマイク投げて武尊くんに怪我をさせてしまったとき、魔裟斗さんリング上で怒ってたじゃないっすか。
「何やってんだよ!」って俺に話しかけてきて、俺も「盛り上げるのはいいけど、怪我をさせたらダメです。怪我をさせたら絶対ダメ」って会話したじゃないっすか!
 
なのに、なぜ?
 
という気持ちで2人の間に立った。
一瞬でも手が出そうものなら、いつでも止められるように。
 
 
揉め事を起こしている最中、なるべくレフェリーの基本である「選手と選手の間に二等辺三角形の位置に立つ」場所にいった。
とにかく手だけは出させちゃいけない。
 
マジでこの2人、何考えてんだ!?
 
途中、魔裟斗さんが本気の目で、K-1MAXの偉大さを口にした。
 
 
番組の冒頭ではプロデューサーのマッコイさんから「途中から佐藤さんも城戸さんも巻き込んで」という指示も出ており、あのとき、もしも魔裟斗さんから「おい、佐藤はどう思うんだ?」と振られたら何て言ったかを想像してみた。
 
以下、私のガチの気持ちである。
 
「はい、自分はあの時代、K-1MAXが一番凄かったという自負があります。
そしてその頂点に魔裟斗さんはいた。
今でもあなたは世界中のキックボクサーの憧れでしょう。
 
『俺の現役のとき、俺より命賭けてやってるやつはいねえから!』というのは、おそらくトップクラスにいる全員が思っています。
 
だから、梶原龍児さんの『こっちだって人生懸けてんだよ』という気持ちも十二分にわかります。
 
龍児さんは『脳みそは一つでいい』と言いました。
それには間違いありません。
このSKR連合で、選手の面倒を一番見ているのは梶原龍児さんです。
自分は監督ですが、チーフセコンドは龍児さんだと思ってサブに回っています。
だから気持ちはすごくわかります。
 
魔裟斗さんは『番組あっての彼ら(選手たち)だよ?』と言いました。
それにも間違いありません。
自分ら(SKR連合)では弱いと番組側が判断して、せっかく魔裟斗さんをキャスティングしてくれた。
今日は来てくれてありがとうございます。
 
指導者としては梶原龍児さんが正しい。
TV番組としては魔裟斗さんが正しい。
絶対的な正解はありません。
 
そして自分は、今日の撮影は……
 
TV番組だと思っています。
 
すんません!」
 
と梶原龍児さんに頭を下げたことでしょう。
揉め事を終わらせるために。
 
 

直線的に蹴るのも、弧を描くのも、どっちも正解!
 
絶対的な正解はないの!
 

完全に、騙された!!
 

閑話休題、明日の決勝に向けて。
 
プロは育てないと決めた私が、こうやって擬似的にでも、監督として選手育成に携わることができた。
 
選手5人との出会いだって、とんでもない偶然の重なりよって生み出された。
 
初戦では、魔裟斗軍を古宮晴が史上初の3人抜きを達成し、全く注目のされていなかったところから「なんだなんだ」と周りがざわつき始めた。
 
準決勝では、先鋒の手塚諒太、中堅の植松愛瑠斗が奮闘し、古宮晴に繋いでギリギリ勝利をもぎ取り、勝負強さを見せた。
チームとしての結束も、より固まった。
 
決勝に向けての選抜スパーリングは、名古屋JKF(新瑞橋)の営業時間中に行われ、藤井悠斗vs宮本晋輔は、さながら決闘の雰囲気の中で行われた。
 
 
自分の人生には縁のなかった、プロフェッショナルの手によるドッキリを当事者として受けられたこと。
それを放送まで気付かずにいたこと。
今回のドッキリは、自分の中ですべてが調和したように思う。
だからこれだけ、それぞれが持ち味を出して大きな話題になっているのだろう。
 
明日もきっとSKR連合ならやれるだろう。
佐藤嘉洋、城戸康裕、梶原龍治の3監督で力を合わせ、古宮晴、宮本晋輔、藤井悠斗、手塚諒太、植松愛瑠斗の5選手でさらに力を合わせ、強敵ゲーオーズから勝利を掴みとろう!
 
なにとぞ、よろしくお願いいたします!
 
 
ここまで来たら優勝しよう。
ここで優勝したら人生変わる。
死ぬ気で行け!
セコンドはお前らが死なないように、しっかりと見極めて止めてやる。
 
 
 
 



明るく生こまい
佐藤嘉洋