夜寝るときには、暖炉で燃える薪の音といつも一緒だ。

パチパチ、パチッ

ここは、年中寒い。
あったかい世界がどこかにあると聞くけれど、にわかには信じられない 。
その代わり、部屋の中はかなり、あったかい。

パチパチ、パチッ

僕の仕事は屋内が中心だが、とても辛い肉体労働だ。
とても、辛い。
働いている間、心の鼓動は一分間に120回も鳴り続けている。

ドクドク、ドクッ

厳しいときには180回も鳴るときがある。

ドクドクドク、ドクッ。

200回を越えると冗談抜きで倒れそうになる。

ドクドクドクドク、ドクッ

当然、仕事の合間合間には休憩が取られる。
そうそうぶっ続けで仕事を与えられては、効率も悪くなる。
休みの合図が出ると、僕は仕事場から外に出る。
もちろん外はかなり寒いけれど、極度にあたたまった僕の体には、このくらいの寒さが逆に心地いい。
でも、あんまり外にいると見張り役に怒られてしまう。
もし風邪を引いて仕事の効率が落ちてしまったら、お互いにとって不利益を被ることになるからだ。
僕の仕事は完全出来高制。
やった分しか給料は入ってこない。
病気になって倒れれば、自分に返ってくる。
治すお金がなければ、そのまま死ぬことになる。
厳しい世界を生きている。
そして、生き残っている。

ドクドク、ドクッ

外で体を少し冷やしたら、すぐ中に戻るのが得策なのだけれど、僕は外にいるのが割と好きだった。
なぜかって?
それは、僕にしか聞こえない星の音色が落ちてくるからなんだ。

ポロロンポロロン

その音は、仕事場の外の階段に座っていると、たまに聞こえてくる。

ポロロンポロロン

大きい音でもないし、かといってわずかに聞こえるくらいでもない。
天から注いでくる星の音色は、僕の頭の中に直接入ってくるかのような旋律を奏でて。

ポロロンポロロン

たぶん僕にしか聞こえていないんだ。
だって他の誰に聞いたって、そんな星の音色なんて聞こえてこないって、笑われるんだもの。

ポロロンポロロン

何度か誰かに尋ねるうちに、頭の心配をされ始めたので、そのことを聞くのはもう止めた。
それが上司の耳に入って、クビにでもされたら大変だからね。

ポロロンポロロン

みんなその星の音色は聞こえないのに、目の前に仰々しく光っている自動販売機の傾きは理解しているんだ。
中にある陳列棚の一番上の列が、傾いているんだ。わずかにだけ。
そんなわずかな傾きには気づくのに、はっきりと聞こえる星の音色がわからないだなんて、変わった人たちだなあと思ったよ。

ポロロンポロロン

仕事が終わりクタクタになって家に戻ると、誰もいない。
帰ってくるとき、僕の家には誰もいない。
たぶんこれからもいない。 

まずは暖炉に火をつける。
誰もいなかった部屋は、とても冷え切っている。

基本的には誰もいないけれど、時折ガールフレンドが遊びに来る。
ガールフレンドが僕より先にいて、僕の部屋をあたためて待っている、ということだけは絶対にない。
彼女はすでにあったまった部屋にしか来ない。

パチパチ、パチッ

抱き合って互いの情愛を確かめ合い、複雑に絡まりあった感情を解消させると、ガールフレンドは仮眠だけとって自分の家へと戻っていく。
うん、まったく寂しくないわけじゃない。
でも僕は、一人が結構好きなんだ。

パチパチ、パチッ

一人であったかいカフェオレを飲んで、暖炉の前に置いたソファに寝そべり、僕の唯一の趣味である読書の時間を過ごす。
そして、眠くなるまで本を読んだら、しおりをして本を閉じて床に置く。
ああ、明日も厳しい肉体労働が待っている。

ドクドク、ドクッ

でも、仕事を終えたときの充実感といったらないし、何よりも、休憩時間に寒空の下に時折降りてくる星の音色が待ち遠しい。

ポロロンポロロン

僕にしか聞こえない

ポロロンポロロン

星の音色が

ポロロンポロロン

落ちてくるんだ

そして、そのまま、薪の燃える音を聞きながら、僕は眠りに落ちる。
明日も寒いけれど、あったまるまで働こう。星の音色は命の音色。
僕は確かにここにいる。

パチパチ、パチッ
ポロロンポロロン
ドクドク、ドクッ