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【友達とお茶した試合一週間前の夜】

家に本を忘れてきてしまった。
「ちゃんと」忘れずに持っていかなきゃ、と机の上に「ちゃんと」置いたのに、私は忘れた。
私は「忘れる人」だ。
どうでもいいことも、大事なことも、よく忘れる。
全く救いようがない。

カギを忘れることなんて日常茶飯事である。
夜遅く帰ってきて、家族全員が寝ていて、自宅から締め出されたことは数知れず。
東京の別宅のカギさえ忘れることもある。
私は「忘れる人」だ。
どうでもいいことも、大事なことも、よく忘れる。
全く救いようがない。

この地下鉄で一体何をすればいいのか。
本を読む気まんまんで来たのに、カバンを開けたら本が入っていない。
星新一のショートショートを楽しみにしていたのに。
私は「忘れる人」だ。
どうでもいいことも、大事なことも、よく忘れる。
全く救いようがない。

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もう一度、カバンの中に本当に本が無いかを調べてみる。
無い。
あるわけが、無い。
机の上に本を置いてきたことだけは、ちゃんと覚えている。
机の上の本をカバンに入れることは、忘れるのに。
私は「忘れる人」だ。
どうでもいいことも、大事なことも、よく忘れる。
全く救いようがない。

仕方がないので、地下鉄に乗っている間に自作のショートショートを作ってしまおうと思った。
オチは作らない。
オチが無いのがオチだ。

おもむろにiPhoneを開き、文章を綴る。
正面にいる女子高生のミニスカートが気になるが、この年になると、ハリのある足はあまり魅力的ではない。
25歳を過ぎたくらいの艶かしいぬるりとした足の方が30過ぎの男には映える。
その横に大きなモノがそびえ立っているような気がしたが、よく思い出せない。

ふと、私は忘れていたことを一つ思い出した。
俺は試合前に何をやっているんだ、と。

そんな自問自答を繰り返し、地下鉄を乗り換える。

電車はまだ来ない。

電車は、まだ来ない。

電車は、まだ、来ない。

あっ……

と思ったら、電車に乗るのを「忘れて」しまった。
どうでもいいことも、大事なことも、よく忘れる。
全く救いようがない。

この場合は、どっちだ。
どうでもいいのか、大事なのか、どっちだ。
いや、それは自分の中で勝手に「どうでもいい」か「大事」かをつけているだけであって、結局のところ、私はとにかくよく「忘れる人」なんだ。
それだけは絶対に紛いようもない事実だ。

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どこに行くかも、そのうち忘れてしまった。
なぜ自宅と反対方向に進んでいるのかを忘れてしまった。
なんだかどうでも良くなって、私は次の駅で電車を降り、反対側のホームに渡り、家に帰った。
後頭部が何故か痛んだ。

そして、机の上に忘れた本をソファに寝転んで、0時過ぎまで……。
さて、私は何の本を読んでいたのか。
それすらもどうでも良くなって、ただただ本の中に紡がれている文章を、読むというより見て、そして忘れた。

全く救いようがない。

後頭部に違和感を感じる。
触ると熱を含んで腫れている。
案の定、痛い。

ふと、地下鉄に乗っていて、忘れていたことを思い出した。
前方にピンクのノースリーブに黒のロングスカートを履いたとんでもない大女がいた。
身長は195cmを超えるだろうか。
横にもデカい。
太っているわけではなく、骨格自体がデカい。そんな感じだ。
彼女は杖をついて立っていた。
膝でも悪いのだろうか。
オカマなのかと思って顔を横目で見てみると、オカマじゃなかった。
そして日本人でもなかった。
自分の直感ではオランダ人だと感じた。
オランダ人の平均身長は世界一である。
私は、その大女がとにかくデカいことに驚きながら、乗り換え駅で降りた。

そうだ。
そして!
私はこの大女が持っている杖で頭を思い切り殴打されたのだ。
忘れていた。
というより、この場合は記憶喪失と言っていい。
地下鉄の乗り換えで待っている間、後ろからついてきた大女に思い切り杖で叩かれたのだ。
どおりで本の内容が全く頭に入ってこないわけだ。

電車に乗るのを忘れてしまった。

と言ったが、気絶していて乗れなかったのだ。
頭を抑えて起き上がると、会社員の男が、
「さっきとんでもない大女が、杖であなたを叩いて…」
ああ、そうですか、と答えて私の記憶は再度薄れたのだった。
そしてなんとか再度起き上がり、次の電車には乗ることができたのだった。
駅員が心配そうにして救急車を呼ぼうとしていたが、私は固辞し制止を振り切って電車に乗り込んだ。
女に杖で叩かれて気絶したなんて、末代までの恥である。
それがたとえ、195cmの男勝りの凶暴な大女だったとしても、である。

こうして私は家のソファにうずくまり、文章が全然頭に入ってこない読書を深夜まで続け、そのまま寝た。

後頭部はいぜんとして痛い。
全く救いようがない。

でもどうせ、明日になれば、こんな思い出すのも憚られるイヤなことだって「忘れて」いるはずだから、「全く救いようがない」わけではないのかもしれない。
ある意味自分は救われてもいるにも違いない。

「忘れる人」も悪くない、ということにしておこう。
でも、いつも迷惑をかけていることについては、申し訳ない。

明るく生こまい
佐藤嘉洋

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2014年8月24日
名古屋国際会議場(14時開場、15時本戦開始)
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