新聞広告から興味を持って読み始めた相場さんの
「田川警部補シリーズ」の3作目です。
一言ではとても表現できないんですが
「ま~、良くできたミステリー作品」
に仕上がってました。
相場さん作品に出会えて良かった!
とマジで思いました。
概要はGoogle Booksから引用します。
「メモ魔の窓際刑事vs多国籍IT企業」!秋田県能代市で、老人施設入居者85歳の死体が近隣の水路から発見された。雪荒ぶ現場、容疑者として浮上したのは、施設で働くベトナム人アインである。外国人技能実習生のアインは、神戸の縫製工場で働きながら、僅かな収入を母国の家族へ送金する日々を送っていた。劣悪な労働条件に耐えかね失踪。
相場さんは時事通信社で経済記者をしてきたからこそ分かる日本の「経済のあらゆる負の現場」を赤裸々に表面化することも強烈なアピールとして感じ取ることができました。
印象的だった個所です。
446ページの単行本の中、158ページ目に初めてタイトル名が登場します。「製造業に派遣労働者を大量投入しコストを下げる。それも限界に来たので今度はより時給の安い外国人です。
単純労働に従事する人材市場だけ拡大しています。人工知能(AI)が発達し、どんどん人間の仕事を奪っていくと、低所得の単純労働ばかり残ります。
そうした職に就かざるを得ない非正規労働者を下層階級(アンダークラス)と位置付ける専門家もいます」
僕には相場さんが
「日本はこうなっていいのか!?」
と読者に突き付けているように思えました。
国内の大手スーパー(たぶんイオン)から世界最大の流通(たぶんAmazon)に転職した山本(本作の犯人)は心中でこう言います。
今さら、下層一歩手前の安月給の勤め人に墜ちる訳にはいかない。日本という休息に萎む風船の中で、出世や対面ばかりを気にしてきた連中とは違う。世界規模で思う通りの絵を描き、成功という名の金を手に入れ、娘をグローバルの舞台に引き上げる。
僕は「出世欲のない”しがない”会社員」で定年退職を迎えたので、こういう気持ちはよく分かりませんが、まあ実際には存在するんでしょうね~。
最後は容疑者を落とす手法である
「囚人のジレンマ」について。
囚人のジレンマは練達の刑事たちが使う取り調べ手法のひとつだ。頑なに否認する複数の容疑者を別々の部屋に入れる。そして双方に、先に自白すれば罪を軽くしてやると告げる。
しばらく時間が経ったあと、別の捜査員が取調官に耳打ちしてその場を去る。対面にいる容疑者は、仲間が自分を売って自供したかと疑心暗鬼に陥り、最終的に犯行を口にする。今回、田川(主人公の警部補)は、主犯の山本とその愛人(実は山本を見限っていた!)をその手法で自供させました。
本作は久しぶりに「こういう作品を読むことができて良かった」と思えるクオリティーでした。
今のところ本「田川警部補シリーズ」は、本作までのようなので、相場さんの別の作品に挑戦したいと思います。
穏やかな冬晴れの朝を迎えた静岡の自宅にて