相場英雄「ガラパゴス」 | 八ヶ岳南麓の里小屋から -for comfort life-

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静岡県と山梨県、2拠点居住のおじさんです。思ったこと、美味しかったこと、楽しかったこと、等々を気ままに綴っていきたいと思います。

僕とって相場さん最初の作品「震える牛」がおもしろかったので、その”田川刑事シリーズ”の次作となる「ガラパゴス」を読んでみました。

素晴らしいです!

”正社員vs派遣社員”問題を「人間らしく働けない日本」として、”コスト至上主義”問題を「人を部品として扱う日本」として、”日本独自のビジネス”問題を「世界に遅れてしまった日本」として、強烈なメッセージを発するとともに、それを非常によくできたミステリー作品に仕上げている点に関心するとともに感動しました。

こんな作品が7年前に出ていたことを知らなかった自分に

「ざんね~ん!」

と機会損失を感じるとともに

「出会えて良かった~」

と思いました。

詳細はAmazonを引用します。
ハイブリッドカーは本当にエコカーなのか?日本の家電メーカーはなぜ凋落したのか?メモ魔の窓際刑事、再臨場。警察小説史上、最も最酷で哀しい殺人動機。ガラパゴス化した日本社会の矛盾を暴露する、危険極まりないミステリー。


ん~、さすが経済記者!という面も十分出しつつ(会社名は仮名にしているとはいえ危ない感じが楽しい!)、綿密な殺人事件に仕立てているところはさすがです。

何点か印象的だった個所を上げます。

◆日本メディアへの警告
経済界で圧倒的な存在感のある日本実業新聞(たぶん日経新聞を指している)のニュースは、一般在京紙や内外の通信社がろくなウラ取りもせず一斉に後追いする。前向きな情報がヘッドラインに溢れれば、その企業の株価は上げ基調を維持する。この構図が何十年も出来上がっているだけに、トクダモーターズ(たぶんトヨタ自動車のこと)だけでなく、日本の産業界が同紙を重視する。

 

さすが経済紙の記者をやってきた筆者だから、説得力があります。

◆田川刑事の実直さが表れるシーン
田川によって他殺と判明した犠牲者の骨を彼の故郷に持ち帰った際の言葉「捜査が至らず、こんな形での帰郷となりました。まことに申し訳ありませんでした」姿勢を正し、田川はもう一度頭を下げた。

 

僕は理詰めの展開も好きですが、こういう人情味あるれるシーンも大好きです。

◆派遣法に対する憤り
「我々が就職した時期を境に、製造業の現場はがらりと雇用形態が変わり始めたのです。製品の売れ行きが悪ければ派遣や請負の人は簡単に切り捨てる。一方、増産となればすぐに募集をかける。企業にとって人材派遣は社会保険など固定費のかからない都合の良い調整弁です」

 

そして、現場に混在する”正社員”と”派遣社員”は露骨な差別があったと筆者は本作の中で語っていました。

◆ガラパゴス
(下巻76ページに初めてタイトル名が登場します)「トクダモーターズのエクセスLなんてクルマも、ガラ携と一緒でガラパゴスそのものです」小島が発した<ガラパゴス>という単語が田川の耳に突き刺さった。

 

「ガラパゴス」は島国日本の負の遺産かも知れませんね。

◆殺される直前に仲野が発した言葉
<俺を殺す見返りは?・・・貧乏の連鎖は、俺で最後にしろ>・・・「仲野さんは、そう言ったあと、切れ切れの声で、居酒屋で歌った島の古い子守唄を小さな声で口ずさみました」

 

このシーンに涙した読者は少なくないはずです。相場さん、素晴らしいです。

◆田川刑事の犯人への想い
「長内さん(殺人犯)、あなたは間違いなく起訴され、裁判にかけられます。だが、情状面では、できる限りの協力をさせてもらうつもりです」「どういうことですか?」「あなた方のやむにやまれぬ境遇を裁判で証言します。そのためには、検事を説得することも厭いません」

 

まさに田川刑事の新骨頂がここに現れていたと思います。

◆人として認めてもらえない
(殺人教唆で逮捕された清村の言葉)「執行猶予が付こうが、実刑になろが、どっちにしても俺はまたアルバイトからやり直しなんだよ!」「おまえは人を殺す計画に加担した共犯だ。なぜ被害者のことを考えない?」「派遣からやっと正社員になれたんだ。あんたらに分かるかよ、その日暮らしの不安と、人として認めてもらえないキツさがよ」「どんな事情があろうと、人を殺めることは許されない」「そんなこと知るかよ。派遣クビになって、ホームレスに落ちて、そこら辺の公園で野垂れ死にする人間がうじゃうじゃいるじゃないか!」

 

ちょっと言葉にならないシーンでした。しかし、日本のここそこで起きていることだと、相場さんは伝えたかったんだと思います。

繰り返しになりますが・・・

深刻な社会問題を一気読みしたくなるミステリー小説に仕上げた相場さんに敬服します。

 

とっても寒い朝を迎えた静岡の自宅にて

 

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