マーブルチョコ
とても美食家だった親父は、
亡くなる前の1年間はずっと病床で、
病院の味気ないご飯を食べて過ごしてた。
水も勝手に飲んじゃいけないらしく、
プライドの高い親父がトイレの水を飲んでいて、
でもそれも見つかっちゃったもんだから、
コップを取り上げられちゃって、
それでも左半身不随の身体を引きずり、
不器用に片手でトイレの水をすすってたな。
そして、いつの間にか口癖になっていた。
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何のために生きているんだ?
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美食家の親父は寿司と鰻が特に好きだった。
反して甘いものが嫌い。甘いものは食べなくて、
菓子類なんて口にしている姿を見た事すらない。
亡くなる1ヶ月ほど前、
見舞いに病院へ行ったら、
親父がコソコソなにかを食べていた。
死期が迫る身体は目を覆うほど痩せてて、
骨と皮しかない指先でつまんでは食べていた。
マーブルチョコ?
この後も点滴と病院食で1ヶ月を生きたんだけど、
美食家最後の味はこのマーブルチョコだったんだと思う。
親父が亡くなって2年が経った。
今でもマーブルチョコを見ると親父を思い出し、
親父を思い出したいときはマーブルチョコを買う。
口に入れずとも、見ているだけで必ず涙が出る。
今も涙が止まらない。
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