では、『海に棲むのは』編の番外編となる『後日談』を書いていきたいと思います。事件解決から半月以上が経過しましたが…。やっと当シリーズもここまで辿り着けました。今シリーズの番外編も少しでも楽しんで頂けますように❗️

 

 

 

 

 

 

 

その人物は罪悪感と後悔に押し潰されながら過ごしていた。自分が事件を起こした上に、想像よりも多くの被害を生んでしまった事。何より友人が強い殺意を持ち続けていた事に全く気が付けていなかったのだから…。

 

 

 

彼女…『河江 夏子』は経済的に裕福な家庭とは言えなかったものの、両親から特に冷たくされていなかった事。更に周りにいる者達からも非道な扱いを受けなかった。交友関係に恵まれた方であったからだろう。平穏な日々を過ごす事が出来ていた。特に家が近所で同じ年齢だった事で、ある人物…『吉本 裕美』とは物心が付く頃には親しい幼馴染みという関係だった。そして月日が流れても裕美との関係は変わらず、進路先も同じ学校を選び不快感も湧かなかったからか。気付けば幼馴染みという関係は親友へと発展。その状態は永遠に続くものだと互いに、少なくても河江は信じていた。

 

だが、そんな状況は変わってしまう事になる。1人の女…『森 絵莉花』と出会ってからだ。彼女は入学時から独特な雰囲気を漂わせていたせいだろう。学業においては優秀だったが他の生徒達から度々絡まれ、その姿を目の当たりにしてきた為か。それを制止させるべく声をかけた事で関わるようになる。そして森を通して彼女の兄…『森 楓季』とも接触。時々ではあるが一緒に遊ぶようになり仲を深めていく。それは気付けば楓季と吉本が交際するほどまでに発展していて。知った時には驚きや戸惑い以上の強い喜びを感じていたのだった。

 

だが…。

(そう感じていたのが私だけだったなんて…。)

『親友』と『友人の兄』との交際に喜んでいたのは自分だけではないと思っていた河江。だからこそ2人から報告を受けた後の喜びや、亡くなったと聞かされた時の深い悲しみも自分と同じだと思っていた。だが、実際に森が抱いていたのは自分と真逆の感情だった。何より親友を襲った者へと復讐させるべく情報や薬物を提供。決断し易い状況を作らせると、実行までさせる事で自分の手を汚さずに2人の男…『高沢 一平』と『坂田 剛』の始末も終えたのだ。そして河江を事件の犯人として逮捕させる事で『楓季と吉本を引き合わせた存在』も消そうとしていたというのも知ってしまったからだろう。河江の苦痛は強まるばかりになってしまう。その強さは泣け

なくなり、誰の言葉も聞こえなくなってきてしまうほどだった。

 

 

 

そんな状態で過ごしていた頃だった。河江の所に2人の若い女性が面会にきたのは。しかも2人の内の1人…スーツ姿の役人と思われる方は端末を操作すると告げた。

「あなたの親友…『吉本 裕美』さんが死の直前に言葉を残していた事が判明しました。あなたへ向けた言葉を、です。そして日記にもあなたへの想いが綴られている事も分かりました。…辛いとは思いますが見てみませんか?」

「…っ。」

そう言いながら女性が見せてきたのは事件の真相究明時に利用されたドローン映像だが、あの時のよりも後の方…一通りの暴行を受け海に投げ込まれる直前の吉本の様子が映されたものだったせいか。河江は最初、息を呑み目を僅かに逸らしてしまった。だが、横目で見れば声を発する事は出来なくなっても何かを告げていて。その後、微笑みを浮かべながら海に投げ込まれていたからか。いつの間にか河江は映像に見入っていた。そして女性は映像解析の結果から吉本が呟いたのが河江の名である事を告げた上で、日記も開きながら続けた。

「あなたは『吉本 裕美』さんを守れなかった事や『森 絵莉花』が仕組んでいた事に気付けなかった。それに心が消耗してしまうのは仕方ないでしょう。事実、ではありますから。ですが、この映像や日記からも分かる通り、吉本さんはあなたと共に過ごす毎日を楽しんでいた。大切にしていた。だからあなたは生き続けなくては。吉本さんの分も。」

「…っ。」

見せられた映像や日記の方に目線と思考は向けられていても女性の言葉は届き続けているからだろう。河江は再び息を呑む。すると僅かでも反応があり、その様子から言葉が届いているのに気が付いたのか。今度は女性と共に面会に来ていた少女が話し始めた。

「私も大切な、いえ…好きな人を失いました。そして…失っていた事にも気付けませんでした。」

「っ!」

少女の言葉に自分と似た境遇だと思ったのだろう。思わず顔を上げる河江。そして少女は河江を見ながら再び口を開いた。

「失っていたと知った時、辛くて堪らなかった。そして気付けなかった自分の事が許せませんでした。『もっと前に気が付いていれば何かが変わっていたかもしれない。』と。そんな事を考えても仕方ないのも分かってはいるんですけどね。」

「…どう乗り越えたの?その…知った後って…。」

少女からの話でやはり自身の境遇と重なったらしい河江は思わず問いかける。助言を貰いたかったからだ。すると当の少女は頭を横に振るとこう答えた。

「乗り越えていないと思います。多分、今も。」

「え…。」

「特別な人を失ったんです。乗り越えられるものじゃないと思います。彼の事を思い出すと今も苦しかったりしますから。…でも私には彼が遺してくれたものがある。思い出、とか。だから生きられるし、生きるしかない。…そう思いながら過ごしてます。」

「…。」

「私は河江さんじゃないから分からない。でも…あの事件に関わった1人として願っています。あなたが少しでも顔を上げて生きていく事を。…吉本さんと一緒で良いんですから。」

「…っ。ありがとう、ございます。」

助言を求めたというのに、それを持っていないかのような少女の姿に河江は最初戸惑ってしまう。だが、少女が続けた言葉は不思議と胸の中にまで響いてきて。河江の瞳からは新たに涙が溢れてしまうが、その表情は自然と柔らかくなっていく。そして面会に来てくれた2人へ感謝の言葉を告げるのだった。

 

一方の2人は無事に河江への面会を終えられた事。何より僅かであっても彼女の顔を上げさせる事が出来たと感じたからだろう。胸を撫で下ろしていた。そして建物から出ると不意に少女は呟いた。

「…良かったです。あの人が…河江さんが少しでも顔を上げられるようになって。その…日暮に頼まれた時、最初は不安だったんです。あの時、事件に関わった事以外、河江さん達を全く知らなかったので。」

「私も河江さんの面会にあなたを連れて行かせる事を頼まれた時、一瞬訳が分からなかった。だけど、事件の背景や河江さんの事を改めて知って理由が分かったわ。…その分、あなたの事が心配になったけど。大丈夫かしら?」

「はい。多分、ですけど。…だって、『彼』が遺してくれたものがありますから。身近に。」

少女…鳥居の不意に呟いた言葉に、女性…辻寺は不安そうに尋ねる。だが、言葉通り心の不安定さはもう改善されていったのか。瞳は涙が滲んだ状態のままであったが、表情は暗いものではなく穏やかだ。そして敷地からも出ると、本丸へと共に帰還する為に待っていてくれた『特別な人』が遺した存在…刀剣男士『大倶利伽羅』に合流。転送機へと向かっていく2人の後ろ姿を見つめながら辻寺も自宅へと帰っていった。

 

 

 

一方その頃。『ある人物』…白い髪が特徴的な少女である日暮は、自身の本丸内の自室にて僅かに表情を柔らかくさせながら携帯端末の画面を見つめていた。辻寺と鳥居に頼んでいた河江への面会を無事に終えたという連絡が届いたからだ。すると安堵した様子で徐に呟いた。

「…というわけで、彼女も多分大丈夫だし、皆も退院出来た。何より私もこうして復帰出来た。だから、これ以上は気に病まなくて良いのよ?浦島。」

「っ、主さん…。」

「むしろ私はあなたの事が心配よ。…好きで夢だったものを壊しちゃったんじゃないか、って思って。」

「それは、その…大丈夫だけど。っていうか…良いの?まだ竜宮城の事とかを夢見たりして…。」

「もちろん。」

事件から日が経過したとはいえ、関わってしまった者達がようやく歩き始める事が出来たからか。その事を言い聞かせるように日暮は刀剣男士…『浦島虎徹』に告げる。自我を失っていたとはいえ現在の主である日暮を傷付けた事を未だ気にした様子だったからだ。そして実際に僅かに落ち込み続けていた浦島の呟きに即答。更に彼を見ながら続けた。

「竜宮城はあなたにとって夢なんでしょう?こうして目覚める前からの。それほどの夢なら大切にしなきゃ。あなたを表す核でもあるんだから。」

「主さん…。」

「まぁ…今回はあの子が海にいたからか。いつもより異界になっていたみたいだけどね。」

「あの子、って…。美亜さんだっけ?そういえば水に好かれ過ぎているんだっけ。何でかな?」

「名前の力。正確には名字の力、じゃないかな。『竜『宮城』』に文字だけでも入っているでしょう?だから水の、特に海や川とかの異界に繋がり易い水辺に好かれてしまうんだと思う。そこに宿る存在が『乙姫を迎えるような感覚』になるんじゃないかな。あくまで私の想像だけどね。」

「…っ。」

「はい、この話はここまで。今日の部隊発表とかをするから皆を集めておいてくれる?」

「う、うん。分かった!」

夢を捨てなくて良い事を改めて、真っ直ぐに告げられたからだろう。日暮を傷付けた事に対する後悔を僅かに残しつつも、少しずつ進んでいく事を決意した浦島。だが、僅かな疑問から宮城と竜宮城との繋がりを感じてしまったせいか。浦島は寒気のようなものを覚え息を呑んでしまった。

 

だが、動揺ばかりもしていられない事も分かっていたのだろう。現に日暮の指示に浦島は頷くと皆を大広間へ集めるべく彼女の自室を出ていく。そして日暮もそれの後を付いていくように自室を後にした。いつものように『審神者』としての職務を行う為に―。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…というわけで、シリーズの番外編となる『後日談』でした。

今回はまとめらしく、今シリーズ内の事を色々と回収してみました❗️『河江 夏子』の事は過去を含めあまり書いていなかった気がするので改めて書いてみました。また『宮城 美亜』の事は今シリーズを書いている時に不意に思い付いたので、今回『竜宮城』との繋がりを匂わせてみたのです。上手く再現出来ていますでしょうか❓少しでも納得してくれると嬉しいです🙏

 

それでは、また~🖐️