では、『海に棲むのは』編の続きを書いていきたいと思います。自分達の血液を調べた事で日暮はトリックに確信を得て…。世間では新生活に追われている人も少なくないかと思いますが、こちらは『新生活や新年度?何それ、美味しいの??』と思われるぐらい変化なし。なので、何も気負いせずに見て下さいね❗️

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お呼び出してしまい、すませんね。しかもこちら側の入り江にまで来ても貰って。お2人に改めて話がありましたので、ここに呼び出させて頂いたのです。」

「はぁ…。」

「お話って何ですか~?というか、こんな所があったんですね~。私、知りませんでした~。」

一緒に海に来ていた2人の友人…坂田と高沢が海に溺れ、意識不明の状態で緊急搬送されたからだろう。警察から当初にされた説明も『海難事故の可能性が高い。』と言われた事もあり、待機させられ調書を取られてもすぐに解放されると河江と森は考えていた。そして予想していた通り待機を言い渡されてから数時間後に警察から呼び出されたのだが、連れて来られたのは海水浴場とは異なる場所。彼らが溺れているのを発見された現場であり人々が海水浴を楽しんでいた浜から離れた、人の気配もほとんどない入り江だったせいか。河江と森は強い困惑を示してしまうのだった。

 

そんな彼女達の様子を沈んだ表情で見つめている者達がいた。被害者と容疑者という立場になってしまった4人とバーベキューを共にした宮城と鳥居だ。特に宮城はこの入り江に来る直前に日暮から推理のようなものを聞いていても、未だ半信半疑に近い状態になり続けているのだろう。視線を向けてはいても、その瞳に力を込める事が出来ない。ただ遠くを見つめているかのように、鈍い光が宿る瞳で河江と森を映し続けていた。

 

だが、宮城達の視線の先では空気が張り詰め始めていた。刑事から坂田と高沢が溺れたのは事故ではなく、そう見せかけた事件である事。それを実行したのは河江と森のどちらかという事を言い放たれていたからだ。その方法がバーベキューのタレに『体を動かし難くさせる薬物』を混入させた事。坂田と高沢が苦手である風味のする追いダレの方に『最初のタレに含ませた薬物を相殺させる薬』を入れる事で、自分達は難を逃れていた事も…。

「っ、タレに薬物を入れるなんて…!そんな証拠、どこに…!」

「あります。バーベキューで出した生ゴミの中から検出されました。もちろん2種類の薬物が。そして同じ成分が私と彼女の体からも出ました。十分な証拠になるかと思いますが。」

「…っ。」

「ちなみに…状況と理由からあなたが仕込んだと考えています。料理が得意で、親友が亡くなる原因を作った今回の被害者2人に対して密かに負の感情を持っていた…『河江 夏子』さん。」

「っ、夏ちゃん…。」

刑事からの説明に納得していない河江と森に対し、補足するように話す日暮。彼女達を真っ直ぐ見つめながらだ。すると日暮の持つ人と異なる独特な空気に当てられたのか。河江は小さく息を吐くと観念したように語り始めた。

「…その通りです。私があの2人に薬を使いました。海難事故に見せかける為に、あなたが話していた方法で。よく分かりましたね?」

「自分の手に違和感があったから。動き難いって感覚が。多分、量のせいで『体を動かし難くさせる薬物』の効果の方が強くなって、相殺する事が出来なくなってしまったんだと思います。まぁ、それも今は治まってきましたが。」

「っ、ごめんなさい…。巻き込んでしまって。あの2人以外、そういう目に遭わせるつもりはなかったんです。信じられないでしょうけど。」

「そんなに…そんなに2人を死なせたかったんですか?だって、皆で仲良くバーベキューをしていたじゃないですか。なのに…!」

「…っ、ごめんなさいね。」

日暮に促された形ではあったが、すぐに反抗を認めてきた事。それを表すように手段についても日暮が言い放った通りである事も自供してきたせいだろう。信じたくなかった事で思わず問い詰めてしまう宮城。聞いているだけで苦痛を感じてしまうような声でだ。そして実際、犯人であるはずの河江でも辛くなってしまったのか。表情が歪んでしまうだけではなく、既に意味を持たないというのに謝罪の言葉も自然と漏らす。更に海の方向を見つめると再び話し始めた。

「…許せなかったの。あの娘の体だけじゃなくて心にまで深い傷を負わせ殺した彼らの事が。」

「あなたの親友…『吉本 裕美』さんの事ね。『坂田 剛』と『高沢 一平』に襲われ、最後には海に沈められ殺されてしまった、っていう。」

「ええ…そうです。といっても、発見された時には海流によって傷が多すぎたせいで襲われていた事すら分からなかった。でも検死のおかげで発覚して犯人も分かったので、彼らに近付く事にしたの。裕美に行った事に対する罪を認めさせ償わせる為に、ね。」

「だけど出来なかった。…そういう事でしょう?」

「はい…。あの人に…楓季さんに止められたのです。『君が彼らに会うのは危ないから俺がやる。裕美の為にも。』と言って。…結局、それも達成出来なかったみたいですけど。」

「亡くなったそうね?それも最初は『海難事故としか思えない状態だった。』って。」

「裕美の時みたいにもみ合った痕跡はありました。ただ『楓季さんの場合はあまり傷がなくて、ほぼ溺死に近かった。だから海難事故の可能性も低くない。』…警察からはそう説明されました。」

「確かに彼の体で目立つ外傷は頭部で他は僅かなか掠り傷だけだった。そして頭部の傷というのも直接の死因になるものじゃなくて、海中の岩に打ち付けた程度で肺には海水が多く含まれていた。それらもあって海難事故という事にはなってしまったが…。」

「ええ。そのせいで楓季さんの事を調べて貰えなくて。それも口実に2人は罪を認めなかった。『裕美と楓季さんの死はあくまで事故死。自分達は関係ない。』って主張してきた。許せなかったわ。」

「だから彼らが死ぬような状況を作り上げたのね。」

「はい。もちろん予想していたよりも上手くいって驚いてもいます。でも、やっぱり嬉しくもあるんです。ようやく復讐を果たせたから…。」

「…っ。」

そう語る河江の様子は一見すると謝罪の言葉を口にした時と変わらない。だが、やはり言葉通り坂田と高沢を死に近い状態にさせた事に対し後悔もしていないのだろう。宮城だけではなく鳥居や刑事ですら息を呑んでしまうほど、満足げな微笑みを浮かべていたのだった。

 

 

 

こうして『河江 夏子』の自供により事件は幕を閉じた。だが、まだ解決し切っていないのを宮城達は知る事になる。日暮のこんな言葉により…。

「それで…あなたはこれで満足なのかしら?…『森 絵莉花』さん。」

「…琴里さん?」

「…。」

日暮の言葉の意味が分からず、思わず聞き返してしまう宮城。それでも彼女からの言葉の意味を、しかも恐怖に近い感情と共にすぐに理解してしまう。視線を動かした先に笑みを浮かべている森がいたからだ。河江よりも思考が読めず、冷たくて不敵な笑みを浮かべていた森の姿が―。

 

 

 

 

 

 

 

…というわけで、シリーズ第7話目でした。

今回の見どころはやはり犯人への追及と動機が明るみになった部分です。…といっても、今話の最後でお察しの通り、今回の事件にはまだ続きがあります。次も頑張るぞ✊

 

それでは、また~🖐️