では、今回から『海に棲むのは』編を書いていきたいと思います。今話ではまだ分かり難いかもしれませんが、前回の更新の最後や今シリーズの題名でも書いたように現在の季節では寒い場所での話になります。なので、体を何とか温めたり、気候が少しでも暖かい時に見て下さい❗️

 

 

 

 

 

 

 

『海は色んなものが棲んでいる。多くの人の想いと、そこから生み出された存在が―。』

 

 

 

「我々、人類は長年地球以外の大地を目指してきました。おかげで宇宙へと飛び立てただけではなく、他の星々へも降り立つ事が出来ました。そこに住む者達との交流も少しずつ可能になりましたよね?少なくても地球達が存在する、この銀河の終着点近くにまで辿り着こうと動いていた時に力を貸して貰えたぐらいにはですが。」

技術の向上により撮影だけではなく、それを配信する機能も確実に成長していったからだろう。声高らかに語る男の周囲には誰もおらず1台の自立式カメラと、様々な角度から撮影する為か。カメラが内蔵された小型のドローン1機が室内を飛び回っているだけだ。だが、一見すると寂しさを感じさせる状況であっても、この会見を多くの人々が見ている事は感じ取っているようだ。現に男は声色を変えずに、こう続けた。

「そんな我々でも、まだ辿り着く事が出来てない場所があります。…そう。海底です。場所によっては調査をほぼ終えられましたが、全ての海底ではありません。それもマリアナ海溝のような深い場所だけではないんです。強い力で海上へ弾き飛ばしたり、どんなに強固な機器でも何故か破壊される場所があるのです。まるで人類を拒むように。…けど、諦めてはいけません。ずっと不可能だと思われていた、この地球がある銀河の終着点まで何とか辿り着く事が出来たのです。全ての海底について知る事が、見られる日は来ますよ。きっと…いや、絶対に!」

そんな言葉が今回の会見を閉めるものだったのだろう。それを告げると男は自分を撮影し続けてくれたカメラを見つめる。そして男のその顔を少し大きく写しながら、この日の会見は終了した。

 

だが、あの日の会見で放たれた予言のようなものは結局外れてしまったらしい。全ての海底に未だ辿り着く事が出来ていないからだ。男…海底等に関する分野にて世界でも認められている名誉教授が中心となって、様々な方法を持ちよりながら動き続けていたというのにだ。その事実は名誉教授にとって当然、苦痛すら感じてしまうほど不完全燃焼なものにあたるのか。元々の肉体が壊れそうになる前にクローンの体を名誉教授は用意。更に自分の思考をプログラムの1つとして残しておくと半永久的に生き残り続けていた。もっともあの会見から百数十年以上経つ現在においても、名誉教授を含めた人類は全ての海底を知る事が出来ていないのだが。

 

 

それほどまでに海底、正確には海というのは現代においても未知の場所で。未知であるからこそ不思議と魅力的に思えるのだろう。どんな季節、どの海でも必ず人がいるようになっていた。そして海に魅力を感じているのは特殊な人物…『審神者』も同じらしい。現に『ある審神者』からは、こんな言葉が漏れていたのだから…。

「海に行きたい、ですわ…。」

「…またかい?君って本当に好きだね。」

音となって吐き出されてしまったとはいえ、彼女…『宮城 美亜』の声は独り言としか感じないほどに小さいものだった。だが、執務室にいるのは人の声等に敏感な者が多い刀剣男士の1振…『歌仙兼定』だった事。何より宮城の初期刀である為に、彼女の事が分かっているからか。唐突とも言える呟きにも特に動揺する事はない。むしろ予想通り過ぎる言葉を呟く宮城の様子に少し呆れてもしまったようだ。それを表すように歌仙は人間らしくタメ息を吐いてしまうのだった。

 

だが、自分に対し呆れた様子の歌仙を目の当たりにしても宮城の態度は変わらない。そればかりか一度声にして吐き出してしまえば、益々欲望のようなものが強くなっていったのだろう。歌仙に応えるように続けた。

「ええ、好きですわ。だって海ってそこに行って過ごすだけで、日常から離れられるような場所でしょう?昔と違って環境改善が進んで大半の所が綺麗になりましたし。」

「気持ちは分からなくもないけど、君泳げないだろう?大丈夫かい?」

「そ、れは…そうですけど…。でも…気分転換、したいですわ…。」

生まれ育ったのが海でも山でもない内陸の、しかもどちらかと言えば都会の方だからか。ただ単に父親に似ただけなのか。運動全般があまり得意ではない宮城なのだが、その中でも特に水泳は苦手だった。本人の意志や動きに反して体が勝手に沈んでいく、いわば『カナヅチ』と表現される体質だったのだ。それを以前、気分転換に付き合った時に目の当たりにした事。更には宮城の幼馴染みで友人でもある2人…日暮とその担当者の『辻寺 泉』からも改めて聞き知ってしまったからだろう。初期刀の歌仙を含め、宮城の刀剣男士となった皆は頭を抱えてしまう。だが、『そういう部分』以外は真面目に『審神者』の職務を全うし続けているのを皆も分かっていて。

れらを含め宮城の事は主としても嫌いではない為か。宮城の望みを少しでも叶えるべく、海に行くのを強く望んできた時には自分達の中の誰かが同伴する事を決意。宮城にも約束させたのだった。

 

そんな決意と約束は『審神者』になって数年が経過していても当然変わらない。むしろ共にいる年数が経てば経つほど日々宮城を『大切にしたい。』という想いが強くなっていく。そしてそれは同時に『彼女の望みを叶えたい。』というのも湧かせ、それも強くさせていったようだ。 現にタメ息のようなものを漏らすと告げた。

「…分かった。どうしても行きたいのなら、僕達の中の誰かと一緒にしなさい。」

「っ、良いんですの?」

「最近…というか、君は意外と真面目に仕事をしてくれる。最近は特に色々と大変な事が起きて楽しめなかっただろう?だからご褒美だよ。」

「歌仙…!ありがとうございます。」

呆れた様子でありながらもカナヅチな自分が海に行くのを許してくれた事。しかも今回の場合は話の雰囲気から大侵寇の事を理由に認めてくれたが、いつも最終的に受け入れてくれているのも自覚。それに喜びを感じた宮城は嬉しそうに感謝の言葉を口にすると、他の刀剣男士達からの話で友人達も誘いたくなったのだろう。自分と同様に『審神者』を務めている2人に連絡し、どちらも提案に乗ってくれた事を嬉しそうに報告する。そして自分達の主のその様子を彼らは微笑ましく見つめていた。

 

 

 

だが、一緒に海に行く友人の内の1人の影響なのか。外出先の海にて宮城は事件に巻き込まれてしまった。もっともこの時は歌仙を含めた本丸で留守番していた彼らや海へ同伴した『乱藤四郎』といった刀剣男士達だけでなく、宮城自身も全く予想していなかったのだが―。

 

 

 

 

 

 

 

…というわけで、シリーズ第1話目でした。

今話の見所は『宮城 美亜』と初期刀『歌仙兼定』とのやり取りでしょうか。ちなみに私の中では宮城はこの『白審神者の事件簿』において一番年相応の性格であり、『審神者』に就任するまでの過去から見ても最も幸せ(?)な人です。兄と弟の間に生まれ育ちましたが、ちゃんと両親からの愛情を受け本人も自覚している。そして育った環境がまともな事で対人関係も悪くはない。つまり改めて考えてもやっぱり一番幸せな人なわけです。そういう所も知ってくれると嬉しいです😄

 

それでは、また~🖐️