英語遊歩道(その60)-竜巻が通り過ぎた朝-「仁王立ち」の父 | 流離の翻訳者 青春のノスタルジア

流離の翻訳者 青春のノスタルジア

福岡県立小倉西高校(第29期)⇒北九州予備校⇒京都大学経済学部1982年卒
大手損保・地銀などの勤務を経て2008年法務・金融分野の翻訳者デビュー(和文英訳・翻訳歴17年)
翻訳会社勤務(約10年)を経て現在も英語の気儘な翻訳の独り旅を継続中

気象庁が「竜巻注意情報」の発表を始めたのは2008年3月のことらしい。偶然にも私が翻訳者として独立した時期と符合する。

 

県内でも時々「竜巻注意情報」が発表されることがあり、そんな時いつも思い出すのが高校3年のある朝のことである。もう50年近く昔の話である。

 

 

高校3年(1976年)の9月のある日のことである。その日は朝5時ごろ、ただならぬ物音で眠りから覚めた。「台風かな?!」と思った。

 

布団から這い出して窓を開けるとベージュ色の空が見えた。だが、それは空ではなく砂嵐のようだった。何かが高速で渦巻きながらで飛んでいた。隣家の屋根すら見えなかった。とにかく家族を起こそうと階下に降りた。そこには箒を片手に戦闘態勢を取った父が仁王立ちしていた。

 

父は「米軍がまた妙な兵器を作ったのかも知れん?!とにかく家から出るな!」と言った。さすがは戦中派である。発想が違う。

 

 

暫くすると家族みなが目を覚ました。いつの間にか砂嵐は治まっていた。テレビのスイッチを入れたが砂嵐に関するニュースは何も報道されていなかった。

 

7時半が過ぎて登校の時間になった。玄関から恐る恐る外に出た。いつも通り日は昇っていた。バス停まで路傍のあちこちに見慣れないものが飛来していた。また、樹木の木の葉は吹き散らされて路面にベッタリと貼り付いていた。

 

木の葉は何か見えない力で路面に押し付けられたように見えた。小雨に濡れた木の葉が朝の光にキラキラと照り映えていた。ただ、この木の葉以外は何も無かったかのようにいつもの一日が始まっていた。

 

 

わりと近くの場所で、未明に竜巻が発生したことを知ったのは、その日の夕方のことだった。