ある動詞が能動態のままで、受動の意味を持つ場合を「能動受動態」(activo-passive)と呼び、このような動詞を「受動動詞」(passival verb)と呼ぶことがある。本Articleではこの「能動受動態と受動動詞」に焦点をあて、例文を挙げて若干の考察を行う。
よく見かける例としては、
This book sells well. (能動受動態)
= This book is sold well. (受動態)
「この本はよく売れる」
というものだが、「能動受動態」は以下の特徴がある。
①具体的なモノ(商品・製品など無生物)が主語になる場合が多い。
②現在時制で使われることが多く、何らかの副詞(句)を伴う場合が多い。
「能動受動態」が過去時制に使われる場合もあるが、特定の過去(出来事)には使えない。この場合は通常、受動態を使う。
The product sold well through mouth-to-mouth advertising.(〇)
「その製品は口コミ宣伝でよく売れた」
That product sold yesterday.(×)
→ That product was sold yesterday.(〇)(受動態を使用)
「あの商品は昨日売れた」
「能動受動態」を能動態と受動態の中間的存在という意味で「中間態」(middle voice)、動詞を「中間動詞」(middle verb)と呼ぶこともある。以下、英文例を記載する。
1. 英文例
(1) 無生物が主語のケース
a) Onions cook more quickly than potatoes.
「タマネギはジャガイモより早く煮える」
b) This knife cuts well.
「このナイフはよく切れる」
c) This meat doesn’t cut easily.
「この肉は簡単には切れない」
d) This wine drinks sweet (flat).
「このワインは甘口だ(気が抜けている)」《ほぼ廃止》
e) This cake eats crisp.
「この焼き菓子はカリカリする」
f) This sweet potato eats like a chestnut.
「このサツマイモはクリのような味がする」
g) This cloth feels velvety (like velvet).
「この布はビロードのような手触りがする」
h) This milk won’t keep till tomorrow.
「この牛乳は明日までもたない」
i) This door locks by itself.
「このドアは自動的に錠がかかる」
j) The sign reads, “Keep out.”
「看板に『立入禁止』と書いてある」
k) This letter reads like a blackmail.
「この手紙は恐喝めいている」
l) This provision reads various ways.
「この規程は様々な解釈ができる」
m) This room rents at $600 a month.
「この部屋の家賃は月600ドルです」
n) This car rides very well.
「この車はとても乗り心地が良い」
o) On a rainy day, umbrellas sell well.
「雨の日は傘がよく売れる」
p) The film is now showing.
「その映画は今上映されている」
q) Newspapers tear easily.
「新聞紙は簡単に裂ける」
r) This cloth washes easily.
「この生地は簡単に洗える」
s) This carpet wears well.
= This carpet lasts long.
「このカーペットは長持ちする」
(2) 生物(人)が主語
a) She photographs (or takes) well.
「彼女は写真写りがよい」
b) Few women in the world can compare favorably with her.
「彼女に優るとも劣らない女性は世間に殆どいない」
c) He is old, but he has worn well.
「彼は年を取っていてもまだ若々しい」
2. 若干の考察
この「能動受動態」や「受動動詞」については、上述のdrinkのように廃止されつつある表現もあり、昨今の文法書ではあまり記載されなくなっている感じがする。以前は受験英語などでもよく取り上げられていたが、今はどうなのだろうか?
我々のようなビジネス翻訳に携わる立場から考えると、このような「能動受動態」や「受動動詞」が英文和訳で現れた場合は、能動/受動の意味を取り違えないように注意して和訳し、また和文英訳においては態々(わざわざ)使う必要もないのではないか、と考える。
参考文献:
「英文構成法」(佐々木高政著/金子書房)
「表現のための実践ロイヤル英文法」(綿貫陽、マーク・ピーターセン共著/旺文社)、他