「香爐峰下新卜山居草堂初成偶題東壁」 白居易 -自作英訳第四版-  | 流離の翻訳者 青春のノスタルジア

流離の翻訳者 青春のノスタルジア

福岡県立小倉西高校(第29期)⇒北九州予備校⇒京都大学経済学部1982年卒
大手損保・地銀などの勤務を経て2008年法務・金融分野の翻訳者デビュー(和文英訳・翻訳歴17年)
翻訳会社勤務(約10年)を経て現在も英語の気儘な翻訳の独り旅を継続中

7月の下旬、5年程住んだ大学の側を離れて、少しだけ自然が残る地に新たな庵を結んだ。まだまだ片付いていない処が多い中、猛暑が容赦なく訪れた。

 

此処はやや標高が高く見晴らしがよい。疲れた羽を休め、来たるべき戦いに向けて刀を研ぎ直すには最適の場所である。川中島の戦いで謙信が布陣した妻女山を思い起こさせる。

 

心境は全く違うが、以前掲載した白居易の漢詩の英訳を少し手直ししてみた。

 

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「香爐峰下新卜山居草堂初成偶題東壁」   白居易

 

「香炉峰下新たに山居を卜(ぼく)し草堂初めて成る 偶(たまた)ま東壁に題す」

 

日高睡足猶慵起         日高く睡り足れども猶起くるに慵(ものう)し

小閤重衾不怕寒         小閣に衾(ふすま)を重ねて寒を怕(おそ)れず

遺愛寺鐘欹枕聽         遺愛寺の鐘は枕を欹(そばだ)てて聴き

香鑪峯雪撥簾看         香鑪峯の雪は簾(すだれ)を撥(かかげ)て看(み)る

匡廬便是逃名地         匡廬(きょうろ)は便(すなわ)ち是れ名を逃るるの地

司馬仍爲送老官         司馬は仍(な)お老を送るの官為(た)り

心泰身寧是歸處         心泰(やす)く身寧(やす)きは是れ帰する処

故郷可獨在長安         故郷何ぞ独り長安にのみ在らんや

 

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(現代語訳)

日は高く昇り、睡眠も十分とれているのに起きるのが面倒くさい。小さな部屋に布団を重ねているので寒さは怖くない。

遺愛寺の鐘は枕から頭を上げて聴き、香爐峰の雪は簾を上げて見ることができる。

匡廬(廬山)は名誉や名声を求めず引き篭もるには都合のよい場所であり、司馬も老後の隠居生活には恰好の職である。

心が落ち着き、身体も安まる場所こそが安住の地であり、故郷はなにも長安に限らない。

 

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(自作英訳紹介・改訂四版)

A poem composed on the east wall in commemoration of the first settlement of the thatch hut at the foot of Mt. Koroho” by Bai Juyi


Even in the late morning with enough sleep, I’d like to be in the bed a little longer,

Where there’s no fear of cold under layered bedclothes in this small hut.

I listen out for the sound of bells from Iaiji temple on the pillow,

Whilst scrolling the reed screen to look at the snow on Mt. Koroho.

Lushan is a place to hide myself from seeking honor and fame,

While the local governor is a suitable post for me to spend my last days.
Here’s the very place that I could live a quiet life with peaceful mind,
There’s no reason why Chang’an should solely be my hometown!