その10(№5670.)から続く

今回は前回の続きとして、何故「銀座-晴海間のLRT計画が頓挫したのか」について取り上げます。
なお、予告編では「晴海通りLRT計画」としていましたが、本文で述べる理由により、訂正・変更いたします。悪しからずご了承ください。

では本題。
晴海地区は人口が増加していましたが、にもかかわらず最寄りの鉄道駅が都営大江戸線の勝どき駅、あるいはバスで月島駅又は銀座などに出るしかなく、鉄道網へのアクセスに難がありました。
そこで、2010年ころから、晴海地区と銀座を路面電車、それも旧来の「チンチン電車」ではなくLRT(Light Rail Transit=次世代型路面電車)で結ぼうという計画が動き出すことになります。この翌年には、あの日本経済新聞も「銀座-晴海間LRT計画」を取り上げ、以下のように述べています。

都心に路面電車復活へ 銀座―晴海に整備計画 中央区、20年代前半の開業目指す
 

東京・銀座と臨海部の晴海の間に次世代型路面電車(LRT)を整備する計画が動き出す。東京都中央区が晴海通りなどに約3キロメートルの線路を敷設する方針で、2011年度予算案に調査費を盛る。早ければ20年代前半の開業を目指す。実現すれば、約半世紀ぶりに都心で路面電車が復活する(引用ここまで)

日本経済新聞電子版より)

計画では当初、晴海通りを通すことが考えられていたようですが、この当初計画は早々に放棄されています。その理由は以下のとおり。
 

① 晴海通りは道路幅員が広いとはいえ交通量が非常に多く、事実上一車線の減少となる併用軌道の建設は、さらなる交通渋滞の悪化を招くため現実的ではない。
② 勝鬨橋の上を通すにあたっては、橋梁施設の経年による老朽化が進行しているため、橋の架け替え、又は大規模な補修工事が必要となる。
 

そこで、LRT計画は、晴海通りを通すのではなく、その南側を通る環状二号線の上に軌道を敷設する計画に変更されます。
東京都中央区(以下単に中央区)は、2011年度より銀座と晴海地区を結ぶLRTの調査を開始、2013年には「基幹的交通システム導入の基本的考え方」をまとめています。計画では有楽町(運転開始当初は銀座五丁目)-晴海トリトン間でBRTを導入し、段階的にLRTに転換するというものでした。この「前段階としてのBRTの導入」は、前回述べた「東京BRT」により実現しています。
しかし、このように華々しく中央区がぶち上げたLRTの計画ですが、残念ながら事実上潰えてしまいました。それはなぜか?

考えられる理由はふたつあり、ひとつは軌道敷設が必要なLRTではなく、その必要がないBRTでシステムを整備する方向に切り替えられたこと。もうひとつは、地下鉄の整備計画が浮上してきたこと。
ひとつ目の理由は、実はLRT導入の前提となっていて、まずはBRTを導入し、その後の推移を見守りつつLRTの導入を図るという、二段構えの構想になっていたことです。前回言及したとおり、虎ノ門ヒルズ駅・新橋からのBRTシステムが一応整備されたことで(東京BRT)、LRTへの移行時期が示されませんでした。またこれには、築地市場の豊洲への移転が遅れに遅れたことで、環状二号線の整備がそれに伴って遅れたことも影響しているものと思われます。環状二号線は築地市場の跡地を通るため、築地市場の移転・廃止がなされなければ、環状二号線の整備ができなかったからです。
ただし、前回もちらっと触れましたが、現在プレ運行中の「東京BRT」が、果たして本当の意味のBRT(Bus Rapid Transit=バス高速輸送システム)といえるのかは大いに疑問があります。それはBRTに必要な「定時性を担保するためのシステム」が整えられていないから。およそBRTと銘打つからには、JRバスの白棚線や日立電鉄の一部路線、あるいは名古屋市内の「基幹バス」のように、専用道路又は専用走行レーンを完備し、渋滞に左右されることなく定時性を担保するシステムが構築されている必要がありますが、「東京BRT」にはそれらが全くありません。単に連接バスを導入して停留所の間隔を広げ、見かけ上の速達性を演出して「BRTでござい」と喧伝するのは、「看板に偽りあり」と言わざるを得ません。あるいは単に「BRT」という名称そのものが、何となく新しいイメージがあるということで事業者や役所が飛びついているという印象すらあります。

話が逸れました。もとのLRTの話題に戻します。
前述の経緯だけなら、まだ「将来的にはLRTが導入される可能性は残っている」といえますが、その後、中央区の方針が「LRT整備」ではなく「地下鉄の整備」に転換されました。
中央区では、晴海地区に建設された選手村施設の集団住宅への転用、また再開発事業の進展などにより、都心と臨海部との間の交通需要がさらに増加するとして、2014年より地下鉄導入の検討を開始しました。これは言うまでもなく、LRTの輸送量では交通需要に対応しきれなくなる懸念があったから。中央区は、2015年3月に「都心部と臨海部を結ぶ地下鉄新線の整備に向けた検討調査」の報告書をまとめ、同年6月区議会に報告しています。
これにより、LRT整備の目は事実上なくなったと評してよいものと思います。
「銀座-晴海間LRT計画」が明らかになったときは、五輪の観客輸送が念頭にあったものと思われますが、もはや五輪とは無関係に、臨海部と都心部との間の交通需要が増大し、LRTではその需要に応えきれないとして、地下鉄の整備に方針転換されたものです。しかし、地下鉄を建設する場合、LRTとは比べ物にならない額の工事費がかかることが予想され、その財源をどうするのか、運営主体は東京メトロと東京都交通局のいずれなのか、そのあたりが気になるところです。

現在の地下鉄整備計画は、今のところ駅もルートも固まっていませんが、この路線には「つくばエクスプレス」を延伸する形で接続させ、直通運転を行うという構想もあるようです。もしこの路線の計画が実現すると、13路線ある東京の地下鉄路線に、当初計画になかった14番目の路線が出現することになります。そうなると、この路線のラインカラーはどうなるのでしょうか。もはや色としてはネタ切れになった感もあり、単色では区別しにくくなってしまいましたので、あるいはまさかの「色の組み合わせ」となるかもしれません。

五輪に間に合わなかったばかりか、地下鉄建設計画に取って代わられた、「銀座-晴海間LRT構想」。仮に新しい形態だとしても、一度廃止されてしまうと、復活は難しいのでしょうか。日本では、国政と地方自治を問わず「政治の無謬性」を過度に重視する傾向、つまり過去の政治が間違いだったことをなかなか認めたがらない傾向があるように見受けられます。しかし、情勢は変化するものですから、「過ちを改めるに憚る事勿れ」の精神で臨み、過去は過去、現在は現在という方針で進めた方が、より建設的ではないかと思います。

次回は、2030年札幌五輪(招致できれば)について取り上げます。

その12(№5680.)に続く