昨年末、銚子電鉄の運転本数削減のショッキングなニュースが鉄道趣味界を駆け巡りましたが、今度は大井川鉄道から、類似のニュースが飛び込んで参りました。

大井川鉄道(島田市)は、3月26日のダイヤ改正で、電車の運行本数を約4割削減すると発表した。2期連続で最終赤字を出したのが主な原因で、利用客からは困惑の声が挙がるなか、同鉄道の担当者は「苦渋の決断だった」と説明。今後は、不採算部門の電車事業を削減し、蒸気機関車(SL)を中心とした観光事業の収入で再建を図る考えだ。
同鉄道の発表によると、本線(金谷駅-千頭駅)は、現行の上下線各14本を、各8本と金谷-家山駅間の区間運転1本に削減。井川線(千頭駅-井川駅)は、上下線各4本から、各3本に減らし、一部区間での運行を廃止するという。鉄道事業収入の約9割を占めるSLについては、現状を維持する方針。
同鉄道は、SLを中心とした観光事業と、電車による地域公共交通事業の2本柱で展開。しかし近年、少子化による沿線市町の人口減で電車の利用客が減少し、平成23年度は約7700万円、24年度には約1800万円の最終赤字を出しており、今年度は、23年度と同様の最終赤字が見込まれているという。
今回の減便を受けて、「電車を減らさないでほしい」「困る」といった利用客の戸惑いの声も少なくないという。ダイヤの詳細はまだ決まっていないが、担当者は「通勤、通学客が集中する時間帯の本数は確保し、影響を最小限に抑えたい」としている。
また同鉄道は、沿線の島田市と川根本町の両首長に対して、路線の存続支援などについて検討する協議会の設置を求める要望書を提出。今後、事業再建を図ると同時に、行政とともに、地域公共交通機関としてのあり方についても検討してく方針だ。

Yahoo!ニュースより)


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大井川鉄道といえばSL列車ですが、管理人が今年正月に訪れた際の当ブログの記事には、「大井川鉄道はSL列車で持っているから大丈夫」みたいな、安直な結論を書いてしまいました。しかし、それは大変な事実誤認だったようです。
最近はSLや客車も車齢が高くなってきており、そのためか維持管理も大変らしいです。SLはボイラーの予備がないので、ボイラーの圧力を下げて使用しているとか。そのため牽引力は落ちてしまい、単機では客車を3両くらいしか牽引できないそうです(以前の記事にコメントを下さったびんいち様のご発言)。
また、Twitterで見たのですが、団体の乗客も終点の千頭まで乗るのではなく途中駅の家山での乗降を望むため、その区間しか利用しない団体客のために客車を増結せざるを得ず、そのこともコストを引き上げているとか。
さらに、もっと大きな問題は、SL列車を運転している路線が大井川鉄道だけではなくなり、東京から近い秩父鉄道や真岡鉄道などが、対東京で考えた場合に集客のライバルとなり、パイを食い合ってしまっていることもあります。
これらの要因が重なって、収益的には厳しさを増しているようです。

そして、SL列車以上に厳しいのが沿線輸送。管理人は、乗客が少ないのは正月休みだからだと思っていましたし、列車によってはよく乗っているものもあったのであまり心配はしていなかったのですが、やはり沿線の過疎化と少子高齢化は、経営の足を引っ張る要因になってしまいました。


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現在の大井川鉄道本線では、元京阪の特急車は退役したものの、元南海の車両(写真右)や元近鉄の特急車(写真左)が活躍しており、往年の関西私鉄の名車のサンクチュアリとして、趣味的には非常に評価の高いところではあります。しかし、そういう趣味的な評価は、得てして乗客増・収益増には必ずしも結びつかないんですよね。

それにしても、現行の14往復が8往復ですか…。現行ダイヤでも乗り歩きは結構大変ですが、今後はより難しくなりそうですね。
それと心配なのは、日中に3時間くらい列車のない時間帯ができてしまうらしいこと。これは沿線の通学客には大打撃ではないでしょうか。

確かに沿線には、街らしい街がありませんし、拠点駅になりそうなのは家山と駿河徳山・千頭くらいなものです。そして実際に乗車してみるとよくわかりますが、沿線はほとんどが人家の少ない地域を走り、利用客の少なさは容易に想像できます。

しかし、では廃止したらいいかというと、事はそう簡単ではなかったりします。


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その理由は、井川線の存在。井川線はもともと中部電力の電源開発のために建設された路線で、現在でも井川線でなければ資材を運べない場所があるようです。そのため、井川線から分岐する形で何箇所かに専用線が伸びていますが、もし井川線が廃線となった場合、資材の運搬が困難となります。仮に井川線が残ったとしても、本線が廃線となってしまえば井川線が孤立してしまうため、同じ問題は残ってしまいます。

この手の話が出るたびにいつも思うのですが、こういう地域交通の確保は正面から「福祉」の問題と位置づけて、何がしかの公的支援が必要なのではないかと思います。勿論、鉄道会社には地域の足を守るという使命がありますが、鉄道会社が私企業であり営利を第一とする限り、そのような使命は「企業の社会的責任」の範囲内でしか果たし得ません。いくらそのような使命があると言ってみたところで、会社が倒れてしまえば元も子もないわけですから。
だからといって、不採算に陥った鉄道路線を「使命を終えた」として切り捨てるのは簡単ですが、本当にそれでいいのかと思います。

※ 当記事で使用している写真は、全て以前の記事からの転載です。