IT業界の狂った経済理論 | さすらいびとの徒然漂流記

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〇〇システム開発:100万円/人月 x 5人 x 3ヶ月 = 1500万円(チャリン!)

✕✕システム開発:150万円/人月 x 2人 x 1.5ヶ月 = 300万円(チャリン!)

 

この計算に違和感はないだろうか?

 

これは車の製造を例に考えると分かりやすい。

  • ベテラン2人が手慣れた作業で3ヶ月で製造したクラウンが300万円
  • 新人5人がもたつきながら1年かけて製造したカローラが1500万円

これに違和感を感じない人は殆どいないだろう。

 

先ほどの違和感は「〇〇システム」や「✕✕システム」がクラウンにあたるものかカローラにあ

たるものか,全く考慮されず,開発にかかった人月ベースで計算されているからだ。

 

これを解消するには「〇〇システム」や「✕✕システム」が何であるか,つまりその価値,バリューベースによって支払われる金額を決めるべきだというのが明らかだろう。

 

「顧客にとって1000万円の価値があるシステム」であれば、何人何ヶ月で作ったかに関わらず、1000万円支払われるべきではないだろうか?

 

しかし現状、システム開発費は主に人月ベースで算出されている。プログラマの生産性は7倍から28倍という差があると言われているが、人月単価は最低でも7倍の半分以下の3倍程度しかない。最初の例で言えば、同じ価値のシステムを開発した場合、後者は1.5倍の価格で5倍の価値を生み出すことになる。

 

もちろん、バリューベースにも課題はある。「価値」の算出方法が明確でないことが、導入の障壁となっている。

 

例えば、30万円/月の事務職が毎月2時間、10人で作業する業務をシステム導入によって1時間で1人でこなせるようになった場合、単純計算では以下のようになる。

  • 従来のコスト: 30万円/月/人 x 2時間/月/160時間/月 x 10人 = 375,000円/月
  • システム導入後のコスト: 30万円/月/人 x 1時間/月 /160時間/月 x 1人 = 18,750円/月
  • 月々の削減額: 375,000円 - 18,750円 = 356,250円/月
  • 5年間の削減額: 356,250円/月 x 12ヶ月 x 5年 = 21,937,500円

これは、システム導入によってもたらされる直接的なコスト削減効果のみを考慮したものだ。

 

さらに、システム導入によって事務職が他の業務に集中できるようになる。例えば、集計作業の時間が多く取れることでスピードが向上し、市場の変化にいち早く対応できるようになり、競合他社よりも先に新たなビジネスチャンスを掴むことができる、といった「価値」が生み出される。

逆に,システム導入が遅れたことで、競合他社にシェアを奪われたリスクの回避という「価値」も考慮すると、より早い開発はさらに大きな価値を生み出す可能性がある。

 

しかし、これらの将来的なメリットをどのように価格に反映させるかは、非常に難しい判断だ。

 

それでも、IT業界が「価値」ベースの価格設定へ移行しなければ、優秀な人材とそうでない人材が同じ評価を受け、結果的に優秀な人材は他の業界へと流れていくことになるだろう。また、質の低いシステムが開発され、ユーザーがITに不信感を抱くようになり、ブラック企業のような企業が市場を席巻する悪循環に陥る危険性もある。

生成AIの台頭で、今までの開発方法が破綻し始めている昨今ではすでに手遅れかもしれないが。