DXと「2025年の崖」 | さすらいびとの徒然漂流記

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 DXとは

 

近年,「DX」がIT界隈ではバズっている。これは経産省が2018年に公表したレポートにある「2025年の崖」が近づきつつあり,その解決としてDXが必要とされているため。


DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~(METI/経済産業省)
 

更に,この発表から2年ほど経過したところで,経産省が進捗の調査を行い,その結果を公表した。

 

デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会の中間報告書『DXレポート2(中間取りまとめ)』を取りまとめました (METI/経済産業省)

 

結論からすると,日本企業のDXはあまりうまくいっていない。

もっとも,さすらいびとからすると行かなくて当然という思いがある。

 

そもそも,「DX」とは何なのか。

 

DXを提唱したといわれるErik Stoltermanの定義もあるが,これはリンク先を参照してもらうとして,経産省のレポートでは以下のように定義している。

 

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること

 

まあ,ざっくり言えば,

 

 

    
DX=経営のIT化

 

 

のこと。

 

これを見ると「な~んだ,また○○のIT化ってやつか」と思うかもしれない。

確かにそうだが,この言葉の意味を本当に理解している経営者なら,「IT部門にDXを丸投げする」などということは,絶対にしないはずだ。

もし,それをしているのなら,この言葉の意味を全く理解していないということだ。

 

「経営のIT化」とは「経営にITを使う」ということである。

特にビッグデータやAIが注目されているのは,「データ中心経営」あるいは「データ駆動経営」とでも言うべき経営手法である。

これは,

 

「迅速に」データを収集・分析したエビデンスをもとに「迅速に」経営判断を行って「迅速に」ビジネスを実行する

 

というものだ。

 

つまり,ITを使うのは「経営者自身」であり,その仕事である「経営を支援するシステムを導入する」ということである。

だからこそ,経営の素人であるIT部門に経営の方法をシステム化する,つまり,丸投げなど絶対にできないことである。

 

良くIT屋が「御社のDXを支援します」と言いつつ,ただのIT化やシステム化,あるいは自動化やAI導入をするだけということがある。

これも,DXを理解していない(あるいはもっと悪いことに分かっていてわからないふりをしている)IT屋が,商売としてDXというキーワードを前面に出して,いままでと同じ商売をしようとしているに過ぎない。

もし,DX支援なのに,経営者を関わらせようとしないなら,それはもはや「詐欺」である。

それとも,そのIT屋はその顧客の経営など全て御見通しだとでもいうつもりなのか。

 

 DX化

 

ではどのようにDX化を進めるのか。

 

DX化の基本的な流れは以下のようになる。

  1. 自社でのDX対象の選定
    1. 現行経営業務の洗い出し(AsIs分析)
    2. ToBe経営業務の検討
    3. ギャップ分析
    4. ToBe化の優先度付け
    5. ソリューション検討
      • ここでIT化やAI導入が検討される
  2. システム開発
  3. 運用と改善活動

 

DX化の流れを見てもわかるように,ただシステムを作っていただけの既存IT屋にはできない内容となっている。

本当のDX化をするには経営分析とソリューション立案が必要である。

そして,ほとんどのIT屋にはできる人が足らないあるはそもそもいない。

だからなんちゃってDXをするところがほとんどとなってしまう。

しかも,DXは経営のIT化なのだから,失敗は経営にかかわる大問題となるのだ。

 

こんなことに投資するのは無理だあるいは出来るわけがないと思う経営者もいるだろう。

 

それこそが,日本がIT後進国たる所以でもある。

つまり,いままでIT化をさぼってきたつけを一気に解消して,最新の経営に移行しようとするから無理が生じているのだ。

これはいわば,がん患者が治療としてずっと痛み止めと簡単に切除できる腫瘍だけを取り除いていたら,気が付いたら末期がんになっていた。

でもって,一気に手術で全快してしまおうとしているようなものである。

 

以前からいろいろなことのIT化やデジタル化が言われ,経営スピードのアップも言われていた。

このビジネスにメスを入れるIT化をずっと怠ってきたつけを一気に解消する羽目になっているから,大掛かりなことになっているのだ。

 

また,日本でもてはやされる「現場に頼ったビジネス」も同様である。

これはいわば局所最適であり,全体最適が必要となるDXとは相反するものだ。

迅速な判断には迅速な現場対応も必要であり,そのためには全体が有機的につながり,経営判断が現場まで届くようになっているのが前提である。

 

欧米では全体最適を徐々に進めてきた結果として,今のDXがあるのであり,それをさぼってきた日本で実施するのが大変なのは当たり前といえる。
 

 2025年の崖

 

今までの議論からすると「果たして日本は2025年の崖を超えられるのか?」と懸念したくなるだろう。

しかし,結論として崖は来ないと個人的には考えている。

これは,いい意味でも安心できることでもなく,単に赤信号みんなで渡れば怖くない状態にすぎない。

要は茹でガエル状態で茹でられ続けることになるというだけのことである。

ガラケーがなくならいどころかいまだに新作が出るのと同じ原理である。
経産省のレポートでは基幹システムの期限などがあげられているが,非DXが多数派なら継続や何らかのケアがあるはずであり,結果として,非DX企業は生き続けることになる。

 

良くも悪くも日本は国内だけでビジネスができる規模であるといわれている。

例えば,韓国ではそれが難しといわれており,国内のビジネスだけで生き残るというのが難しいのだ。

そのため,ガラパゴス化し,国際的な競争力が皆無でも当面生き残ることができてしまうのだ。

果たして,日本の企業,そして日本全体の将来にとって,この生き残りがどのような結末を導くことになるのか。