『きゃー』『ナニ ナニ』
『どこ どこ』
手で探り回して お互いを捕まえる
さんざん 叫んだり 叩いたり
青木さんの名を呼んだり・・・
外の音は全く聞こえない・・・
涙が止まらない
『泣くなよ・・・オイラも泣きたい・・・』
『わたしが わたしが こんな 本を・・・』
『もう言うなよ・・・』
目がだんだん慣れてきて 彼の白いTシャツがなんとなくわかる
早くしないと 閉店時間になってしまう
真っ暗
そうだ携帯 手探りでバックの中を探す
あった
『えー 何もつかない 会社で充電したのに 変』
『えっ オイラのもだ』
電波が届かないのかしら ライトすらつかないなんて
その時 ドアだっただろうすき間から薄らあかりが見える
ふたりでおもい切り押すと 難なく 開く
『えぇ~ うそ~』
倒れこむようにふたりして外に出る
見合わせて 大笑いとも大泣きともつかない表情で・・
思わず 抱き合う
『ちょっと待てよ なんか なんか変だ』
ふと振り返ると ふたりが閉じ込められていた筈の・・・・
観音開きの ドアがない
抱き合いながら ガタガタお互いが震えだす
お互いが震えているのを抱きとめるように腕に力が入る
『見て!』
さっきまであったはずの絵の具やマーカー ない
同じように絵の具などはあるが 配列や陳列方法が全然ちがう
階段は同じ みたい
『出よう』 『うん』
なぜだか お互い 恐ろしくて 手をギュッとつないだまま
1階にあがり 外に出る
すずらん通りはそのまま でも 前に建っている三○堂書店
建物が古い・・・となりの薬局は ある
『どーなってるの』 『えっ』
毎日通っている私はわかる
彼はたまたま 来ていたんでしょうから 建物の変化はわからない様子
『今日は いったい いつなの!』
『え え~っ』
通りを歩いている人たちは 別に なんでもないように・・・
普通の いつもの 神田神保町すずらん通り
『おかしいわよ この画材屋さん 塔が見える 今朝は見えなかったよ』
暑い夏のはずなのに 震えが止まらない
