◆映画情報
上映時間 99分/製作:イギリス。ドイツ。カナダ。スイス/公開情報 劇場公開(ブロードメディア・スタジオ)/初公開2012年10月27日/
オフィシャル・サイト
http://www.dangerousmethod-movie.com/
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監督: デヴィッド・クローネンバーグ/ 製作: ジェレミー・トーマス/製作総指揮: トーマス・スターチ。マティアス・ジマーマン。カール・シュポエリ。シュテファン・マルマン。ピーター・ワトソン/原作: ジョン・カー/原作戯曲: クリストファー・ハンプトン/脚本: クリストファー・ハンプトン/撮影: ピーター・サシツキー プロダクションデザイン: ジェームズ・マクエイティア/衣装デザイン: デニース・クローネンバーグ/編集: ロナルド・サンダース/音楽: ハワード・ショア/
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キーラ・ナイトレイ=ザビーナ・シュピールライン役/ヴィゴ・モーテンセン=ジークムント・フロイト役/マイケル・ファスベンダー=カール・グスタフ・ユング役/ サラ・ガドン=エマ・ユング役/ ヴァンサン・カッセル=オットー・グロス役
秋が深まり、一段と寒くなりました。都会の樹木もそろそろ紅葉かなー。インフルエンザの流行しそうな季節ともなりました。皆さん、お元気ですか…。でも風邪の季節が近づいたというよりも、私には「政治」の秋が深まり、日本の曲がり角に厳しい「冬」が待ち受けている予感がして…、震撼しそうです。果たして野田民主党政権の解散、衆議院選挙は何時かー。私には、この曲がり角の先にある日本の姿が、ちっとも見えません…、漠然とした不安で一杯です。尖閣諸島や竹島の領土問題から中国や韓国とこの先、領土を巡る紛争か勃発しないか心配ですー。戦争を知らない世代が増えた昨今、外国との政治的摩擦と軋轢から、憲法9条が改正か廃棄されて、たとえ生ぬるくても平和で豊かな日本に、自衛隊が大手を振って「日本軍」と呼ばれ、徴兵制でもしかれたら大変だなーと恐れています。福島原発で放射能汚染があれだけ恐れられたのに、再び原子力発電の恐怖を誤魔化すようなマスコミ操作と、エネルギー政策が選択されたらさらに怖いなー。再び日本を襲う大地震、自然の猛威が日本列島を襲う異常気象ー。曲がり角の先の日本には、不安と恐怖が一杯です…!
さて、10月下旬の特選映画をアップロードします。映画館で観賞した映画は、 4本でした。その中で特選映画として洋画の
「危険なメソッド」を選びました。邦画の「終の信託」を選ぼうかどうかを迷いましたが、意表をつくテーマ選択と、ジックリ煮込んだ濃厚な演出とキャストを披露してくれる周防正行監督にしては、手垢のついたインパクトのないストーリ展開と、尊厳死と医療テーマはやや斬新さを欠くかなーと思わざる終えませんでした…。今、映像化して欲しい沸騰するテーマは、やはり「結婚詐欺殺人・木嶋佳苗」と「尼崎連続殺人鬼・角田美代子」たちの犯罪、市民の日常に殺戮と暴力が蔓延している、貧困と金と暴力ではないでしょうかー。
1本目は、これぞアクション映画といえる「エクスペンダブル2」(サイモン・ウェスト監督)です。シルベスター・スタローンを初めとして、ジェイソン・ステイサム、ジェット・リー、ドルフ・ラングレンたち「エクスペンダブル」part1(シルヴェスター・スタローン監督。2010年公開)に登場したアクション俳優たちに加えて、続編の今回は、新しく一匹狼の傭兵役でチャック・ノリス、仇役としてジャン=クロード・ヴァン・ダムも出演する。誰も彼もがアクション映画の主役級が顔をそろえる豪華なキャスティングです。
問題作でも衝撃的なテーマでも意表をつく斬新な映像でもないが、文句なしにゲームセンターで溜まったストレスを発散させるような、勧善懲悪の痛快な娯楽映画として一級作品。楽しく鑑賞いたしました。パート1も以前鑑賞しましたが、より豪華なアクションスターで賑やかなキャスティングな分、よりパワーアップしたアクションは面白かったです。この映画の評価は、それで充分だろー。
2本目はテーマとして、肉体が植物状態であって脳波だけが生存しているー、医療機器で「死」を延ばす延命に対する、人が人の死を選択する尊厳「死」を描いた医療と医師の問題作であると共に、もうひとつには、現役弁護士でもある作者・朔立木が訴える原作『終の信託』には、「生」の病苦と、「死」の安楽を個人の意思が選択する裁量と選択に対して、検察検事が裁く尊厳死と「命」の解釈、及び日本の司法の「命」への介入を、やはり真っ向から裁いている今日的な司法の問題を描いた「終の信託」(周防正行監督)でした。
「終の信託」を見ている時に、私は長年の喘息もちで入退院を繰り返す患者・江木秦三(役所広司)は、果たして死に至る重篤な病気までこじらすのかなーと、呼吸器内科医の担当医・折井綾乃(草刈民代)を劇中で起訴する検事・塚原(大沢たかお)と同じ疑問を確かに私も持ちました。原作の元となった「東海大学安楽死事件」の病気は、呻吟する痛みと、七転八倒する苦痛を伴った癌でしたよねー。
劇中の塚原検事は、安楽死に関して「横浜裁判」の判例と、医師が殺人罪に問われるかどうかの安楽「死」の正当性と定義を引き合いに出しています。、「積極的安楽死」の許容成立要件として、1).患者に耐えがたい激しい肉体的苦痛に苦しんでいること。2).患者は死が避けられず、その死期が迫っていること。3).患者の肉体的苦痛を除去・緩和するために方法を尽くしほかに代替手段がないこと。4).生命の短縮を承諾する患者の明示の意思表示があることーを挙げています。恐らく、現実の裁判は、末期がん症状の患者に塩化カリウムを投与して、患者を死に至らしめたとして医師が殺人罪に問われ、安楽死の正当性が裁判で問われました1991年4月に起こった「東海大学安楽死事件」でした。安楽死を巡る裁判の焦点は、患者が死を望み、命の終焉を他人に意思表示した結果の刑法第202条の医師としてやむおえない「嘱託殺人罪」か、医師の倫理を逸脱した刑法第199条の「殺人罪」が争われました。
寧ろ周防正行監督が映画で問題にしているテーマは、それだけではないだろうねー。司法が問うところの「安楽死」なのか「尊厳死」なのかー、殺人罪なのか嘱託殺人なのかーのボーダーラインが問題ではなくて、尊厳的な「死」ではなくて、寧ろ、最先端の医療機器に支えられて維持されている「生命」は、本当に生きるに値する尊厳ある「生」なのか?…である。そこには、現代における生老病苦への「生命観」の解釈があります。これは、安楽死の法的問題以上に、現代人が「死」とどう向き合うかという大きな問題が伏在させています…!
私は、2009年3月14日号の『おくりびと』(滝洋二郎監督)のブログで、フランスの歴史学者フィリップ・アリエスの著書『死と歴史』(みすず書房)の本を援用しながら、この現代的な「死」の変容を次のように書いています。
…近代になって、個々人の死は家族から隔離された病室で物々しい延命装置に囲まれ、個人の死の瞬間は家族の手を離れた施設でひっそり送られるようになりました。個人の晩年と「死」は、肉親縁者とも共同体とも無縁な孤独な時間となり、隠蔽される時間と存在になりました。
…医療技術の進歩は人の寿命を無理やり延ばし、人の死でさえも恰も風邪薬を飲むように治癒できるのではないかとさえ錯覚させています。しかしながら、一方で癌による避けがたい病死や、急な事故死も増え、運命的な「死」や突然の「死」が都市の孤独な個人を突然襲う機会が増えました。「死」が家族たちの視線に見守られ、身近な肉親たちと共に語られ、「死」の不安と恐怖が自然や植物や動物たちと一体化した宇宙の永遠の時の中で神話化される事はなくなりました。私たち都会生活者は、死の実相が見え難くなっています。そうした時代に、現代人は、自分の死とどのように向き合う会えるのだろうか…?
3本目の「危険なメソッド」(デヴィッド・クローネンバーグ監督)は、人間の心の深層を発見し、神経症や精神障害を「性」衝動・リビドーで解明する精神分析を理論化したジークムント・フロイトと、彼の高弟カール・グスタフ・ユングを、ユングの勤務する患者であったザビーナとの間の愛と葛藤をめぐる伝記的なドラマです。
前回10月上旬の特選映画に「推理作家ポー 最期の5日間」(ジェームズ・マクティーグ監)を推薦しました。この伝記的映画の系譜に『終着駅 トルストイ最後の旅』( 2009年公開。マイケルホフマン監督)と、『サガン -悲しみよ こんにちは-』(2008年公開。ディアーヌ・キュリス監督&脚本 )を参考までに挙げて置きました。「危険なメソッド」もこの系譜の秀作ではないでしょうか…!
幼少期の性的トラウマtが原因で神経を病んだザビーナが、ユングの手で治療を受け、自らが精神科の医師になりました。ユンクと彼女のお尻をたたきながらセックスして快楽の境地に至るベットシーンは、エロチックで愉快でした。彼女の快楽原則も、幼児期に親から受けた虐待とトラウマが、彼女の性衝動にも影響を与えていたーということなのでしょう。ロシアで自由な幼稚園を開園し「幼児教育」の創始者となるが、ナチズムによって銃殺されるー。ザビーナの最後を伝える映画のテロップに、私は愕然としました。
この映画は特に、人間観察に興味ある人や、精神分析医や心理学を勉強している学生ならば、興味津々で楽しめます。この映画に関心をもたれましたら、以前日本で上映禁止になりました「キンゼイレポート」がDVDになって鑑賞できます。私はツタヤのレンタルショップで借りました。「性」というものを人間の恥部の秘め事、ベールで被うタブーの領域に押し込めるのではなくて、白日の日常の下に曝しましょう。この映画も是非一度鑑賞してください。
「危険なメソッド」で精神分析医フロイドの映画が製作できるならば、森田正馬が発案した、特に「うつ病」の治療に応用されている森田療法などを伝記的なドラマにしたら面白いと思うのですかね…。「ノイローゼ」を患ったあまたの有名な日本文化人も随分信奉する人がいた筈です。
4本目は、1979年にイランの過激派がアメリカ大使館を占拠して、6人のアメリカ人外交官がカナダ大使私邸に逃げ、潜伏する。残った52人の大使館員は人質となった国際的な事件を映画化したものです。イラン側は、渡米した前国王パーレビの引き渡しをアメリカ側に要求していた。「アルゴ」(ベン・アフレック監督)は、この6人の大使館員を脱出させるために、ハリウッドのロケ隊の監督や脚本家や俳優に仕立てて、危機一髪のところを空港から飛行機で飛び立つ痛快な映画です。先入観として、下らないB級映画なのかなと思ってたましたが、意外やこれも、娯楽映画として堪能できて面白かったです。こんな国際紛争が映画になるなんて、映画の新しい可能性を示すような映画ですねー。そういえば、「相棒」の水谷豊演ずる特命課の杉下右京誕生も、大使館人質事件でしたかね…。