◆映画情報
上映時間 135分/劇場公開(東宝東和)/初公開月 2012年9月28日/
オフィシャル・サイト
http://bourne-legacy.jp/
◆スタッフ
監督: トニー・ギルロイ/製作: フランク・マーシャル。パトリック・クローリー。ジェフリー・M・ワイナー。ベン・スミス/製作総指揮: ヘンリー・モリソン/ジェニファー・フォックス/原作: ロバート・ラドラム(ボーン・シリーズ)/原案: トニー・ギルロイ/脚本: トニー・ギルロイ/ダン・ギルロイ/撮影: ロバート・エルスウィット/プロダクションデザイン: ケヴィン・トンプソン/衣装デザイン: シェイ・カンリフ/編集: ジョン・ギルロイ/音楽: ジェームズ・ニュートン・ハワード/
◆キャスト
ジェレミー・レナー=アーロン・クロス/エドワード・ノートン=リック・バイヤー/レイチェル・ワイズ=マルタ・シェアリング博士/ジョーン・アレン=パメラ・ランディ/ アルバート・フィニー=アルバート・ハーシュ博士/デヴィッド・ストラザーン=ノア・ヴォーゼン/スコット・グレン=エズラ・クレイマー/
テレビ朝日は先日、10月期の番組改編について発表しました。それによると「日曜洋画劇場」枠にバラエティーやドラマなどを変則的に投入して、「土曜ワイド劇場」枠を15分拡大するとのこと。つまり、「日曜洋画劇場」の時間枠である日曜午後9時~の時間帯に、今年既にバラエティー特別番組を3本放送しており、洋画放映の替わりに、今後は長時間の大型スペシャルドラマ、バラエティー番組などの娯楽色の強い、視聴率のとれるエンターテイメント番組を投入するようです。今回の変更について朝日放送の平城局長は、「他局もそうだが、洋画の安定的なラインアップの配置に苦労している。ここ数年の洋画の興行収入等の成績を見ていると、なかなか難しい」と、この映画からバラエティーへの番組編成の背景をこう説明しているー。映画ファンの一人として、私はこんな映画と娯楽番組を視聴率の天秤にかけて、洋画番組を捨ててしまう番組編成の方針と発言を、大変寂しいと思っています。皆さんもテレビ朝日の番組方針に反対しましょう…。
9月下旬の特選映画をアップロードします。映画館で観賞した映画は4本でした。
1本目は、アリス役のミラ・ジョヴォヴィッチが「ゾンビ」のアンデッドを相手に派手なアクションをくりひろげる『バイオハザード』シリーズの第5弾『バイオハザードV:リトリビューション』(ポール・W・S・アンダーソン監督)でした。シリーズが長く回を重ねると、私は前作とのストーリ展開の連続性が曖昧になり分からなくなり、スクリーン上の俳優たちの配役とネームを混乱します。歌手・中島美嘉が出演すると聞いたのでテレビ放映を注意していましたが、雨の降る東京の街角で口唇を真っ赤に血で染めてミラを襲っているアンデッド女性が彼女なのかなー。でも私には、「そこそこ惰性で製作してもー、主役にミラ・ジョヴォヴィッチを登用し、ストーリの連続性で、観客は呼べる。そこそこの興行成績は確保出来るな…」という配給会社の薄笑いの皮算用が聞こえてきそうです。いつも通りの派手なアクションはありますが、ここを観て欲しいという演出の工夫がない、やや雑な製作と脚本の駄作と観ました。
2本目は、安井算哲の半生を書いた冲方丁原作の時代小説「天地明察」(平成21年、角川書店発行)を、滝田洋二郎監督が映画化した『天地明察』(滝田洋二監督)でした。刀の切りあいも戦場の勇ましい合戦も登場しない時代劇です。日本独自の暦作りに青春の情熱と生涯を傾けた主人公・安井算哲を岡田准一が演じて、主人公の涼しく理知的なパーソナリティと、白皙の二枚目俳優の岡田の繊細で知的表情は、実物の安井算哲もこんな風情だったかもしれないなーと納得させるピッタリマッチした配役でした。
ただ希望を言えば、祇園神社宮司の家系であった安井算哲の顔、徳川家康の駿府での囲碁相手であつた安井算哲の顔、囲碁の起原であった占星術から数学へ変貌する安井算哲の顔、多様な顔を持つ彼の知識の変転万化の安井算哲にもっと丁寧に描いて欲しかったですー。月と太陽の運動と軌跡に基づいた天体観測が基礎となっている「暦」は、西洋と東洋文明の宇宙観であると共に、その時代の世界観、人間観を支配していました。だから、原作から少し逸脱してでも安井算哲の多様な顔と、「暦」の持つ世界観、宇宙観のようなものを映像化して欲しかったです。また、天体観測と起動測定に不可欠だった数学において、江戸時代に西洋を凌ぐ逸材だった数学者、関考和なども、やや簡単に描きすぎていましたー。やはり、ハリウッドのように脚本は原作と映像と、周辺の歴史と資料を知悉し、咀嚼している脚本家が書いた方が優れた映画が製作できると思います。邦画においても監督は安易に脚本を書くべきではないなーと思います。
3本目は、マット・デイモンが演じるとCIA暗殺者ジェイソン・ボーンが記憶喪失によって失われた過去を取り戻し、自己の存在確認のためにCIAの陰謀と対峙する壮大で激しいスパイアクション『ボーン』シリーズ三部作ー、その第1作「ボーン・アイデンティティー」(2002年公開。ダグ・リーマン監督) 、その第2作「ボーン・スプレマシー」(2004年公開。ポール・グリーングラス監督)、その 第3作の「ボーン・アルティメイタム」(2007年公開。ポール・グリーングラス監督) ーに続く第4作の「ボーンレガシー」です。先日よりTVで放映してましたねー。脚本と監督を務めるトニー・ギルロイは、第4作で新しいスパイキャラクター、主人公アーロン・クロス(ジェレミー・レナー)を生み出しました。ジェイソン・ボーンは、CIAの極秘プログラム「トレッドストーン計画」に関っていたが、暗殺者アーロン・クロスは「アウトカム計画」に関りを持つ人間殺人マシン化計画の犠牲者です。2人はCIAの秘密の陰謀が暴かれることを恐れられて抹殺の運命を共有していたが、2人はこの映画の中では決して顔を合わせるような接触をしていないー。唯一、2人がクロスするのはアーロンが雪深いスパイの連絡山小屋のベッドで、ナイフで彫られて「ジェイソンボーン」のネームを発見したときだけであった。スパイアクションは再び複雑な論理とを持つ新しい伏線と緻密に組み立てられた新しいストーリ展開を見せています。
肉体と脳神経の改造を受け、スパイを殺人マシン化する「アウトカム計画」により、強靭な肉体と敏捷な神経を持つアーロンは、CIAの秘密計画「アウトカム計画」が明るみになる事を恐れ、CIA上層部より関係者抹殺の指示がだされる。もはやアーロンは改造された肉体と精神を維持するために薬なくしてバランスを保てなくなった。生き延びるために、生理学の美人研究者・マルタ博士(レイチェル・ワイズ)を訪ねる。しかし、彼女もまた陰謀隠蔽のために命を狙われ、危機一髪で彼女を助ける。彼の精神と肉体を薬から開放するために東南アジアの工場へ向かうー。スパイアクションは、国家と国家の間の政治的陰謀と、機密情報の操作と略奪と、敵国への政治的ダメージと内政騒乱を狙った役割は、この映画では全く様相を変えてきた。スパイアクションは、「OO7」から「ジェイソン・ボーン」に変わったといえます。これまでの主人公ジェイソン・ボーンと、新しい主人公アーロン・クロスとの間の、ストーリのより合わせの脚本は大変よく計算されていると思いました。
4本目は、アメリカのスーザン・コリンズの書いたベストセラー小説を原作にした、富裕層と貧困層に分断統治された独裁専制国家「パネム」を描いた近未来社会です。そこには、奴隷的貧困層からくじ引きで選出された12地区男女24人が、人工的に造営された森林の中で最後の一人になるまで殺し合うゲームハンガーゲーム」(ゲイリー・ロス 監督)があった。それを富裕層が娯楽として楽しみ、支配制度に対して政治への不満を解消する「ガス抜き」のゲームとなっていまし殺人ゲームでした。それは、恰もローマ時代のコロセウム競技場で奴隷達の中の強いものが最後に勝ち残り、名誉と自由と栄光を勝ち取るサバイバルゲームのようでした。ところが、12地区から選抜された幼い「少女」の代理として、弓の得意な妙齢な姉カットニス(ジェニファー・ローレンス)が互いが武器を持って決死の戦いするゲームに志願したー。
近未来社会への暗くあっけらかんとした奇抜なストーリの映画は、これまで数々ありました。時間によって庶民階級が支配される『TIMEタイム』(2011年公開。監督・脚本:アンドリュー・ニコル)などは、まだ記憶に新しい映画です。旧くは全体主義への警告を発したジョージ・オーウェル George Orwellの原作小説『1984年』を映画化したマイケル・ラドフォード監督の作品もありました、フランソワ・トリュフォー監督の『華氏451』(1966年公開)もありました。'優れた近未来社会を描いた映画は、ある種、暗い社会へ暗転する危機接近への予感的警告が含まれ、得体の知れない危機への予感を映像化していました。しかし、「ハンガーゲーム」は、世界を支配している≪今そこにある暗闇≫を映像化していないのではないかーと、率直な不満を持ちました…!適者生存や自然淘汰や人間の野蛮な本能や貧富の差ー等々が、私たちが今抱えている≪闇≫なのだろうか・…? 映像クリエイターたちは、もっともっと得体の知れない近未来への「予感的危機」を映像化しなければならないのではないか…!
恐らく、階級や社会的階層はなくても、持てるものと持たざるものとの格差の大きいアメリカ社会らしいベストセラーですが、貧富の差が教育格差を生み、教育による職業の選別がより大きな階層化を生み、黒人白人やプエリトリコ人やメキシコ人、東洋人等々の人種的階層化を生んでいるアメリカの不満は、決してわらって入られない日本の明日の悲惨でもあります。金が金を生み出し、金が政治と経済を独占し、経済独占が政治的奴隷を生み出し、経済的専制が政治的独裁を生み出す恐ろしい時代が来る…を多少予感させる映画でした。でも、世界の金融資本主義の「現実」は、映画よりもより深刻かもしれません…。
…そして、私は9月下旬の特選映画に、最初はストーリ展開の重層的な複雑さに戸惑いながらも、アクション映像の迫力と、回を重ねたシリーズであるにもかかわらず計算された厚みのある緻密な脚本に軍配を上げて、「ボーンレガシー」を選びました。