7月推奨「海猿」★映画のMIKATA【18】 ★映画をMITAKA… | 流石埜魚水の【特選映画】、★映画のMIKATA★映画をMITAKA・・・

流石埜魚水の【特選映画】、★映画のMIKATA★映画をMITAKA・・・

都市生活者の心と言葉を掌にのせた小説、電脳化社会の記号とイルージョンを巡る映画、都市の孕むシンボルと深層を探るエッセイ、街の風景と季節の色を彩る短歌…。小説と映像とエッセイと短歌をブログに・・・掲載します。


◆スタッフ
監督: 羽住英一郎/チーフプロデューサー: 臼井裕詞/製作: 亀山千広。加太孝明。水口昌彦。市川南。亀井修。小笠原明男/プロデューサー: 安藤親広。上原寿一。森井輝/ラインプロデューサー: 古屋厚/原作: 佐藤秀峰/原案: 小森陽一/脚本: 福田靖/撮影: 江崎朋生/視覚効果: 石井教雄/美術: 清水剛/編集: 松尾浩/音楽: 佐藤直紀/音響効果: 柴崎憲治/スクリプター: 谷恵子/照明: 三善章誉/制作担当: 阿部豪。道上巧矢/装飾: 小山大次郎/録音: 柳屋文彦/助監督: 川村直紀。細川光信/ 
◆キャスト
伊藤英明: 仙崎大輔/加藤あい: 仙崎環菜/佐藤隆太: 吉岡哲也/仲里依紗: 矢部美香/三浦翔平: 服部拓也/平山浩行: 村松貴史/伊原剛志: 嶋一彦/時任三郎: 下川いわお/矢島健一/ 
◆スクリーン情報
上映時間 116分/公開情報 劇場公開(東宝)/初公開 2012年7月オフィーシャル・サイト http://www.umizaru.jp/
月中旬の推奨映画をアップロードします。映画館で観賞した映画は4本でした。1本目の映画は、「海猿」シリーズの第4弾「BRAVE HEARTS 海猿」(羽住英一郎監督)です。ジャンボジェット機が東京湾に不時着する映像は迫力がありました。私の実感としては、いままでで一番見応えがあり、観て損のない映画でした。2本目は、お抱え黒人運転手が高級車リンカーン・コンチネンタルで裁判所の前へ乗り付け、その後部座席を事務所代わりにするアウトサイダーの辣腕弁護士ミック・ハラー(マシュー・マコノヒー)が主人公の「リンカーン弁護士」( ブラッド・ファーマン監督)です。3本目は、既に映画公開前から麻薬容疑で週刊誌に騒がれたり、演技にのめり込み過ぎて体調不良で芸能活動休止中ーと、ワイドショーの話題になったり、何かと芸能界と世間をかき回すお騒がせな沢尻エリカが、全身整形によって売れっ子トップモデルにのし上がった「りりこ」を演じる「ヘルタースケルター」(蜷川実花監督)です。4本目は、孤独な日雇いアルバイト生活を送っている北町貫多(森山未來)の19歳の現在ーとりもなおさず、同時代に漂泊する若い派労働者の運命を描いています。ハードな仕事に疲れ、稼いだ小銭を酒場と風俗店に蕩尽する日々。一流大学の学歴もエリート社員の職歴もない、お金も恋人も友達も、将来への選択とか努力して摑む希望もない毎日。惨めな平成枯れすすきの青春を描いた「
苦役列車」(山下敦監督)です。7月中旬の推奨映画に、いろいろ迷った末に、娯楽映画として楽しめた「BRAVE HEARTS 海猿」を選びました。

1本目の「BRAVE HEARTS 海猿」は、新作映画公開にあわせてテレビで過去の第1作~第3作まで一挙に放映されていたので、尚更に、これまでで一番見応えがある作品だなーと、実感しました。羽田空港に着陸予定の飛行中ジャンボ旅客機のエンジンに、不慮の事故が発生する。乗客346名の命の危機が迫ったー。緊急避難として羽田空港への胴体着陸が失敗する、次に、東京湾海上への着水が試みられる。ジャンボジェットには、吉岡の恋人・美香も乗務していた。この作品も、その内にTVでも放映するだろうが、「人命の危機だー」「あ、危ない。危機一髪間に合うかのかー」「救助成功でよかったー」。今回も「特殊救難隊員」になった仙崎(伊藤英明)と吉岡(佐藤隆太)の大活躍で、「愛する人の命が助かったー」というパターンはいつも同じストーリ展開なのですか、本当にこんな人命救助の奇跡が現実でもあってたほしいなーと思います。特に3.11の東北大震災の後には尚更に実感がわきます。でも、こんな映画をくり返し観ていると、災害時に何か現実離れしたドラマチックな「奇跡」の「救い」が起こるものと信じ込んでしまう、奇妙な予定調和の「暗示」にかかります。

自然災害は、何時突然襲うかもしれませんー、しかも時が経ち世代が変わると、大きな災害の悲しみは記憶から忘れられます。姑息な経済利潤の論理に騙されてると、余計に災害は過去の過ぎ去った悲しみとして記憶は薄れ、不思議な楽観が瀰漫します。デモ、災害は忘れた頃に襲いますー。だから、自然災害と防災対策を忘れないようにしたいですねー。映画のような危機を回避する予定調和の「奇跡」は絶対ありえませんー!

おやー、自身も弁護士としての経歴を持ち、「評決のとき」「ザ・ファーム 法律事務所」「ペリカン文書」「依頼人」等々の映画化でよく知られているジョン・グリシャムの原作かと一瞬錯覚しましたが、2本目の「リンカーン弁護士」は、アメリカの犯罪小説で、刑事「ハリー・ボッシュ」 シリーズで 多くの読者を持つマイクル・コナリーの小説を映画化したものでした。正直言うと、私は始めて知るハードボイルド作家でした。ただ、映画「評決のとき」(ジョエル・シュマッカー監督。1996年公開)では主人公ジェイク・タイラー・ブリガンス役で マシュー・マコノヒーが同じ弁護士役で出演しているそうです。今一度鑑賞したかったが、ツタヤもゲオも絶版で、残念でした。

これまでスクリーンに数々の名優によるダンディーな弁護士が登場し、難事件を見事に解決し、検事との丁々発止の名弁論の名演技のやりとりが投映された裁判映画が製作されました。
こうした名作の1本といってもいいです。

3本目の「ヘルタースケルター」は、一見、都会の風景の断片をいろいろな角度から、キュビスム風に社会風俗の映像を挿入しています。が、果たして女の「美」が単なる都会の「浮遊層」の≪性≫の発情装置ということを十分に表現できているのだろうかー?と、疑問符を打ちたい映画でした。私の答えと率直な感想は、「否」でした。むしろ、「ヘルタースケルター」の初めも終わりもないメビュウスの輪のような都会生活の豪奢で貧しく、過剰な欲望だけの21世紀の世界を透視し表現できいれば、最高の傑作になっていたなー、という感想を持ちました。むしろ私は、蜷川幸雄監督作品の「蛇にビアス」の初めと終わりに映し出された夜明けの都会を走る始発電車と、夜も昼もなく蠢く雑踏の映像に似ているーことを想起しました。これは蜷川実花がシェークスピア演劇の舞台演出家で、親父の蜷川幸雄の娘だと言う先入観があるからだろうかー?

このブログでも過去に掲載したことがある、桜沢エリカの漫画『LOVE VIBES』 を映画化したレズビアン・同性愛をテーマとする、
奥田瑛二の長女、安藤モモ子の初監督作品「カケラ」と相似形に、私は観ています。いつの時代でも、いつの世紀でも、時代や現代から飛び出そうとするイデアとイマジネーションの「遠心力」が存在します。ある時代にそれは、社会を強く縛り付けるタガのような宗教的なモラルに対して「奔放な愛と性」の形式であったり、ある世紀にそれは、社会を支配するくび木のような支配権力に対して「自由と平等」の形式であったりしました。この二人の映像表現に共通するエレメントは、この時代の現在から飛び出そうとするする「女の遠心力」ですー。それは、生物学的な「XY」の染色体からスピンアウトしようとするXXの遠心力なのだろうかー、あるいは、肉体的な男の「筋肉美と貨幣経済力」からだろうかー、或は、糸のように人の行動を操り、着せ替え人形のファッションのように人の意識を包む情報操作と潜在意識に浸透する「マスコミ」から飛び出そうとする「女の力」だろうかー?ともかくも、いろいろな刺激を与える原色のトリッキーな映画でした。
 

4本目の「苦役列車」は、私小説的「青春」惨酷映画でした。少なくても「青春時代」には、お金はなく貧しいが、明るい「未来」があるー、少なくても老人たちよりも将来に向かって希望を摑む豊富な「時間」があるー、或は、少なくても性欲と体力によって膨張したはちきれる「エネルギーとリビドー」があり、盲目的で持続的な努力にリンクしていたのだが、これが「青春時代」の特権であった筈です。しかしここにあるのは、暗い絶望と、刹那的な暴走と、淡く未熟な恋愛意識と、異性にギコチナイ性欲と、その日暮しの賃金と、肉体に疲労とアルコール臭だけを残す日雇い労働と、陽の差さない孤独で哀しいアパート生活しかない「青春」像でしたー。これはまさしく、自動車工場の社員寮で、時給日給から部屋代光熱費食事代を天引されて、生活ギリギリの賃金で漸く生き、一方的な人員整理で解雇されて、仕事と住む家を取り上げられた現代の若い派遣労働者たちの「実像」ではないのかと思いました。これは、寒い早朝に日比谷のテント村に並んだ若者達の姿ー、何故、俺に恋人がいないのかと自暴自棄になり、無差別殺人にまで追い込まれ、人格崩壊させた現代の青春像そのものです。

お笑い芸能プロ・吉本興業に、東大京大卒業の学歴エリート達が演芸の舞台に立ち、エリート官僚達が公務員を退職して俳優になる昨今、これまでの終身雇用と年功序列の≪職業観≫は一変しました。作家像も随分変わってきました。私には、「小説家」というと、どうしても島尾敏夫のようなの「私小説作家」を思い浮かべてしまいますが、近頃、大卒エリート達が小説を書いて作家生活を始める時代になりました。が、第144回芥川賞を受賞した西村賢太の私小説はそんな生ぬるい「私小説」ではありませんでした。一時期、芥川賞を若い女性作家が受賞して話題になりました。西村賢太の私小説に、ヨクゾこの作品に芥川賞を与えたなーと、私は驚いています。「苦役列車」は、同時代の鬱屈した青春をよく描いています。ただ、私は、この映画にもっと同時代に向かってのアナーキな呪詛と、情念が吹き出す犯罪的咆哮が満ちていてもいいなー、もっともっと私小説的映画であってもいい気がしました。やや上品過ぎる映像表現だなと思いましたー。日雇いアルバイトの専門学校生・日下部正二役に高良健吾を登用させ、古本屋の店番・桜井康子役にAKBの前田敦子を抜擢させるなど、安易な俳優のキャスト選びにも多分に不満がありました。 この人気俳優とアイドルの配役が、この私小説的「毒」を薄めているのではないのかな…!