◆映画情報
上映時間 117分/劇場公開(東映)/初公開2012年3月24日/
オフィシャル・サイト
http://www.boku9.jp/
◆キャスト
監督: 森田芳光/プロデューサー: 白倉伸一郎。三沢和子。川田亮/ラインプロデューサー: 木次谷良助/脚本: 森田芳光/監督補: 杉山泰一/撮影: 沖村志宏/美術: 和田洋/衣装: 宮本まさ江/編集: 川島章正/音楽: 大島ミチル/音響効果: 伊藤進一/主題歌: RIP SLYME『RIDE ON』/スクリプター: 森永恭子/照明: 渡邊三雄/装飾: 湯澤幸夫/録音: 高野泰雄/助監督: 増田伸弥/キャスティングプ/プロデューサー: 杉野剛/
◆スタッフ
松山ケンイチ: 小町圭/瑛太:: 小玉健太/貫地谷しほり: 相馬あずさ/ピエール瀧: 筑紫雅也/村川絵梨: 日向みどり/星野知子: 日向いなほ/伊東ゆかり: 大空ふらの/ 菅原大吉: 谷川信二/三上市朗: 由布院文悟/松平千里: 大空あやめ/副島ジュン: アクティ/デイビット:矢野 ユーカリ/笹野高史: 小玉哲夫/伊武雅刀: 早登野庄一/ 西岡徳馬: 天城勇智/松坂慶子: 北斗みのり/
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3月下旬の推奨映画をアップロードします。映画館で観賞した映画は5本でした。1本目の映画は、イギリス初の女性首相、マーガレット・サッチャーの幻聴と幻影に悩ませながらも、威厳と名誉を崩さない晩年を、私たちには『プラダを着た悪魔』でお馴染みのあの意地悪婆さん、メリル・ストリープが仕草も言葉使いも演説もソックリさんに演じる政治ドラマ「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」(フィリダ・ロイド 監督)です。2本目は「マリリン 7日間の恋」( サイモン・カーティス監督)です。率直に言って、私は退屈なのですっかり眠ってました。3本目は森田芳光監督の遺作となった「僕達急行 A列車で行こう」です。松山ケンイチ扮する不動産デベロッパーのサラリーマン・小町圭と、瑛太が扮するコダマ鉄工所の跡継ぎ息子・小玉健太が、無類の鉄道オタクを演する青春コメディーです。4本目は、今アメリカは大統領予備選挙の真っ最中で、デモクラシーと選挙の本場のアメリカで、お祭り騒ぎのような大統領選挙戦の、陰謀と策略の渦巻く政治の裏側を描いた政治ドラマをジョージ・クルーニーが演じる「スーパー・チューズデー」(ジョージ・クルーニー監督)です。5本目は、小畑友紀のベストセラー少女コミックスを映画化した青春ラブ・ストーリー「僕等がいた 前篇」(三木孝浩監督)。主演は北海道釧路の女子高校生の高橋七美を吉高が演じ、同級生の矢野元晴に生田斗真が演じる。互いに惹かれ合い、成長していく純愛をするドラマです。私は迷わずに森田芳光監督の★『僕達急行 A列車で行こう』を選びました。軽い暇つぶし映画かなと思いましたが、意外と現代若者の断面を捉えています。
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1本目の映画は、「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」(フィリダ・ロイド 監督。脚本:アビ・モーガン )です。まず初めに、私は政治家の晩年、認知証になった元首相、しかも女性政治家の晩年は、映画にする価値があるだろうか…?と思いました。特に日本の政治家であったならば、恐らく日本の監督は製作できるかな…と思いました。私は、この一点だけでもフィリダ・ロイド 監督に拍手を送りたいです。次に、歴代総理大臣、例えば田中角栄の晩年は?、池田勇人の晩年は?、岸信介の晩年は?鳩山一郎の晩年は?吉田茂の晩年さえも、伝記風に描いた映画は、果たして映画的価値と魅力はあるだろうか…とも思いました。
認知症で夫の幻影と幻聴に苦しむ老いた元女性首相の老醜を、演劇演出も手がけたご存知「マンマミーヤ」でヒットを飛ばした女性監督、フィリダ・ロイドは、ガードマンやボディーガードを振り切って内緒でスーパーに買い物に行くサッチャー、小銭を財布から取り出して物価の値上がりに呪詛するサッチャー、夫との懐かしい出会いを回想するサッチャー、亡くなった夫のスーツを処分しようとしても捨てきれない愛着を示すサッチャーのディテールとルーチンを描く…。確かに政治の難局であった1982年のフォークランド紛争の決断も描かれていたが、どちらかと言うと老いてもお洒落に着飾ってディナーテーブルにつくサッチャーの姿であり、女らしい気遣いを夫に示す普段着のサッチャーを描くことに重点を置いてます。フィリダ・ロイド監督は、老いても尚、「女性」であり有り続けたサッチャーを映画に描きたかったのか…!伝記的な映画とはいえ、見応えがありました。
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2本目の「マリリン 7日間の恋」( サイモン・カーティス監督)は、ローレンス・オリヴィエ(ケネス・ブラナー)が監督と主演を握る「王子と踊子」の映画撮影のために英国を訪れたマリリン・モンローと、その撮影現場に立ち会った助監督のコリン(エディ・レッドメイン)とのつかの間の恋のエピソードを映画にしたものです。確かにセックスシンボルのような豊満な肉体を露骨にスクリーンで曝すお色気女優でも、乙女のような羞恥心や淡い純愛を心の奥底に秘めているかもしれません。或はそんな恋や純な心に憧れるかもしれない。がしかし、その虚飾のセクシャルな肉体表現も、男を手玉に取る大胆なポーズも、世間の注目を自分の体ひとつで向けさせるセンセーショナルな言動もー、それら全てが彼女の意識的で策略的な演技でないとするならばー、彼女は大女優として今まで世界中にそのような名声を残さなかっただろう…。そこにマリリンの真の姿などをあれこれと忖度する価値など愚の骨頂ではないかと、私は思います。だから私は、特にマリリンにも映画にも感想はありません。
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3本目は、「松山ケンイチ扮する不動産会社の小町と、瑛太が扮するコダマ鉄工所の息子二人が鉄道オタクを演する青春コメディー「僕達急行 A列車で行こう」(森田芳光監督)です。「あなたの趣味はなんですか…」と聞かれることがあります。履歴書などにも必ず「趣味」を書く欄があります。日本にもいろいろと変てこな≪オタク≫たちが居ます。明けても暮れても鉄道のことを、熱ぽく語る「鉄道マニア」は、それでも最近市民権を持ってきたが、その特異な趣味によっては依然変わり者扱いされかねないオタクもさまざまにあります。古くはオーソドックスな切手マニアやキーホルダーを集めるマニアがありましたが、「AKB48」を追いかけるアイドルファン、「スニーカー」に狂奔するマニア、ファンシーな文房具に目を輝かせるマニアなども、百人百様の「オタク」たちは、少しは一般的になりました。
ひとつの奇異な趣味やマニアも10年間ジッと続けると世間は認めるものですねー。そんなの儲からないよ…と揶揄される「虚業」も10年間ジッとコツコツ続ければ世の中が動いて社会に貢献できる利益のでる「実業」になるものです。
時代の最先端な「もの」は、郷愁と変わり、新しい世代の新しいものの出現によりやがて古くなり、古臭いものとして否定されます。新しいものは初め特異で異端な「もの」に見えて、マニアやオタクと嘲笑されますが、やがて「最先端」の「流行」となります。これが森田芳光監督の残したメッセージです。
ただ望みらくは、彼は中年の爛熟した愛を『失楽園』で見事に映画化しましたが、まだ若者の「性」を描いていないと思いました。余りに古典的な「恋と愛」過ぎてはいませんか?恐らく、園子温監督ならば下着泥棒マニアとか、アイドルの追いかけだとか、女装趣味とかーを登場させるだろうなと思いました。もはや、次作に期待したいとはいえないのが残念です。ご冥福をお祈りいたします。
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4本目の「スーパー・チューズデー」(ジョージ・クルーニー監督)では、主役はどちらかというと大統領選の候補者・ジョージ・クルーニー扮するマイク・モリス知事というよりも、大統領選挙キャンペーンで選挙戦略を練るスティーヴン(ライアン・ゴズリング)のような気がします。スティーヴンは、敵陣営の選挙参謀からのヘッドハンティングに疑惑を持たれ、忠誠心の欠如を理由にも解雇宣告されていました。ある時、選挙スタッフの若い女性インターン(エバン・レイチェル・ウッド)とマイクとの間に起こった女性スキャンダルー、スタッフの自殺事件の隠匿をネタに選挙参謀のトップに躍り出る。言わば、スティーヴン主役の政治ドラマといってもいいです。今、アメリカは大統領予備選挙の真っ最中です。お祭り騒ぎのような大統領選挙戦の裏に渦巻く陰謀と策略の政治的駆け引きは、金で権力を買う薄汚く醜い「非デモクラシー」「非理想」で満ちた醜悪は、目の前の現実政治を見る思いです。
日本でも自民党が政権奪取にために仕掛けた情報戦略、マスコミ操作、世論大衆誘導、司法権への圧力…があるなと気付きます。政権交代の後のスキャンダラスな政治家の汚職裁判、偽情報による落とし穴、政治資金疑惑の偽装…、いろいろな醜聞が浮かんできます…。今年予想される日本政治でも、お金と権力欲が渦巻く選挙戦ー、数の論理だけが先行する国会、主権在民や市民の公僕を忘れたアジテーションだけの維新、関西勢力から吹く強権政治の風、衆議院選挙での熾烈な選挙運動がいよいよ始まるぞー。アメリカ以上の政治ドラマが期待できそうです。さて、日本政治の選挙参謀・スティーヴンは誰なのかな?と新しい好奇心が湧きます。アメリカでコミュニケーション論を勉強した世耕かな…???
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5本目の「僕等がいた 前篇」(三木孝浩監督)は、いまどき珍しい一途な女の純愛と男同士の友情の青春ドラマだなと思いました。でも、七美をセックスへと誘惑する矢野が「お互いをもっと知るためにー」と口説くベッドシーンに、映画館内に「フゥー、キャー」という幽かな少女たちのため息が漏れていました。昔、お菓子のコマーシャルに「女って、リリックなのよーね」、「パロール…パロル…パロール…」というセリフがありましたが、女心は本当に言葉、コトバ、ことば、詞が女心の天地創造の初めにアリキで、言葉に反応し動くのですね・・・!
ただ、テレビドラマではないんだから、映画を前編後編に分けて上映するなー、私はパート1とパート2に分ける映画は大嫌いです。こんな姑息な上映方法で観客の気を引くなよーと言いたいです。でも、話題作を見逃しては拙いと思って一応見ました。見たものの率直な感想としては、こんな純愛ドラマをいまさら映画で長々と見たくなかったです…!テレビドラマで十分です。
それにしても、私は女高校生役の吉高のカワイコぶりっ子に、ついつい笑いをこらえられません。だって、彼女の「蛇にビアス」で演じた背中の刺青と大胆なヌードを思い浮かべてしまうし、矢野に扮する生田斗真とて、「源氏物語」で女を弄ぶ言わばブレーボーイを演じる彼を思い浮かべてしまいます。互いに惹かれ合い大人になっていく純愛ドラマには、ミスマッチでした。