推奨映画「恋の罪」★映画のMIKATA【45】監督★映画をMITAKA… | 流石埜魚水の【特選映画】、★映画のMIKATA★映画をMITAKA・・・

流石埜魚水の【特選映画】、★映画のMIKATA★映画をMITAKA・・・

都市生活者の心と言葉を掌にのせた小説、電脳化社会の記号とイルージョンを巡る映画、都市の孕むシンボルと深層を探るエッセイ、街の風景と季節の色を彩る短歌…。小説と映像とエッセイと短歌をブログに・・・掲載します。


◆映画情報

上映時間 144分/公開(日活)/初公開2011年11月12日/
オフィシャル・サイト
http://www.koi-tumi.com/

◆スタッフ

監督: 園子温/製作: 鳥羽乾二郎。大月俊倫/プロデューサー: 千葉善紀。飯塚信弘/企画: 國實瑞惠/脚本: 園子温/撮影: 谷川創平/編集: 伊藤潤一/音楽: 森永泰弘/照明: 金子康博/録音: 渡辺真司/

◆キャスト

水野美紀*吉田和子/冨樫真*尾沢美津子/神楽坂恵*菊池いずみ/児嶋一哉*正二/二階堂智*吉田正男/小林竜樹*カオル/五辻真吾*木村一男/深水元基* マティーニ真木/内田慈*土居エリ/町田マリー*マリー/岩松了*スーパーの店長/大方斐紗子* 尾沢志津/津田寛治*菊池由紀夫/


流石埜魚水の【特選映画】、★映画のMIKATA★映画をMITAKA・・・


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またまた、お待ちどうさまでした。11月下旬の推奨映画をアップロードします。映画館で観賞した映画は5本でした。1本目の映画は、「1911」(チャン・リー監督)。2本目は「マネーボール」(ベネット・ミラー 監督。脚本;アーロン・ソーキン)。3本目は、「コンテイジョン」(スティーブン・ソダーバーグ監督)。4本目は、「インモータルズ -神々の戦い-」(ターセム・シン監督)。5本目は「恋の罪」(園子温監督)でした。

1本目の映画は、「1911」(チャン・リー監督)です。辛亥革命100周年、ジャッキー・チェン映画出演100本記念の歴史巨編にあたります。ジャッキー・チェン自身が総監督を務め、孫文参謀の黄興を熱演しています。今までの彼の映画と雰囲気はガラリと異なり、おどけた笑い危ないスタントシーンもない、かなりシリアルな革命と戦場の映画です。孫文を「孫文-100年先を見た男-」のウィンストン・チャオが演じ、黄興の妻役に中国女優のリー・ビンビンが演じています。 監督は、『レッドクリフ』シリーズで撮影監督のチャン・リー。革命に犠牲はつき物だが、衰退する清王朝を武力で倒そうとする中国の歴史が大きく動くときの激動をよくここまでリアルに映像化しているなーと、私は感動しました。


孫文達を支援して、辛亥革命を支えた日本人・宮崎 滔天(みやざき とうてん)の名前も映画には忘れられていませんでした。だがしかし私には、辛亥革命を映像化しながらもここには、中国の官製歴史観ではなくて、ジャッキー・チェン自身の歴史観がないなーと、批評的に見ました。今までのジャッキー映画のように、ただ単に「辛亥革命」をバイオレンス・アクションドラマとして製作しているとならば、彼は中国歴史ドラマなど製作すべきではないなーと批判して見たくもなりました。


ハリウッドの映画文化の中で数々の名作を製作した中国人監督・ジョン・ウーが、敢えて「赤壁の戦い」を長編映画の『レッド・クリフ』(パート1・パート2)で製作したかった意図は、既にこのブログの2009年4月10日号より4回連載でコメントしています。ジョン・ウー監督の「戦争」に対する解釈は、圧倒的な大軍で攻撃を今まさに開始しようとする時に、曹操軍に和議を申し入れた美女「小喬」の洩らした言葉に表れています。民衆と兵士のためにこう呟きます。…戦争は勝っ方も、負けた方も大きな痛手を負う。…国は荒廃し、民衆が苦しむのものだ。…


ここに私は、戦乱と虐殺と貧困と政情不安の長い歴史の苦渋を飲んできた民衆の苦難を知っている中国人としてのジョン・ウーの歴史観と、アジアや中東に戦争や紛争の火種を蒔いて来たアメリカの映画監督としてのジヨン・ウーの゛愛と平和゛の人間観を垣間見た気がしました…。


率直に言って、「1911」を見ていて残念ながら革命家・孫文の歴史観も、参謀の黄興の民衆論も見えてこなかったなーという感想です。結局総監督を務めたジャッキー・チェン自身には、ジョン・ウー監督のような歴史観がないな…と思います。歴史観を持たない監督は、歴史ドラマを制作してはいけないよね…!

2本目は「マネーボール」(ベネット・ミラー 監督。脚本;アーロン・ソーキン)です。折りしも巨人軍の清武英利球団代表と、読売新聞社主で巨人軍オーナーの渡辺恒夫との間の騒動が真っ盛りなので、野球をめぐるこの映画は、あたかもこの映画のための絶好の宣伝のような気がしました。


騒動の中身は、江川をコーチにするのどうのという巨人軍のスタッフ人事に渡辺恒夫が大上段から横やりを入れて、それに「取材会見」という公の場で叛旗を翻したのが発端でした。それに対して、読売巨人軍の桃井恒和オーナー兼球団社長は、人事をめぐって渡辺恒雄球団会長を批判した清武球団代表の全ての役職を解いたと発表しまし。おまけに、長嶋終身名誉監督も、清武氏の言動は、巨人軍の長い歴史の中で、このようなことは酷いー今までなかったーと、コメントを発表した。これでチャンチャンと幕を閉じるのだろうかな…?


さて、映画「マネーボール」のストーリはこうです。メジャーリーグの貧乏球団「アスレチックス」のゼネラルマネージャーであるビリー・ビーン(ブラッド・ピット)は、貧乏球団のために年俸の高い優秀なプロ選手を雇えない。尚更にチームの連敗低迷は続くー。そこに、野球経験はないものの、エール大学を卒業した野球の未経験な経済理論家のピーター・ブランド(ジョナ・ヒル)という若者と出会う。彼は、野球選手データを≪出塁率≫という独自の視点で野球選手の評価・価値を分析する野球理論≪マネーボール≫を持っていた。ゼネラルマネージャーのビリー・ビーンは、ピーター・ブランドを球団に引き抜き、選手発掘の古株のスカウトマンや、球団監督アート・ハウ監督(フィリップ・シーモア・ホフマン)たちの反対を抑えて、≪マネーボール理論≫でメジャーリーグ優勝まで球団を育て上げる…胸の熱くなるスポーツ映画です。


巨人軍人事騒動の顛末を見るときに、日本の球団組織とアメリカのメジャーリーグの違い、オーナと球団ゼネラルマネージャー(球団代表)との関係の違いはあるとはいえ、ここでGMがオーナと電話で直接交渉しながらも、球団と選手に対して全責任を負いながらも、野球人事の全てを握っていることが、驚きでした。GMが恐れるのは、オーナと神だけだよーという映画の言葉は印象的でした。

3本目は、「コンテイジョン」(スティーブン・ソダーバーグ監督)です。地球全体を未知の強力な新種のウィルスが接触によって感染して、ウィルスの抗体も感染を抑えるワクチンも開発されない状態で、社会が混乱し行く恐怖を描くサスペンス・パニック・ムービーです。


ストーリは、ミッチ(マット・デイモン)の妻・ベス(グウィネス・パルトロー)は、香港への出張後にせきと熱の症状が出始め、子供にも感染する。そして香港、ロンドン、東京でも似たような正体不明の病状で亡くなる人が続出する…。恐怖の未知のウィルスが靜かに世界に蔓延し始める。


感染するウイルスが世界各地に拡大していく中で人々が異常なパニック状態に陥っていく「伝染病映画」は共通しています。これまで数々の名作がありました。例えば、「アウトブレイク」(ウォルフガング・ペーターゼン監督)は有名で、エボラ出血熱を連想させる致死率100%の殺人ウイルスが引き起こすパニックを描きました。先日もテレビで放映されていました。 このブログでも過去に『ハプニング』(2008年公開。M・ナイト・シャマラン監督)や『28日後』(2002年公開。ダニー・ボイル監督)、ゾンビ映画で知られるジョージ・A・ロメロがアメリカ軍の細菌兵器の事故による混乱を描いたパニック・ホラーをリメイクした『クレイジーズ』(2010年公開。ブレイク・アイズナー監督)もありました。それらから比較したときに、私はさほどの名作だとも特徴のある映画だとは思いませんでした。

4本目は、「インモータルズ -神々の戦い-」(ターセム・シン監督)。ストーリは、邪悪な王・ハイペリオン(ミッキー・ローク)が出現して、ギリシャを残酷無残に制覇し、世界をわが手におさめようとする。ハイペリオンの野望を阻止するためにゼウスに選ばれた若者が勇者テセウス(ヘンリー・カヴィル)であった。さらに、人間世界の命運を揺るがす人間と神々との戦いへと発展していく。


光の神である天上のオリンポスの神々と、闇の神タイタン族との壮大なスケールの戦いは、娯楽映画として楽しめた映画でした。ギリシャ神話の神々が主人公になった映画もまた数々の名作があります。「神話」が観客の想像力をかきたてる集合意識の≪根≫担っていて、映像化の貴重な共有財産にもなっているのではないでしょうか…!日本にも「古事記」等で表現されたアジア独特の神話や物語があります。近々公開を予定されている紫式部原作の『源氏物語』をサスペンス風に映画化した作品がありますが、日本の古典文学なども、ギリシャ神話のようにもっともっと映画の素材として映像化されてもいい気がします。

5本目は「恋の罪」(園子温監督)です。園子温監督作品は、既にこのブログでも、「冷たい熱帯魚」(2011年公開))や「愛のむきだし」(2008年公開)のコメントを載せています。新作が公開されるたびに、彼の映画テーマと、それを映像化する手法と脚本に、いつも魅力と関心を感じる私なので、お馴染みの監督の話題作には、見る前から可也の期待感で観賞しました。がややガックリしました。


映画のネタは、1997年5月21日に渋谷区円山町で立ちんぼの娼婦が殺害された、しかも容疑者としてネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリが逮捕されたー、という殺人事件でした。佐野眞一さんは、この殺人事件について『東電OL殺人事件』(新潮社2000年刊行)、『東電OL症候群』(新潮社2001年刊行)と続けて二冊のドキュメンタリー風のエッセイを発行しています。DNA鑑定による証拠再分析により再び「冤罪事件」として最近も話題になりました。センセーショナリーナな話題の焦点は、昼の顔は慶応大学卒業の大企業「東京電力」のエリート女子社員であり、夜は通りかがりのサラリーマンを相手に男達の一時の気まぐれな好奇心と欲望の対象である、渋谷の売春婦という、被害者の余りに想像を絶する逆転した「女の二重の顔」であった。


この「東電OL殺人件」を映画化したーと、先入観を持っていたので、プロットも主婦売春と女性の「性」と、家族制度に肉薄した作品であるーと思い、そこに園子温映画が、どこまで女の「心と性」の襞を視覚化出来るものなのかなー、を見たかったのですが…。私の採点と評価はやや厳しいです。悪くすると「ポルノ映画」になり、贔屓めに見ても週間大衆的な「ゴシップ映画」ではないのかなー、という感想です。そこに、映像による園子温風の視点と主張と「思想」がないな…という率直な不満があります。


特に後半の官能小説作家の妻であった純粋無垢であどけない主婦・いずみ(神楽坂恵)が、性の開放感に悦びを覚え、AV映画にのめり込むー。自分の存在証明を求めて堕ちて行き、自己喪失した彼女は、昼は日本文学のエリート助教授、夜は渋谷の立ちんぼの娼婦に変身する良家の令嬢・美津子(冨樫真)と巡り会うー。最後に港町の娼婦に転落するストーリは、どうも私には長編ゆえの蛇足にも思えました…!もう一つ、廃アパートで起きた女性変死体バラバラ殺人事件の担当刑事の和子(水野美紀)の、幸せな家庭を持ちながらも愛人との不倫関係もまたストーリを複雑というよりも、映画の焦点をボヤケさせる蛇足になっているのではないだろうかなな…。さらに敢えて言えば、詩人・田村隆一の「言葉なんか覚えなければ好かった…」とくり返し表現され、いずみと美津子の恰も映画の主旋律のような反復の呟きは、なんか詩でありながら言葉がチクハグで、違和感を感じました。なんかもっと映画にピッタリのフレーズがあったのではないでしょうか…。私にはこの田村隆一の一遍の詩のONEフレーズさえ蛇足に思えました。


流石埜魚水の【特選映画】、★映画のMIKATA★映画をMITAKA・・・