◆映画情報
上映時間 116分/ 劇場公開(アスミック・エース)/2011年8月5日/
オフィシャル・サイト
http://morse-movie.com/
◆スタッフ
監督: マット・リーヴス/製作: サイモン・オークス、アレックス・ブルナー、ガイ・イースト、 トビン・アームブラスト、ドナ・ジグリオッティ、ジョン・ノードリング、カール・モリンデル/製作総指揮: ナイジェル・シンクレア/ジョン・プタク、フィリップ・エルウェイ、フレドリク・マルンベリ/原作: ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト『MORSE-モールス-』(ハヤカワ文庫刊)/脚本: マット・リーヴス/オリジナル脚本: ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト/撮影: グレッグ・フレイザー/プロダクションデザイン: フォード・ホイーラー/衣装デザイン: メリッサ・ブルーニング/編集: スタン・サルファス/音楽: マイケル・ジアッキノ/音楽監修: リズ・ギャラチャー/
◆キャスト
コディ・スミット=マクフィー: オーウェン/クロエ・グレース・モレッツ: アビー
イライアス・コティーズ: 警官/ リチャード・ジェンキンス: 父親 /
8月上旬下旬の映画特選をアップロードします。映画館で観賞した映画は11本でした。1本目の映画は、「小川の辺」(篠原哲雄監督)。2本目は「復讐捜査線」( マーティン・キャンベル監督)。3本目は、「デビル」( ジョン・エリック・ドゥード監督)。4本目は、「ツリー・オブ・ライフ」(テレンス・マリック監督)。5本目は「メカニック」(サイモン・ウェスト監督)。6本目は、「乱反射ースノーフ」(谷口正晃監督)。 7本目は、「シャンハイ」( ミカエル・ハフストローム監督)。8本目の映画は、「うさぎドロップ」(SABU監督)。9本目は「モールス」(マット・リーヴス監督)。」10本目は「日輪の遺産」( 佐々部清監督)。11本目は、「神様のカルテ」(深川栄洋監督)でした。
さて、1本目の「小川の辺」は、このブログで既に8/4号にコメントを掲載しています。藤沢周平原作の映画化された時代劇としては8作目です。「必死剣鳥刺し」(2010年)、「 花のあと」(2009年)、「 山桜」(2008年)、「武士の一分」(2006年)、「蝉しぐれ」(2005年)、「 隠し剣鬼の爪」(2004年)、 「たそがれ清兵衛」(2002年)と、時代劇の好きな私は、映画館でほとんどを見尽くしています。ただ、「小川の辺」が一番面白くなかったです。何故ならば、ストーリに矛盾がありすぎる、つまり脚本を等閑にしているからではないでしょうか…!原作者が生きているのだから、藤沢周平に映画脚本を書いてもらえばいいのだが。
2本目の「復讐捜査線」は、ボストン警察の腕利き刑事トーマス(メル・ギブソン)が、最愛の娘を自宅の玄関先で射殺される…という悲劇が突然起きる。娘の殺人事件の謎を捜査している内に、政治家と癒着した軍事企業の核兵器開発に絡む陰謀にたどり着く。福島原発が騒がれている最中なので、放射能汚染の問題などが絡んでいて、皮肉にも極めて今日的な映画かな…と思いました。
3本目の「デビル」は、既に8/5号でコメントを掲載しています。「シックス・センス」のあのナイト・シャマラン監督が製作した映画だというので、勿論、ドキドキするようなサイスペンスと、ワクワクするようなどんでん返しを期待していましたが、「なんだーよ、えー、これが本当にー」、「面白くないねー」と、悪たれをつきたくなるような駄作でした。この失敗の原因は何故か…?彼はまた若手の後進を育てる余裕はない筈。彼は自分の才能の全力をぶつけて一作一作を製作すべきなのだが…!余りに自分の労力を惜しんでしまったのが残念です。
4本目の「ツリー・オブ・ライフ」は、地球生命の誕生から人間の創生まで1本の映画フィルムにまとめようとする大胆な企画なのだが、私は些か無理のある映画企画だと思いました。このテーマは映像では持て余す哲学的な難問です。
人間が生きるには「力」こそ必要と信じる父の軋轢と、慈しみと愛を注ぎ続け聖母のようなる母に育てられたジャックは、自分の子ども時代を、「トラウマ」のように回想する。1950年代半ばの、中央テキサスの田舎町の平凡な一家の物語を横糸に、壮大な地球生成の中で命を発達させる生物や動物の映像を縦糸に挿入した映画なのだが、折角のショーン・ペンやブラッド・ピットなどのベテラン役者を登用しているのも関らず、演技が活かされていないなーと残念な気がしました。余りに自然や生きもの達の抽象的な映像が多くて、まるで今上映中の「ライフ」を見ているようでもありました。私は巨匠テレンス・マリック監督の失敗作であると思います。
5本目の★★★「メカニック」は、殺しの証拠をまったく残さず、一寸の狂いもなくて機械的に完璧に暗殺を完遂することから「メカニック」と呼ばれる殺し屋のアクション映画です。ただ、主演の「ジェイソン・ステイサム」といえば、あの『トランスポーター』シリーズや、『アドレナリン』などの過激なアクション俳優として活躍しているので、どれもこれも似たようなアクションシーンに見えてしまう。ただ、娯楽映画としての見る価値は充分あります。
6本目の「乱反射ースノーフ」は、既に8/17号で掲載しています。 『乱反射』は、高校時代に角川短歌賞を受賞した歌人の「小島なお」が、17~20歳に詠んだ歌集が映画の原作となっています。女子高校生の抱く青く未熟な恋心と、男女の心の動揺を、背伸びせずに瑞々しく描いています。主演の桐谷美鈴は、現代娘の多感な実態をよく演じているなと思います。もう少し、俵万智と同様に、作者の小島なおを映画のどこかに登場させて欲しかったです。
7本目の「シャンハイ」は、太平洋戦争開戦直前、日本の真珠湾攻撃前夜の上海・租界を舞台に、イギリス、アメリカ、日本、中国の列国諸国がスパイ合戦を繰り広げる映画です。米国諜報員のポール・ソームスは、親友の諜報員コナーが日本租界で殺されたと聞き、情報を嗅ぎまわる…。出演俳優は、ジョン・キューザック(米国)、コン・リー(中国)、チョウ・ユンファ(香港)、渡辺謙(日本)、菊地凛子(日本)たち人気俳優が顔を揃えていますが、スパイ映画としてそれほどの秀作とは思いません。
8本目の「うさぎドロップ」のコメントは、8/28号で既に掲載しています。近頃のl流行語≪イクメン≫に乗っかって、かなりアイドルぽっい映画…と決めていましたが、意外に古いアメリカの子育て映画、あの『クレイマー、クレイマー』(監督・脚本:ロバート・ベントン。原題: Kramer vs. Kramer、1979年公開)のダスティン・ホフマンを彷彿とさせました。
不器用な男の子育て論の映画そのものです。もうこの映画は立派な邦画の松山ケンイチ版の「クレイマー、クレイマー」です。本当の「家族」とは何か…、「男」にとって子育てとは…?、「父親」にとって子供の成長とは何か…?ということさえ考えさせる、極めて今日的な問題を含んだ映画です…。
姉さん女房の小雪(34)と結婚会見をした松山ケンイチ(26)主演のこの映画は、二人に何時、芦田愛菜ちゃんのような可愛い赤ちゃんが出来るのか…、二人の家庭を想像しながら映画を見ました。
9本目の★「モールス」は、なんとも不可思議なホラー・ストーリと奇妙な愛の物語です。スウェーデン映画『ぼくのエリ 200歳の少女』(2008年。トーマス・アルフレッドソン監督)の原作であるヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストの小説『MORSE -モールス-』をマット・リーヴスが監督した作品です。今月の特選映画に選びました。ただ難を言えば、この「モールス」と「ぼくのエリ 200歳の少女」は、監督は違っていても原作者が同じなので、ストーリ設定も展開も似ていて、なんか同じ映画を見ているようです。私の無知を曝すようですが、他のブログを読むとこの作品はリメイク版のようですね。でも私には、リメイク版のほうが出来はいいですね…。
ニューメキシコ州ロスアラモスを舞台に、離婚係争中の母一人、少年一人の淋しい家族で、優しさと気弱さと孤独を抱える12歳の少年オーウェン(コディ・スミット=マクフィー)と、その隣に引っ越して来た裸足でいつもひとりで居る謎の少女アビー(クロエ・モレッツ)との幼く淡い恋物語なのだがー。この物語の面白い点は、実は少女アビーは人間の血を吸うパンパイアというホラー映画の一面も持っているところです。
ある日、学校の水泳教室で泳いでいたオーウェンは、いつも彼にチョッカイの手を出す四人の悪がきと兄の不良少年に溺れさせられる。その場に突然、吸血少女のアビーが駆けつけて助ける。
普段の少女アビーは、ルービックキュービの四面四色の色あわせを解いてしまう知能も、壁越しにオーウェンとモールス信号で心を通わせる智恵も持っている、オーウェンと抱擁しながら少女らしい優しさの感情も持っている。普段は、人間らしい心情に溢れているのだが…。従来の狼少女やバンパイヤーや吸血鬼ドラキラとは、一捻りした面白いストーリ展開と二面性を持ってます。
不良たちの血だらけの惨殺死体が水面に浮いた次の日、オーウェンは、連続猟奇殺人の可愛い殺人鬼、しかし、孤独を癒してくれる仲良しの友達・アビーとともに、見知らぬ土地へ走る列車で逃避する。
日本文学史には、上田秋成や泉鏡花や芥川龍之介等々のホラーの身の毛もよだつような物語と説話文学の系譜があるのだが、私は現状のホラー映画を見ると、怪奇現象やキリスト教の伝統的な奇跡と恐怖のストーリが多いです。日本にも古い仏教文化に根ざしたホラーと救済の伝統があるのに、にもかかわらず映画の脚本や原作は、あいも変わら手を抜いたチープで十字架のホラーが極めて多いです。
10本目の★★「日輪の遺産」は、9/2号で既に掲載しています。天皇が敗戦宣告の玉音放送をする敗戦直前に、「マレーの虎」と呼ばれた山下陸軍大将が密かに運んだ約200兆円のマッカーサーの莫大な金塊を、多摩の「武蔵小玉」(映画では私には「武蔵小山」と見えたのですが…、原作小説では「武蔵小玉市」)の兵器工場の防空壕に隠匿するという、今でもその敗戦国前夜の実しやかな虚虚実実の財宝埋蔵ロマンを真実と思っている日本人が未だにいるようです。浅田次郎の「日輪の遺産」の「終章」には、服毒の顛末が書かれているのですが、映画には、その小説のシーンが省かれているのでした。生徒の一人が、…ねえ、みんないっしょに死のう。みんなで鬼になってこの宝物をまもろう…と呼びかけて小説は終ります。私は、娯楽映画としても充分な見応えがありました。
11本目の「神様のカルテ」は、嵐の櫻井翔が医師役で、その妻が宮崎あおいが演じるとなれば、アイドル映画かなーと思っていたが、意外や意外で結構、ヒューマンドラマでした。
松本の「本庄病院」の医師・栗原一止を演じ櫻井翔も、体当たりのシリアルな演技が好かったです。アイドルの嵐も演技が出来るのだ…と見直しました。地方都市の24時間365日体制の救急医療の病院は、きっとこんな風に医師不足で、患者が待合室に溢れー、死の近い末期がんの患者に、ターミナルケアなど施されないのだろうなー等々の問題を、私たちに痛切に想像させる事ができました。ただ、いま一つ、日本の医療問題と、病院制度そのものの問題をよりリアルに抉り出してほしいな、とお願いしたいです。私は今まで、邦画の医療映画で鋭い問題作を見たことがありません…。これは私の驕りでしょうか?