◆スタッフ
監督: 本木克英/ 製作: 野田助嗣/プロデューサー: 矢島孝・野地千秋/原作: 万城目学『鴨川ホルモー』(産業編集センター刊)/脚本: 経塚丸雄/撮影: 江原祥二/美術: 西村貴志/編集: 川瀬功/振付: パパイヤ鈴木/
音楽: 周防義和/音楽プロデューサー: 小野寺重之/音響効果: 岡瀬晶彦/主題歌: Base Ball Bear『神々LOOKS YOU』 /VFX: GONZO ・ Cine Griot /サウンドデザイン: 岸田和美/照明: 土野宏志/録音: 中路豊隆/ 助監督: 井上昌典
◆キャスト
山田孝之ー 安倍明/栗山千明ー 楠木ふみ/ 濱田岳ー 高村幸一/石田卓也ー 芦屋満/ 芦名星ー 早良京子/
斉藤祥太ー 三好(兄)/斉藤慶太ー 三好(弟)/ 渡部豪太ー 松永/藤間宇宙ー 紀野/梅林亮太ー 坂上/和田正人ー 清森平/趙民和ー 柿本赤人/三村恭代ー 竜造寺富子/大谷英子ー 細川珠美/ オジンオズボーンー 上回生/佐藤めぐみー 立花美伽/パパイヤ鈴木ー 鈴鬼玄斎 /笑福亭鶴光ー ホルモー解説者/石橋蓮司ー 居酒屋「べろべろばあ」店長/荒川良々ー 菅原真 /
◆フィルムデータ
上映時間: 113分/ 製作国 : 日本/公開情報: 劇場公開(松竹)/初公開年月 : 2009/04/18 /
公式サイ ト:http://www.horumo.jp/index.html
私は未だに昨年の映画に拘泥しています。ところが、見始めると切が無いもので、次から次とまだまだたくさんあります。去年2009年公開のいい映画がー、捨てがたい映画がー、魅力ある映画がたくさんあります。また、見逃してしまった感涙の秀作もあります。大作名作ではないが、小粒でもピリリと辛い旧作もあります。しかも映画独特のゆったりとした寛ぎの時間を過ごせる映画もあります…。
園子温監督の「愛のむきだし」もその一本でした。今月はその後、次々といろいろな映画を見ました。私は、すっかり閉じこもりになってしまいました。三木聡監督の「インスタント沼」も、ゆったりと古老の昔話に耳を傾けるような、民話の味わいをもった捨てがたい魅力がありました。
宮藤官九郎の演劇用の脚本を細野ひで晃監督が映画化した「鈍獣」も、彼固有の屈折したキャラクターが、荒唐無稽な笑いを仕掛けていました。
西川美和監督・脚本の「ディア・ドクター」も、笑福亭鶴瓶、瑛太、笹野高史、余貴美子、八千草薫、井川遥等等の手堅いベテラン俳優と個性派俳優が勢揃いした映画でした。映画のテーマもストーリも、へき地医療と高齢化社会という世相を映像化した鋭い社会性を持ち、なおかつ、医師を演じる映画初主演の笑福亭鶴瓶のほんのりとした人間味がジワーと伝わり、平凡でヒーマンなテレビドラマとは異なり、やはり捨てがたい魅力にしています。これは、「落語娘」に似た落語の世界なのかも知れません…。
タナダユキ監督・脚本の「百万円と苦虫女」も、はみ出し者のほろ苦く切ない女を蒼井優が演じて見応えがありました。小粒でもピリリと辛い現代感覚の女を堪能できました。
そして、万城目学原作、本木克英監督の「鴨川ホルモー」もまた、若者の滑稽で旺盛なエネルギーと、祭りの混沌としたざわめきと、魑魅魍魎の棲むおどろおどろしい千年王国・京都の魔性があふれていて、最高に面白かったです。荒唐無稽でバカバカしく、劇画風な可笑しい演出は、今までにない魅力がありました。
21世紀の地平を眺望する邦画が少なく、映画監督の演出・脚本に、まだまだ迫力を欠き、軽い「笑い」と軽い「恋」に流れているのは、この時代の、この日本の輪郭を見定めていないのかなーと、漠然と思いました。
そこで…、山本兼一原作、田中光敏監督の「火天の城」も、山崎豊子原作、若松節朗監督の「沈まぬ太陽」も、確かに大作で秀作なのだけれども、、やはり呆れるようなバカらしさに思わず笑いが噴き出してしまう、「鴨川ホルモー」を、今年の第二弾のブログに書くことにしました。
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二浪して見事京都大学へ入学した安倍(山田孝之)は、大学に入学して間もなく、上賀茂神社の葵祭のエキストラのアルバイトを終えて、偶然に知り合った同じ新入生の高村(濱田岳)と共に帰る途中、やはり京都大学の先輩、 菅原真「スガ氏」 (荒川良々)から「京都大学青竜会」という得体の知れないサークルの勧誘を受けます。チラシには「一緒にENJOYしませんか?」と書いてありました。
安倍と高村は、京大青竜会へ入会するでもしないでもなく、どこか間の抜けたスガ氏の顔に安心して、一食ただ食いする程度の興味本位で三条木屋町の居酒屋「べろべろばあ」の新歓コンパに参加する。が、その席で早良京子(芦名星)という女性に一目惚れする。彼女の「鼻」は、凛として清冽で品格があった。ひょんな偶然から深夜の彼女と行き連れになり、下宿先に泊める…。そして彼女に近づきたい一心で青龍会にも入会してしまう。
リクリエーションサークルだと思っていた青竜会だが、やがてこのサークルの隠された目的が、京都を舞台に千年続く摩訶不思議な祭「ホルモー」の会、鬼や式神を使って争う謎の競技「ホルモー」の戦士であることを知ることになります。
サークルが徐々に明らかになっていくにつれて、その実態は、「オニ」を操りながら争い事をする奇妙奇天烈な謎の祭り「ホルモー」を行う伝統と格式を持つ千年王国・京都の魔的な儀式を継承するサークルでした。スガ氏は実は青龍会第四百九十九代目会長でした。
ある日呼び出しがあり、祇園祭の宵山の四条河原に集合する。そこには藍染めの青の浴衣を着た上級生たちが勢揃いしていた。この「宵山協定」が解除された日に、スガ氏から「ホルモー」の実体が新入生に告知されます。
時刻は七時半、人ごみで混雑する四条烏丸交差点のまん中に、東ノ青龍、南の朱雀、西ノ白虎、北ノ玄武の面々が、四つ巴に対峙する。宵山の祇園囃がコンチキチン…。
小説では、…鞍馬山で天狗に出会う、大江山で酒呑童子に出会う、今出川通で百鬼夜行に出会う、そんな気分…と言われています。京都の歴史的ミステリースポットがならんでいます。
四色の浴衣が交差点の中心で厳粛に出会います…。京都産業大学玄武組、立命館大学白虎組、龍谷大学フェニックス、京都大学青龍会が集まり、ホルモーを担う新しいメンバーが確定される儀式「四条烏丸交差点の会」が知らずしらず、雑踏の真ん中で展開されます。
あい間あい間に、奇妙奇天烈なオニ語やらのホルモー訓練がありました。そして吉田神道の発生の地「吉田神社」で、「吉田代替わりの儀」がいよいよ執り行われます。…吉田神社の鳥居はまるで魔界への入口のように、暗闇にばっかり大口を開けて、我々を待ち構えていた…と書かれています。
女人禁制の吉田神社の深夜に本殿前で、男たちは全裸で可笑しい裸踊りの儀式を繰り広げます。スガ氏も誰も彼もが恍惚と、まるでオニたちへ捧げる儀式のように踊り狂います。新人の皆も呆気に取られながらも、魅せられて酔いしれて服を脱いで踊り初めます。なんと小林亜星のレナウンのCMソングを、皆で踊り狂い歌い狂い、お尻を振り振り暗闇に狂態を曝しています…。
ドライヴウェイに春が来りゃ イェ・イェ・イェ イェイェイェ
ドライヴウェイに春が来りゃ イェ・イェ・イェ イェイェイェ うっふーん
最後に、生い茂る木立の影に「茶巾絞りのお菓子」のようなオニが姿を現し、きゅるきゅるーと笑う。ここがこの映画の滑稽で可笑しい処です…。
この「オニ語」なるものをちょっとご紹介しておきます。下記のサイトで訳のわからないコトバがまとめられています。この「オニ語」とホルモーの「しぐさ」は、万城目学の原作小説とはまた一味異なる、映画独特の可笑しさと滑稽さを増幅しています。これは、スタッフとして参加している監督と振り付け師パパイア鈴木の勝利かもしれませんね…。
「ぐああいっぎうえぇ」(進め・攻撃の際の基本語)
「ふぎゅいっぱぐぁ」(止まれ)
「くぉんくぉんくぉんくぉん」(走れ走れ)
「バゴンチョリー」(取り囲め)
「ゲロンチョリー」(潰せ)
「ド・ゲロンチョリー」(ぶっ潰せ)
「ブリ・ド・ゲロンチョリー」(マジ、ぶっ潰せ)
「アガベー」(飛びかかれ)
「吉田代替わりの儀」を終え、彼等はホルモーのヘンテコで摩訶不思議的な世界に引き込まれることとなります。
二年に一度の代替わりをする京大青龍会に、安部、高村、早良、芦屋、楠木、三好兄弟、松永、坂上、紀野の10名が参加して、第500代目京大青竜会はホルモーの練習を重ね、いよいよ初戦に臨むこととなります。
初めに、オニたちを巧みに操るエリート意識の強い芦屋の活躍で優位に戦いを進めた京大青竜会だったがー、高村の失策により思わぬ敗北を喫してしまいます。このとき、オニが次々に昇天してオニたちが全滅した時に高村は、断末魔の叫び「ホルモー…!」と大声で雄叫びを張りあげる。京大青竜会の新人たちは、初めてホルモーの恐ろしさを知ることとなる。
敗戦が原因で、高村はショポクレて姿を見せなくなり、安倍は安部でまた、淡い恋心を抱く早良が芦屋(石田卓也)と交際していることを知り、ハトートブレイクの果てに落胆して傷心に沈む。なんとなんと、高村の下宿を訪れた安部は、チャン髷姿の高村に唖然とする。天下をとった信長に模して、天下人も一炊の夢とー、青春の憂いと空しさを振り払おうとする。この辺りは抱腹絶倒です。
安倍と高木は、ホルモーの練習を拒絶するようになるのだが…。安部は、起死回生の案を実行するために奔走する。芦屋とは別のチームを組んで、各校のチームを2分して全8チームとする特別ルール「17条ホルモー」で、ホルモーを続行する手立てを模索するものだった。
この映画が持つもう一つの魅力は、さらに京都を舞台に、若い大学生たちの淡い恋とハチャメチャな青春を描いた青春ドラマである点です。
安部と早良と芦屋の激しい恋の三角関係、安部と早良と楠木(栗山千明)の初恋片思いの三角関係もナにか青春映画でホノボノと残酷でした…。楠木の采配によって勝ち進み、決勝戦は、芦屋率いる「京大青竜会神撰組」との対戦となりました。まるで、三角関係同士の鍔迫り合いです。
そして、三回生となった安倍たちの後日談が語られ、物語は終わります。
★ホルモー入門Vol.1~3=短縮版。この続編はまだまだあります。
http://www.youtube.com/watch?v=5WtM6VHilfY&NR=1
http://www.youtube.com/watch?v=t1dbsqfnKNs&feature=channel
http://www.youtube.com/watch?v=YnUKqaUbkI0&feature=channel
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京都の古い歴史と連綿と続く伝統文化は、奇奇怪怪なスポットと、不思議な儀式と奥深い伝統と伝承を今に残しています。時代小説の騎手で、先般、NHKの大河ドラマ「天地人」の作者でもあった火坂雅志が、「京都秘密の魔界図」(青春出版)という本を書いています。
修学旅行以来、仕事以外で京都を訪れたことのない私なので、京都をゆっくり散策したことがありません。そこで、「京都」を知りたいと思い、火坂雅志氏の本を読んだり、梅原猛氏の「京都発見」(全四巻、新潮社)を捲ったり、五木寛之氏の「百寺巡礼ー京都」(講談社)のエッセイを読んだりしました。
さてさて、桜の花が咲く春には、是非とも深夜の京都を散歩したいものです…。あー、わが世の春は何時来るのかな…。
下記URLで短歌のブログ、≪アーバン短歌≫を掲載しています。映画とはまた異次元の言語空間です。宜しかったらお立ち寄りください。 http://sasuganogyosui.at.webry.info/