№139 「終わりまであとどれくらいだろう」 桜井鈴茂 | 流石奇屋~書評の間

№139 「終わりまであとどれくらいだろう」 桜井鈴茂

「アレルヤ」の桜井氏。新作といえば新作です。
ある一日の”どん詰まりな”6人の男女の日常を、独特の文体・構成で書き上げた作品。
ほんの少し浮世離れした6人の極めて小説的でない日常を淡々と表現すること自体は、好感が持てました。
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桜井 鈴茂
終わりまであとどれくらいだろう
出版元
双葉社
初版刊行年月
2005/05
著者/編者
桜井鈴茂
総評 18点/30点満点中
採点の詳細
ストーリ性:3点 
読了感:3点 
ぐいぐい:3点 
キャラ立ち:3点 
意外性:3点 
装丁:3点

あらすじ
2003年4月5日。桜の咲き乱れる東京。6人の男女のある一日の日常。それぞれが、何かから這い上がろうとし、それぞれが、何かに諦めている。


まずは、桜井氏の独特の文体のご紹介。
相変わらずの〔句読点「。」の間隔を、無理やり伸ばし、息が続く限り語りつくすような特徴的な文体〕です。(アレルヤの読後感想 より、そのまんま抜粋)
前作「アレルヤ」で、こういった文体であることを理解して読んでいたので、まったく抵抗はなかったのです。そういえば、舞城王太郎氏の作品にもこういった感じありましたね。
行間・文字間がまったくない、空白恐怖症の人が書いたような文章
読むのが慣れてしまうと、なんだか言葉に勢いがでている雰囲気です。

で、加えて、本作品は改行にも工夫(?)があります。
普通、改行すれば文頭は2文字目(最近は1文字目)になるのですが、本書は、前文の文末の次の文字。
・・・よく分りませんね。
要するに文章を改行せずに記述したあとに、左右から引き離した感じ。
・・・むむむ、分りづらい。
テトリス画面を横に倒して、ブロックが消える瞬間
・・・
・・・
ま、こういったちょっとした拘りってのが、好きな人には良いでしょう(私は、「好きな人」の部類です)

閑話休題

ストーリは、2003年4月のたった1日の朝から夜中までの日常を書いています。
6人のそれぞれの章が入り乱れて、基本的なルールは朝からなのですが、(意図的に)時系列順ではありません。
この辺りの雰囲気は伊坂幸太郎氏の「ラッシュライフ」に似たような感じです。
ただ、つながい★かすみさんが徹底分析された仕掛け のようなものはございません。

この6人の日常で、交差する瞬間がそれぞれにあり(ある場合は直接的に、ある場合は、間接的に)、ラストはバー・ファー・ウエストに、全員(時間差はありながらも)集います。
ここまできて、本書は「2003年4月5日の夜にバー・ファー・ウエストに来た男女6人の、その日の話」ということが分るわけです。

前述したように、「やや浮世離れした6人」の「極めて小説的でないただの日常」を表現しているのですが、やっぱり文体の妙からかドライブ感があり、決して飽きさせません。
読了感は人それぞれではありますが、終章にあたる「ウチムラ・サヤカ」の章の最後の最後の方に、この小説のメッセージのようなものが隠されていて、ちょっとだけ爽快になったりもします(極めて詩的ではありますけど)

さて本書は、「アレルヤ」の主人公吉永シロウがちょっとだけ登場します。
しかも、ある登場人物の「いとこ」として、ある言葉を残します。
この関連性を持つことで、本書が、アレルヤの時系列的な続編であり、シロウがそれなりに自分の夢に向かっていくことが分ったりしてそれなりにうむうむと思ったものです。(このあたりも伊坂作品に通じますかね)
本書を読む際は、是非、先に「アレルヤ」を読了いただければと思います。