結婚して4年目、元妻が妊娠した。

 

初めてお腹の子の心音を聞いたときを今でもよく覚えている。

その日、僕は資格試験を受けていた。

帰り道、元妻から心音のデータが送られてきた。イヤホンで再生すると、

 

タンタンタンタンタンタンタンタン!

 

速く、小さく、でも力強い音が鳴っていた。そこに確かに命があった。

 

元妻は里帰り出産のため、予定日の2か月前に実家へ帰った。

予定日の約1か月前、元妻が突然破水し、地元の大きな県立病院へ入院することになった。

破水したとはいえ、すぐに生まれるとは限らない。
東京からいつ向かうべきか、少し迷った。

そんなに長く仕事を休めない。生まれてからでもいいのかもしれない。

そんなことも考えたけれど、結局、思い立ったタイミングで向かうことにした。

コロナ検査を受けてから飛行機で、元妻の地元へ向かった。

 

長い移動を終え、元妻の実家で「今日はもう寝よう」と布団に入る準備をしていたころ、携帯が鳴った。

病院からだった。

「今すぐではありませんが、生まれるかもしれません。病院に来てください」

思い切って向かったその日の夜に、病院から連絡が入った。これはもってる。

 

元妻のお母さんと病院へ向かう車の中で、これから本当に子どもが生まれるんだという実感が、ようやく追いついてきた。

緊張していたのか、興奮していたのか。
たぶん、その両方だった。

胸の奥が妙にざわざわして、眠気なんて完全に吹き飛んでいた。

 

日付が変わるころには生まれるかもしれない。

そんな話だったと思う。

ところが日付はあっさり変わり、1時、2時、3時。

僕らは薄暗く静まり返った病院の廊下で、ひたすら待ち続けた。

そして朝4時ごろ、突然、分娩室に呼ばれた。

薄暗く静まり返った廊下とは対照的に、分娩室の中は明るく、人の声と動きに満ちていた。

その熱気に圧倒されているうちに、息子は生まれた。

小さく、弱々しく、それでも確かに泣いていた。

 

病院を出ると、外はもう朝だった。

大雨で空はどんよりと曇っていた。それでも、病院の中から外へ出ると、そこにはちゃんと朝の光があった。

そして僕は父親になっていた。

不思議な朝だった。

今でも、あの日の雨をよく覚えている。

 

病院から戻ると、次は息子の名前を決めるという大仕事が待っていた。

提出期限が1か月早まったが、こんなにやりがいのある宿題はない。

とにかく字画にこだわりすぎて難航したが、ようやく納得のいく名前にたどり着いた。

今は苗字こそ変わってしまったが、新しい苗字との字画もそんなに悪くなさそうなので、そこはよかった。