Believe 49 | 山風に吹かれた櫻葉へのつぶやき。

山風に吹かれた櫻葉へのつぶやき。

ある時は嵐情報。またある時は櫻葉妄想小説。自由に生きております。
腐寄りにつきノーマルアラシックさまは速やかにご退出くださいませ。

つながる花2Believe1/48




Believe 49/Side-S





⚠️CAUTION⚠️

⚠️まだまだ存在がダメ、名前も見るのもイヤ、という仔羊ちゃんは暫し読むのをお控えください⚠️


























「・・・」


「・・・」





帰りのタクシーの中、俺たちは言葉を交わすことなく


ただ、脱いだスプリングコートの下でこっそりと手を繋ぎ合っていた。





指先から伝わる雅紀の体温はいつもより低く、


でもそれは決して不安要素ではないというのは


窓の外を眺める雅紀の、クイと上がった口角が示していた。





左手を繋いだまま、右手でスマホを取り出す。





『早く帰って抱き締めたい』





俺が送った文字は


雅紀の掌の中で液晶に浮き上がった。




チラリと視線を上げて雅紀を見ると、


形の良い唇を薄く開き、サッと頬を紅く染めてスマホから視線を逸らした。





指を絡めたまま親指で雅紀の親指を撫でてやると、


指を入れ替えて同じように雅紀も俺の親指を撫でる。




その感触は俺の腰にゾワリとした鈍い刺激を生み、


タクシーの進みを滞らせるテールランプの波を恨めしく思わせた。





「どうも、」





タクシーを降り


足早にマンションへと向かう。




エレベーターの中で雅紀に触れたかったのにタイミング悪く管理人の方が乗り合わせ、


挨拶は交わしたものの微妙な沈黙。




見つめる電光板が俺の部屋の階数を示し、間も無く扉が開いた。





「じゃ、おやすみなさい、」

「はい、おやすみなさい。今日もお疲れ様でしたね。」

「おやすみなさぁい、」





互いに挨拶を交わし


雅紀と共にハコを出る。




キーチェーンを鳴らしドアにキーを差し込むと、


横から雅紀が早く早くと急かすように覗き込み、開いたドアに滑り込んだ



俺は右手でドアを勢いよく開き、閉まるのはドアの重さに任せて雅紀の後に続くと





「しょぉちゃん!」





と小さく叫んだ雅紀が


首元めがけて飛びついてきた。





「雅紀、」


「しょぉちゃん、」


「雅紀・・・!」





互いにギュウギュウに抱き締め合う。




張り詰めていた糸が、空気が、一気に緩み



この世に雅紀さえいれば何も要らないと、


そんな陳腐な考えが脳内に溢れ



でもそれはシンプルで最上(さいじょう)の幸せ以外の何物でもない、尊い感情だった。





「しょぉちゃん、」





鼻にかかった甘い声が


俺の肩の上でくぐもって切なさを煽る。




腕から力を抜くと、呼応するように雅紀もふわりと力を緩めて


至近距離で視線が交わった。




黒目がちなまぁるい瞳に


瞬きをしたら溢れそうなほどの水分をたたえ、


雅紀は何か伝えたそうに微笑むと瞳を閉じた。



その頬に涙が伝わるよりも早く


雅紀の唇にそっと触れ



柔らかな感触を食(は)むように確かめると、


俺の特権だと誇示するように遠慮なく舌を差し入れ、貪った。





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