これまでのお話
Moon#5
・・・ところが湯を張りに行ってから、いつまで経っても雅紀が戻って来ない。
「風呂入れるって・・・ なんだよついでにシャワーかよ?」
その割には何の音もしない浴室の方へと様子を見に行ってみると、洗面所の前で雅紀が蹲(うずくま)っていた。
「!!・・・雅紀っ?!」
慌てて駆け寄ると、雅紀はぐったりとして固く目を閉じていた。
「雅紀っ!どーしたんだよっ!おいっ!大丈夫か?!」
「・・・しょ・・・ちゃ・・・」
目を閉じたまま、抱き寄せた俺に身体を任せて聞き取れないほどの小さな声で呟く。
「んぅ・・・気持ち・・・わる・・・」
咄嗟にさっき雅紀が一気に飲み干した小瓶を思い出して、死ぬほど後悔した。
「雅紀、吐け!さっき飲んだやつのせいだろ、早く出さないと!」
両脇に腕を入れ、支えて立たせようとすると雅紀は僅かに首を振る。
「・・・動け・・・なぃ・・・目ぇ回ってて・・・チカラ・・・入んな・・・」
ハァハァと肩で浅い呼吸をして、よく見ると、額にはじっとりと汗が滲んでいた。
「待ってろ、今 救急車呼ぶから!」
そう言って立ち上がろうとした俺の服の端を弱々しく掴んで、雅紀はまた僅かに首を振ってみせた。
「・・・だめ・・・それ・・・ぜったいだめぇ・・・だいじょぉ・・・から・・・」
ほんの一瞬だけ、目を開けて俺を見上げる。
「だって・・・!!」
「も・・ちょっと・・・休ん、・・・だいじょ・・・から・・・ね・・・?」
弱々しく笑顔を作って見せると、そのまま気を失うように腕の中へと崩れ落ちて来た。
「雅紀・・・?雅紀!」
どうしたらいいのか、途方に暮れる。
あぁ、俺は何て事してしまったんだろう。
今、どうするべきかも分からず、ただただ、腕の中の雅紀を見つめるしかなかった。
とにかく、楽になるよう横にさせて・・・スウェットの腰紐を緩めて、飲めそうなら飲ませられるよう水を用意して。
「クッソ・・・!」
人生でこれほどまでに自分の軽率さを悔んだことはなかった。
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